藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2001年12月7日金曜日

決済手段を手に入れつつあるC2Cマーケット

(2001年12月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

急激に成長しているネットオークションはB2Cと別にC2Cビジネス(P2Pビジネスと言われる場合もある)と言われている。米国でも多くの.com系ビジネスが淘汰される中でebayだけはダントツの成長をみせている。この成長の要因のひとつに個人間決済の広がりがある。米国ではpaypalというサービスが電子メールだけで簡単に個人間決済ができるサービスがebayで採用され,利用者の間で急速に広まった。今では1100万人以上の利用者を抱えるサービスにまで成長している。日本でもYahoo!オークションでジャパンネットバンクなどが個人間決済をサポートし始めたために,利用が広まっている。Niftyも個人間決済を20023月から行うとアナウンスしており,オークションに限らず個人間で貨幣価値を交換しあう仕組みが整いつつある。

まだまだ提供者側の工夫の余地が大きいB2Cの世界と異なり,日本のインターネットで確実に根付いたのはC2Cの世界であることを疑う人はいないだろう。オンラインショッピングをするためにインターネットを開始した人よりも,電子メールやチャットやインスタントメッセージの利用のために始めた人の方が多いことは確実だと思われ,個人間で金銭のやりとりは無くても何かしらの価値の交換を行うこと自体はネットの世界に溢れる掲示板の洪水を見ていても実感できる部分である。この個人間のコミュニケーションの延長に金銭取引を絡めるものや自分で作成したコンテンツの交換などがあることも自然な流れであり,オークションビジネスはそれを非常にわかりやすい形で広めたのであると思われる。今後個人間決済が定着するとオークション以外の分野でもこうしたC2Cビジネスの可能性は拡大する。ただし,個人同士が勝手に取引をする部分が広がる一方で何かしら中間で情報流通の仲介をしてくれる「ニューミドルマン」の存在は重要になることは間違いないだろう。ただし,C2Cビジネスで不透明なのが,そうした中間事業者の価値以外の個人消費の増加や産業波及効果などの意味で,個人間同士で行われる経済活動が増加した時に,実態経済の成長につながるかどうかはよく見えない部分が存在しており,筆者としても是非情報経済学者などの研究対象として欲しいところである。もちろん事業者でない人同士の取引の増加は税金や業法を始めとして法制度においても新たに考えるべき点が多いところでもある。

2001年10月24日水曜日

眠れる獅子『地上波キー局』

(2001年10月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

 ようやくブロードバンド向けのコンテンツ流通ビジネスがかなり動き始めている。IT不況の中で世界的にパソコンも携帯もこけている中で,唯一激しい伸び方をしているのが,ブロードバンド系のサービス加入者である。当然各社も大きな期待をかけ,ビジネスチャンスをうかがっている。しかし,現実にはコンテンツサプライヤーも,サービス事業者も権利や課金,制作コスト,技術水準などの問題を抱え,悩み多き状況であるのも事実であり,様子見の状況になっている。
 もちろんインターネットの世界だけで閉じてみると,ブロードバンドは大きな可能性を見せてくれるし,ジョージギルダーが『テレビが消える日』で予言していた誰でもインターネットを利用して放送局になれるという世界が現実に近づいている気がしてくる。しかし,社会全体で見た時にはやはり放送というインフラのコスト効率はよく,人気歌手のライブを一定のクオリティで日本中に大量に配信するのには,やはり当分電波はとても適したインフラであるのも事実である。デジタルテレビとIPベースのネットワークをいかにうまく組み合わせていくかについては,世界的に仲が悪いと噂される放送技術業界とコンピュータ技術業界の歩み寄りがもっとあってもよいのではないかと思う。

