藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2005年12月19日月曜日

放送というビジネスの未来図 地上波放送局がとるべき戦略は?

(2005年12月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

○激動の2005
2005年は日本のインターネット登場以来の果たせぬ夢だった,音楽のネット配信と通信・放送融合という二つのテーマがついに夢から現実になった年だと言えるだろう。前者は言うまでもなくiTMS旋風だった。後者はライブドアのニッポン放送買収騒動で激動の幕を開けた。5月には野村総研のハードディスクレコーダーの普及によりCMをスキップする人の割合が増えおり,テレビ広告費が540億円の損失を出すという推計レポートが発表され,地上波テレビのビジネスモデルの揺らぎを示すものとし,業界に衝撃を与えた。一方でインターネット側でもUSENの無料ブロードバンド放送サービス「Gyao」が4月にスタートして12月で500万人を突破し,急速に利用者を拡大させている。番組数も800を越えている。有料での配信サービスを含め,いつでも好きな時に見られるVOD(ビデオ・オン・デマンド)タイプのインターネット放送は日本でも着実に定着しつつあると言えるだろう。秋になると今度は楽天がTBSとの経営統合を提案するという地上波とネット企業が真っ向からぶつかる展開がおきた。新たに総務大臣に就任した竹中大臣もNHK改革やIP化の進展に伴った通信・放送の新しいモデル作りに着手するなど,この一年の動きは約50年の歴史を持つ免許制度と,大手広告代理店と創り上げてきた堅牢なビジネスモデルによって守られてきた地上波テレビ放送業界にとっては,まさに黒船到来の時を感じさせるものだったであろう。
一方,ネットと放送の融合としては日本では米国のAOLとタイムワーナーの失敗例がマスコミでよく引き合いに出された。しかし,米国では日本と異なり地上波テレビは絶対的な存在ではなく,7割弱はケーブルテレビ(CATV)経由でテレビを見ている。ケーブルテレビは家庭にSTB(セットトップボックス)を置いている強みから,それを基盤に多様なサービス展開を始めている。VODサービスはすでにかなり普及し始めており,さらにインターネット接続や電話サービスまで展開され,これに基本の映像サービスをあわせて,これらは「トリプルプレイ」と呼ばれている。さらに2005年にはこれに携帯電話を加えた「クワトロプレーを提供する動きが加速した。一方通信事業者側も長年の夢であった映像サービスの本格展開をスタートさせ,すでにインターネット,電話,携帯電話に加えてクワトロプレーに参入し,ケーブルテレビ会社と通信会社の全面戦争の様相を示している。もちろんネットベンチャーも存在しているが,日本や韓国ほどブロードバンドインターネット環境が普及していない状況があり,米国では日本とは違う形で通信と放送の融合が始まっている状況がある。

○放送のビジネスモデル

日本では現在放送のビジネスモデルは以下の3つがあると言えるだろう。
a)NHKモデル:半強制的に課金された視聴料で運営をまかなうモデル
b)民法地上波モデル:規制によって限定された電波チャンネルの視聴率に応じて宣伝予算を割り振るモデル
c)CATV/BS/CSモデル:膨大な顧客獲得コストをかけて,加入者を獲得し,その視聴料収入で運営をまかなうモデル

a)のモデルは視聴料未払い者の増加で破綻してきており,まさに見直しが始まろうとしている。c)についても長い時間をかけて少しずつ広げてはいるが,米国のようにCATVが力を持つまでにもなっていないため,なかなか大きなモデルに広がることは難しく,地上波キー局のBSデジタル放送も加入はあまり進んでいない。そのため日本ではやはり放送というとb)の地上波の民放のモデルを指すことが多く,その2兆円を越える広告市場を指すことが多い。では何故2兆円獲得できるのだろうか,その「放送」ビジネスの価値を考えると以下に分解整理できる。

A コンテンツ価値(制作能力含む)
B 媒体・編成価値
C 放送局のブランド価値
D免許・伝送路価値
E 営業価値(代理店含む宣伝予算の獲得力)
F 顧客価値
G 顧客と生み出すコンテクスト価値