 こうした中,放送の世界から見た時には,常時接続と広帯域というブロードバンド化でようやくインターネットが通信と放送の融合の第一歩を踏み出したと映るようである。米国のように3大ネットワークの地位が相対的に低下し,多チャンネル化の中で確実にシェアを奪い取ることができたAOLはすでにゴールデンタイムの視聴率でいくつかのテレビ局を上回っている。しかし,日本ではまだまだ地上波こそが圧倒的なキラーコンテンツであり,最大のポータルサイトとして君臨している。実際に日常の行動の中で,家に帰ってまっさきテレビをつける人は非常に多い。自分の部屋でも個人のテレビがある時代であり,パソコンを立ち上げてメールをチェックしながらもテレビがついているというシーンも多いことだろう。これまでテレビでインターネットが利用でき,テレビでショッピングをすることができるというような発想は多かったが,地上波キー局自体がポータルサイトとして登場するイメージは少なかった。しかし,近年多チャンネル化の危機意識の中で地上波各社はブランドロイヤリティ向上のために猛烈なプロモーションを展開しており,フジテレビや日本テレビの自社CMをみない時間は無いという状況である。こうした戦いの中で各社が地上波デジタルを迎え,BSデジタルをはるかに越える技術でインタラクティブなコミュニケーションを取り込もうとしている中では当然のように視聴者という顧客へのCRMを展開することになるだろう。例えばネットのポータルサイトとキー局がアライアンスを組むことができた場合。テレビをつけた瞬間に画面の上部と左にパーソナライズされたナビゲーションバーがでてきて,個人向けの情報やオークションを利用でき,真ん中でテレビ番組を放送しているという状況を実現することになるだろう。かつてWebTVのようにテレビというメディアにインターネット側のビジネスモデルで0からのアプローチはこれまでもあったが,改めて日本の巨大ビジネスのひとつである地上波キー局が従来の大きなビジネスの増強としてインターネットのビジネスを飲み込む姿の方がリアリティは高いのかもしれない。眠れるアナログポータルの雄がデジタルという武器を手に入れる日はもうすぐである。今後の通信と放送の融合の中で地上波の各局が持つポータル力とネットのポータル力との戦いになるだろう。Yahooのライバルはもはや日テレやフジなどなのかもしれない。またもうひとつの大ポータルNHKも現在は様々なしばりはあるが,この変革の中では無関係ではいられないであろう。NHKのコンテンツ課金モデルも通信放送融合の中では生活者のデジタルサービス関連支出のひとつにすぎなくなるのだから。

2001年8月29日水曜日

可処分コミュニケーション争奪戦

(2001年8月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

ブロードバンドはコミュニケーションできる情報量を劇的に増やすことが期待されている、確かに情報価値が高まる効果は存在するとは思うが、その情報が消費されやすいかどうかというのは別問題である。例えばそれぞれ1分ずつ10個のムービーファイルがあったとして、あなたは全部見る気になるだろうか?恐らく大多数の人は自分が興味を持ちそうなファイルを3つぐらい選んで見たくなるはずである。一方10通の電子メールであればとりあえずななめ読みでも全部目を通すことはそれほど苦な作業ではない。確かに情報量や情報価値が高まり、より深い印象を与える情報だとしてもそもそも選択され消費されなければ意味がない。特定のポータルサイトなど各ジャンルで上位12Webサイトに利用が集中してしまう傾向も、大量の情報消費の限界と関係しているのではないだろうか。筆者はデジタルデバイドとは別の視点でコミュニケーション洪水に対する限界感や抵抗感などが「可処分コミュニケーション」と呼べるような概念を形成しているのではないかと仮説を立てている。
 これまでもマーケティングの世界では可処分所得と可処分時間の争奪戦が繰り広げられていたわけであるが。非同期性が高いデジタルコミュニケーションにおいて時間は新規に創出されると期待されているところがある。確かに調査結果からもiモードは女子学生の授業時間とか電車の中とか新しい利用シーンを創造した。(電車の中の時間を奪われた雑誌や文庫本への影響は気になるところだが)しかし、時間が生まれたとしてもそもそもの利用者の可処分コミュニケーションの大きさには一定のものがあるのではないだろうか。例えばiモードはコンテンツ個別課金であるため、5つぐらい有料コンテンツに加入すれば、それ以上の加入は少ない傾向にある。上位5コンテンツに入れなければニーズが多少あっても選択してもらえないという事態も存在している。1500円で好きなコンテンツをいつでもとっかえひっかえできるような仕組みにすればともかく、そうでないと後発のサービスは限られたポジションを奪い取るという作業が発生する。
企業のコミュニケーションでも注意が必要である。CRMの概念は多くの企業をデジタルコミュニケーションでの囲い込みの誘惑を生じさせている。しかし、どんなに顧客だとしても、自分の身の回りの商品100社からメールマガジンが来てもただの迷惑と感じるだけであろう。生活者のコミュニケーションは企業だけではなく、仕事や友人関係、MLなどのコミュニティに占有されているかも知れない。すでに毎日見るホームページが習慣化し固定化されている人に対してスイッチングさせることは、それなりに大変なエネルギーがいることだろう。

 CS放送やBSデジタルもある種の可処分コミュニケーションの問題を抱えている。オンラインゲームも新たらしい可処分コミュニケーションを争奪しようとしている。これから新しいサービスを検討する人にとっては、そのサービスがターゲットの可処分コミュニケーションを奪えるだけの可能性があるのかを考えていく必要があるかも知れない。奪う相手はオールドメディアかも知れないし、デジタルコミュニケーションかも知れない。また一度奪い取ったその座も簡単に奪い返されるものかも知れない。可処分コミュニケーションを守り続けるためにはブランディングなどの強いコミュニケーション欲求を創出し続けることがますます重要になってくると思われる。人も会社もコミュニケーションし続けたい人である必要があるのだろう。ところで官邸メールマガジンは多くの人の可処分コミュニケーションの範囲に入り続けられるでしょうか?

2001年6月30日土曜日

幻想のeCRM

(2001年6月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました) 


最近eCRMという言葉をよく耳にする。インターネットを利用してeCRMを実現しようと言われている。確かにEビジネスにおいて「電子商取引」と言う言葉から即連想されそうな,「販売」を中心と考える部分から,ようやくコミュニケーションが重要だという発想が定着してきたのは良いことだと思う。
しかし,ここにも「eCRM」という言葉で多くのハードウェアやソフトウェアプロダクトを売り込もうとするベンダーの方々が熱心にアピールしすぎて,受け止め方を間違える企業が多くなることを筆者は危惧している。
 CRMとは「カスタマーリレーションシップマネジメント」ということで,顧客との関係性をマネジメントすることで,長期的に良い関係を築き,LTV(ライフタイムバリュー:生涯価値と訳される),つまりその人が一生の間にその企業に対して価値を貢献したか(ようするに利益が多い商品をいかにたくさん,何度も購入したか)という見方を重視しましょうという考え方である。もともとデータベースマーケティングという世界では顧客を分析し,優良顧客を抽出するということが重視されており,その人達にDMを送ることなどが行われてきたが,その優良顧客を長期的に囲い込むという考え方になったのがCRMと言えるだろう。実際,初めての顧客を獲得するコストと既存顧客にリピーターになってもらうコストでは,大体の業界で圧倒的に既存顧客をリピーターにする方がコストが安く,手間もかからないという結果がでているし,パレートの法則という2割の優良顧客が8割の利益を稼ぎ,8割の普通顧客が2割の利益や損を産みだしているものがあり,多くの業界で結構その通りだったりする。(航空業界はまさにそうであり,それがマイレージという優良顧客を囲い込む手法を産みだした)。
これまでの世界では企業と顧客との関係はコミュニケーションが難しいだけに,確かに様々な工夫で顧客と関係を持ちたいということは必要だったろうし,それによって顧客の得るメリットも存在していただろう(それでもDMの多さやたまる一方のポイントカードなどは気になるところだったと思う)。しかしコミュニケーションが容易なインターネットの世界で全ての企業がCRMをすることで,顧客には恐ろしい数のe-mailや覚えきれないほどの会員IDとパスワードが氾濫することになってはたまらない。
もちろんユニクロやソニースタイルなど強いブランド力が存在し,顧客側がむしろ関係性を強めたいと共感が生まれているのであれば,eCRMは十分機能し,素晴らしい結果をもたらすことになるだろう。しかし,日本中の企業のほとんどは決して強いブランドではなく,顧客側は必要な時だけ意識したい,もしくは特に意識したくないという企業であるかもしれない。メーカーではなく,小売りのブランドだけを意識すれば十分な関係性の時に,全てのメーカーが個別に直接顧客と関係性を持つべきではないかもしれない。それは顧客の立場にたった時に顧客のニーズや状況に応じて,必要な情報を取捨選択するという購買代理のエージェントが存在していれば,そのエージェントとの関係性さえ強ければ顧客は満足することになる。ある投資信託のファンドに組み込まれている企業が,そのファンドの顧客全員に無理やりIRする必要は無いのと似ているかもしれない。
あるサービスや商品をもっとも効果的に流通,販売させることを考えた時に最適なコミュニケーションの流れを構築することが重要ある。
ブランドを育成していこうとしている企業にとっては,現在の優良顧客を大事にすることと,大量に商品を販売させることとは別に捉えた方がよいことの方が多いだろう。CRMと同時に,コミュニケーションのバリューチェーンを構築することが重要である。