現在の地上波はA,B,C,D,Eを組み合わせた価値を持っており,なかでもDの限られた電波の権利を活かすことでBの価値が非常に高く,これまで強いビジネスモデルを築いてきた。ライブドア,楽天もこの価値を手に入れるために,勝負に出たとも言えるだろう。しかし,ブロードバンドの普及,テレビ離れや前述のCMスキップなどでBの媒体価値は低下し始めているのも事実である。
また現在の地上波の最大の弱点はF,Gが弱い点である。視聴率の高さで大量の顧客へリーチできることは確かであるが,その効果測定は視聴率と言う調査データにほぼ依存しており,「どんな人がどんな目的で番組を見てどう感じたのか」という現在の広告クライアントがマーケティング戦略上もっとも欲しい部分が見えていないところは最大の弱点と言えるだろう。CATVやスカパー,WOWOWのように課金モデルの加入者として顧客価値を獲得すれば有る程度把握することは可能であるが,この加入者モデルは膨大な獲得コストがかかる。インターネットでも映像の有料課金モデルはアダルトと一部のアニメ以外はなかなかうまく行かなかったが,Gyaoのように無料で会員登録させるモデルは得意である。Gyaoが短期間で500万獲得を実現した通り,やはりインタラクティブに顧客と対話できるインターネット側が有利な点であり,楽天のTBSへの提案の中にも楽天のデータベースマーケティングノウハウがTBSに提供できることがうたわれていた。
ではテレビ局側がDの価値をあきらめ,IPで会員制でテレビ番組を配信し,コンテンツを流す存在になるとどうなるのだろうか。確かにABによりネットの中では格段にレベルの高いクオリティのコンテンツとして配信されるだろうが,利用者は能動的に選択しなければいけないため,現在のとりあえず自宅でついているテレビの限られたチャンネルの中での選択に比べると選択確率は低くなる。期待はCのブランド力であるが,限られたチャンネルで見たい番組を選択してきた視聴者にとっては番組にロイヤリティはあっても放送局にロイヤリティを感じている人は少ない,確かに最近はテレビ局もブランド強化には力を入れている。自社CMも多いし,放送局のファンクラブのようなものも組織化はしている。しかし多数の中から能動的に選択されている新聞や雑誌よりも
そのブランド力は低いかも知れない。こうした中では地上波テレビ局がネット側で勝負するのをためらうのもうなずける。

○放送の新しいビジネスモデル区分の考え方

ではこうした中で放送局がこれまでの価値を活かして目指すべき新しいビジネスモデルは何だろうか。筆者はコンテンツの性質別にイメージをあげてみた。

1) リアルタイム型モデル
コンテンツ例)ニュース番組,スポーツ番組,ゴールデンタイムのエンタメ(お笑い,クイズ)
まさにゴールデンタイムと呼ばれる時間帯のコンテンツである。従来のビジネスモデルに近い放送の強みを活かしたモデルである。顧客は今見ていることに価値を感じるコンテンツであり,その番組を大勢の人と見たことを共有したいという意識も持つ。次の日の友人同士の話題のネタにもなる。そのため大量に同時にリアルタイムにリーチを強制的にさせたいCMが向いており,非同期型の広告宣伝が増えれば増えるほど,リアルタイムの同期型の広告を提供できるメディアの価値を相対的に高め,単価をあげることも可能かも知れない。またCNNなどのニュース専門チャンネルのようなリアルタイム特化型のモデルを志向する企業も出てくるであろう。

2)情報提供型モデル
コンテンツ例)旅行,食べ物,トレンド情報系
これらのコンテンツは利用者の知識欲求が高いため,もっともインタラクティブな要素が高く,今見ている番組のコンテクストにマッチした広告を配信する形になる。利用者毎に微妙に違う興味や行動に応じて積極的にプッシュで配信する方向に行くこともあり,ネットビジネスに近いモデルになるだろう。通販番組とも連動しやすいためECのモデルにも行きやすい。広告だけでなく,販促費用も獲得できる。番組制作能力のアドバンテージを活かしながらネット企業のノウハウを早急に取得することと,きめ細かな効果測定に耐えられるビジネスモデルに意識改革することが必要となる。

3)コンテンツ価値集中型モデル
コンテンツ例)ドラマ,映画
すでに始まっているようにテレビ局が映画の制作に最初から関与し,権利を獲得することで,劇場公開,セルビデオ,レンタルビデオ,VOD,地上波というリリースウィンドウモデルとコンテンツの再利用性を高めて稼ぐモデルである。関連グッズやイベントなど放映以外で稼ぐことも可能である。放送としては時間が決まった連続ドラマとして1)のリアルタイム型に近いモデルだけ残し,あとはVODの配信チャネルとしてはネット企業もどんどん活用できるため,一番共存・共栄できるモデルである。映画会社や制作会社に近いモデルであり,業態は大きく変わるが,ネット時代になることでむしろ収益を高めていく可能性もあるモデルである。