2001年6月26日火曜日

求められているプレーヤー「ニューミドルマン」

(2001年6月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

e-マーケットプレイスも思ったより利用が少ないという声を耳にする。売り手と買い手が直接コミュニケーションできる市場の登場は多くの企業が従来の枠組みを越えて取引をすることを可能にし、かつコストの削減効果も期待されていたが、現実は既存の商慣習と比較した時にまだまだ大きなメリットを多数の参加者に提示できないでいるサイトが多い。もちろん過渡期であるからという見方も多いが筆者は異なる見方をしている。例えばどんなに証券取引が便利になっても、直接発行する企業と機関投資家がダイレクトに行う取引が中心の状況にはなりにくいだろうし、個人投資家の場合はなおさらである。株式の取引の場合はむしろECN(電子証券取引ネットワーク)などで既存の証券取引所を飛ばして、証券会社同士がネットワーク上で直接の取引を行う動きなどが起きている。
ここで重要なのはマッチングする市場も重要であるが、むしろ取引を活性化するためには企業側の立場で考える証券会社と、投資家の立場で考える証券会社(同一の場合も多いが)が競争し、それぞれの利益のために一生懸命努力しているところにあると思われる。すでに既存の証券取引所は電子市場と比較した時に付加価値を生んでいなければいらない存在になるところまで来ており、再編や上場して体力をつけるなどの動きが活発である。つまり、証券市場においては購買代理と販売代理という立場でエージェントとして付加価値をつけるプレーヤーが存在していることが重要であり、彼らこそが市場を活性化させていると言える。確かに流通分野においては、在庫調整や、為替業務の代行などで付加価値をとっていた事業者の価値が低くなっており、中間業者の排除が叫ばれているところもあるが、情報流を仲介し、付加価値をつけていく事業者はむしろ市場を形成するためには必要であると考える。そのため、e-マーケットプレイスは購買と販売のそれぞれの立場にたった付加価値サービスを強化するか、そうしたサービスを提供する事業者を参加させていくことで活性化が期待される。例えば複数の企業の購買担当者のニーズを集めて要求を出すエージェントと、部品メーカーの稼働状況と生産能力を理解しているエージェントがマッチングと交渉を行うことで、品質のよい部品が低コストで生産されるような状況が生まれる可能性がある。こうしたエージェントは情報の付加価値で手数料などのビジネスを行うことが予想される。

これはコンシューマの市場でも言える。今まで入手できなかった商品を探すことが容易になったり、安く入手できたり、個人でも簡単にオークションを楽しめるようになったというようなECのメリットは確かに存在するが、普通の個人がネットサーフィンをしながら見つけていくのは時間もかかるし、なかなか大変になってきているのも事実である(例えば楽天で自分好みの海洋深層水探すのは結構大変です。)。コレクターやマニアであっても、Yahoo!やビッダーズや楽天などのオークションサイトで常に自分の好みの出物がでているかどうかチェックし続けるのは至難の業である。
 ここでもし、自分を理解し、自分の代わりにマーケットに対して常にアクセスしてくれるプレーヤーがいればそれはとても嬉しい。つまり買いたい人のニーズをよく理解し、購買代理になってくれるプレーヤーである。そういう意味ではkakaku.comなどは価格という情報流における購買代理業と言えるだろう。一方販売代理のニーズもある。商品に自信があっても、ブランドを持っていない企業が自前で店舗を出すよりも、購入してくれる人を探してくれる販売代理を利用できるのであればニーズはあるだろう。
 こうした新しい中間業者「ニューミドルマン」の存在は市場の取引を活発にするだけではなく、スケールメリットを活かしたバイイングパワーを持つことで低コストでの調達が可能になるなど、最終的に消費者が享受できるメリットが多い場合もあるだろう。

 現在成功していると言われるEビジネスの中には強力なブランドを持っている企業が多い。DELL、ユニクロやソニースタイルなどはブランドそのものが顧客のコミュニティを形成し、購買ニーズから販売、製造までが一環して、単独のバリューチェーンの中に存在する。こうした企業にとっては比較されるような市場そのものは必要なく、自社ブランドの価値向上が進めばECは自社単独で取り組める。しかし、そうした強力なブランドを構築できない企業にとっては、適正な市場が必要であり、そこで交換されることが重要である。そのことで多くの企業がインターネット上のWebサイトの宣伝に膨大なコストをかける必要がなくなるなど、自社のコアコンピタンスに注力していくことができると思われる。今後eビジネスのプレーヤーとして求められているのは知識情報に価値を創るこうした新しいニューミドルマン達ではないだろうか。

2001年5月13日日曜日

インフラの次,日本企業競争力の鍵コミュニケーション&ナレッジテクノロジー

(2001年5月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

インターネットがコミュニケーションに大革命を起こしていることは間違い無く,現在のブロードバンド&ユビキタスの流れにより,より一層「いつでもどこでもより広帯域で」という世界に向かっている。しかし,私が電子メールを使うようになってもう13年も経つがメールの使い方はそれほど進歩していない気がする。確かにPHSで外からでもアクセスできるようになったこと。携帯でも使えるようになったこと。メールソフトのフィルタの機能は強化されたので,整理だけはしやすくなったという進化は見られる。しかし一方でこの13年間でメールをやりとりする相手だけは劇的に増加し,日々メールの数も150通近くになっており,日々メールを読み,返事を返すことだけでも大変な状況である。
恐らくこの現象は私に限らず,同じような状況になっている人はとても多いのではないかと思う。特に経営者や管理職などはCc(カーボンコピー)の対象になりやすいので,必ずしも読む必要の無いメールも容赦なくどんどんやってくる。
確かに電子メールがなかったら,今頃どんな風に仕事をしていたのだろうと考えるととても恐ろしいが,端末とスピード以外の知識情報処理という意味でITがコミュニケーションを高度化する技術なのであれば10年間で「フィルタ」程度の進化しかしていないことがとても悲しくなる。
またコミュニケーションという意味でもメールのコミュニケーションルールが定まっていないことによる問題も多数起きている。メールやBBSでは議論が混乱し,感情的になり喧嘩しやすい,揚げ足取りになりやすいなどの問題が指摘されている。またメールだと個人が簡単に質問やクレームを大きい組織などに対して言えるので,企業などではこれまでよりも対応にコストがかかって困るため,メールアドレスは乗せたくないという本音を持っているところもある。電話ならお話中だったり,業務時間が設定できるためコストが読めるが,メールに対し,真摯に全部対応するのはコスト増の点から見ても確かに悩みが深いところである。
 これまでのコンピュータ技術は定型プロセスの処理という意味では劇的な生産性の向上を実現していると思うが,このように知識情報処理とコミュニケーションの高度化を扱う技術という意味ではまだまだ未成熟であり,インフラの整備が見えてきた状況の中で今後早急に取り組むべき次の重要テーマであると思われる。知識情報が社会やビジネスにおいて競争力や価値の源泉になることはもはや誰も疑いの無い状況になってきる現状で,いかに知識情報を集約し,付加価値を高めるか,コミュニケーションを効率化し,生産性と豊かさを向上できるかは,日本社会と日本企業の競争力という意味でもとても重要である。もはや低コストの生産は本格的に中国などに移転が進んでいる状況の中で,製造業が競争力を維持するためにも,かつて工場で行われていた,QC活動など生産性向上への多くの努力は,今や企画,戦略立案,営業,マーケティングなどホワイトカラーと顧客を巻き込んだ現場において「ナレッジ」と「コミュニケーション」を「技術」として取り組む必要がある。すでに企業によってはグループウェアなどを導入し,「ナレッジマネジメント」という形で取り組む企業も増えているが,まだまだ情報のデータベース化にとどまっている部分が多い。現在様々な研究が行われているが,例えばメールをXML対応にしていくことで,現在のアドレス以外に所属と目的についての基本情報を含めさせることが可能になり,それだけでも世界中のメール処理の生産性は劇的に高まると考えられる。また,エージェント技術による一定のルールの元で自動的に売買をしてくれるようなコミュニケーションそのものの自動処理の研究も進んでいる。もちろん我々は日本語という言語処理の問題を含む要素も確かに多いが,24時間という限られた時間の中で,世界中でも高い賃金水準を維持していくためにも,是非とも取り組まなければならない重要なテーマであると考えている。