日本の地上波キー局の戦略的選択としては1)から3)までを複合的に持つ総合事業体への変化を志向することが予想される。企業としてはリアルタイム価値部門,インタラクティブサービス部門,コンテンツ価値最大化部門の3つを持つという感じか,もちろんどれかに特化することも選択肢としてはある。2)は黙っていてもネットポータル系が参入してくる領域なので,最初からアライアンスで共同で取り組む,もしくは本当に合併して展開することもあるだろう。

放送のWeb2.0化は可能か
さらにその先を見据えた時に,インターネットで起きているWeb2.0的な動きは当然放送の世界にも影響は与えるだろう。
何よりも膨大な番組コンテンツをロングテールとして捉え,活用することがあげられる。著作権の問題は儲かる前提で解決するとして,何億人もの人間の様々なニーズに応えることができ,これまでのコンテンツとのマッチングができるのであれば,コンテンツ価値の再利用性は高い。これまでのリリースウィンドウを中心とした2次利用の発想から顧客ニーズに基づいた価値利用発想への転換は重要である。具体的には番組の内容にタグを付け,グーグルのように検索エンジンで番組の細かい内容について検索でき,さらにWeb2.0的に利用者側からソーシャルブックマークのように番組についての整理や感想やお勧めからコンテンツにリンクを張るモデルができれば,コンテンツ価値はかなり高まるだろう(あるある大辞典とか全部タグついて検索できて,ソーシャルブックマークできたら,あるあるのアーカイブはかなりの値段で食品系の企業に年間契約で販売できかなり面白いビジネスになるはず!)。これが先ほどの価値で言うところの「G 顧客と生み出すコンテクスト価値」で今後もっとも重要な価値になるだろう。
また,放送中や番組を見ながらチャットしたり,解説をつけたり,番組コンテンツから派生するコンテンツも同様に顧客と共同で生み出す新しい価値であろう。一度見た映画でも,様々なタイプの人の独特の視点で解説やコメントがついていたらそれはそれで新しいコンテンツとして楽しめることになる。
さらには編集権を利用者に委ね,様々なコンテンツを集め,再編集することまで許せば,顧客側がコンテンツ制作にも立ち入ることになる。すでに「ノマ猫」などのFlashムービーにその原型を見ることができるが,提供されたコンテンツリソースをユーザー側で加工し,それを発信することはまさにWeb2.0の考え方そのものである。しかし,ここまで許すことは,悪意のある改悪や質の低いコンテンツの氾濫などコンテンツ制作のポリシーや放送の考え方から極度に逸脱するため,拒絶反応は大きいだろう。

しかし,「コンテンツを配信する」というだけでは,人々の可処分時間の奪い合いに過ぎなく,限られた宣伝費の奪い合いになることが予想される。顧客とともに価値創造し,ニーズを把握,創造することで,従来のCMというモデルから企業のマーケティング全般までビジネスを広げた新しい市場創造のモデルとして2兆円から10兆円を越える市場へと広がる可能性が見えてくるのではないだろうか。

2005年12月7日水曜日

ローカルサーチが生み出すマイクロビジネスの可能性 -地域情報化のあらたなるアプローチ-

(2005年12月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)


○グーグル登場のインパクト
グーグルが次から次へ繰り出すサービスが話題になっている。今やマイクロソフトの最大のライバルと目されるグーグルはかつてのネットスケープやAOLというアプリケーションやISP,コンテンツサービスを提供する企業と異なり,莫大な知識情報の流通業として,世界中のあらゆる情報の流通ハブとなりつつある。そしてその集積させた情報と検索された情報をマッチングすることで,これまで情報の非対称性が大きかったことで起きていたパレートの法則と呼ばれる「商品は2割の売れ筋が全体の利益の8割を稼ぐ」という法則を壊し始め,「ロングテール理論」と呼ばれる今まで死に筋に近かった8割(ABC分析などでグラフにすると長い尾のようになるのでロングテールと言われている)の商品でもビジネスが成り立つようになってきている。例えばグーグルにはアドワーズという広告商品があり,自分の商品に関係するキーワードを成果報酬で購入できるのであるが,たった1万円の予算でも地方の小さな鯖寿司や仏壇などがインターネットで検索した人からの注文で商売が成り立つ効果を出している。
これはグーグルのような検索エンジンが情報流通の最適化を実現したことでマイクロビジネスが集積することでビジネスになることを示している。
そうしたグーグルがさらに大きなインパクトを持って提供を始めたサービスが世界中の地図情報を提供するグーグルマップとそれを応用したグーグルローカル(http://local.google.co.jp/)である。これまで一部の特別な企業でしか利用できないと思っていた地図や衛星写真を,誰もが自分の机の上のパソコンで簡単に利用できるようになったことだけでも驚きであったが,それがAPIとして公開され,インターネット上で誰もが自分のサービスやアプリケーションに利用できるようになっていることがより大きな衝撃を与えた。実際日本の企業やベンチャーがこれを自社のサービスに取り込んで活用したサービスをすでに提供し始めている。これまでGIS地理情報システム)というのは膨大なデータベースを構築するため大変なコストと時間がかかるものであったが,インターネットらしく多くの人々がGoogleの用意したプラットフォームで参加し合いながら構築していくというアプローチがあり得ることを現実的なものとして示してくれたと言えるだろう。同じくGoogleGooglePrint(http://print.google.com/googleprint/library.html)という図書館の書籍をデジタルデータ化し,検索できるサービスも提供し始めているが,これらのグーグルが行っている動きは従来は官公庁なり第三セクターが担うという発想が中心であったと思われる。しかし外国の一民間企業が日本でもサービスをできてしまっている事実が,新しいインターネット時代の情報流通プラットフォームの作り方の発想転換に大きな目を開かせてくれている。

○地域経済活性化のためのローカルサーチ
地域の小さな企業がグーグルのような検索エンジンのおかげで大都市圏の人達にビジネスができる環境はすでに生まれているが,グーグルローカルのような地図データと組み合わせたサービスの利用はやはり地元中心であると言えるだろう。地域にどのような資源があり,どんなサービスがあるのか,ひとつひとつは小さくても集積することで利用効果もあがり,ビジネスのスケールも生まれるのがロングテールの時代である。A9(http://yp.a9.com/)というアマゾンが提供している検索エンジンでは全米主要都市の街の通りのデータも蓄積しており,目的の会社を探すとその通りに他にどんなビジネスがあるか,風景はどうなのかを知ることもできる。国内にもベースになりうるデータはすでに存在している。タウンページが提供しているiタウンページ(http://itp.ne.jp/)は実に8000もの業種から検索することが可能で,「からし蓮根」など地域密着の特産と呼ばれるようなビジネスから街の中華料理屋までも調べることができる。確かにもともと紙の電話帳時代から地域のライフライン情報がのっており,引越屋とか鍵屋などマイクロビジネスの人々には重要なメディア(一番最初のページや目立つところ奪うために社名をAやアにしたりある意味SEOもやっていた)であったわけでインターネットにのることでその活用可能性は数倍にもなっていると言えるだろう。
このようにローカルデータは新しい地域の公共財と言え,ひとつのサービスだけでなく,これらを様々なに利用できる形で環境整備することは産業振興の観点からも重要である。しかし,これまでも税金や補助金などで創られた活用されない死蔵しているデータベースは全国に多数存在している。これからはプラットフォームになりうる公共財の構築の仕方は民間企業と多くの地域ベンチャー,一般市民の協業により,官に可能な限り依存しない方法論が必要になる。  

大規模な工場誘致の時代が去った今,多くの小さなマイクロビジネスを多数生み出すためにも図書館に本を集積させるのでなく,インターネット上で様々な形で再利用可能な状態で地域情報を集積させ,全ての人が様々なニーズで検索できる状態を構築することが知識社会における産業集積のモデルのベースと言えるのではないだろうか。

2005年10月14日金曜日

メディア再編時代の鍵を握るCGM(コンシューマージェネレーテッドメディア)

 (2005年10月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

CGMの登場
ブログやSNSなどの普及が進む中で,こうした生活者からの情報発信はビジネス的にも無視できない存在になりつつある。これらは従来のメディアと区別する意味でも「CGM(Consumer Generated Media:コンシューマージェネレーテッドメディア)」と呼ばれ始めている。これまでもこれらのサービスやビジネスはコミュニティビジネスという総称で語られていた部分はあるが,新しい呼び方になりつつある背景としては「メディア」として一定のパワーを認識され始めているとも言えるかも知れない。今一度これらがメディアビジネスとしてどのような可能性があるのかここであらためて整理してみたい。

1)独白系(ブログ,個人HP等)
WWWが登場した時からHPを作って,個人で情報発信をするという行為は従来の大きなコストと一定の地位を持たなければ情報発信ができなかった状態を激変させ,多くの有名個人HPが登場してきていた。しかし,CMSツールの発展でブログが登場したことで,特にリテラシーを必要としなくなったことで誰もが個人HPを持てる状態が現れた。誰にも気兼ねせずに一人でも言いたいことを言い,別に見られていなくても個人の日記として書きつづる人が激増している状況である。そうしたブログが個人HPと異なり,今「メディア」として捉え始められた理由として,コンテンツとして面白さがあり,人気になるとトラックバックが増え,検索エンジンのSEO効果が高まり,さらに人気が増え,ブログの人気ランキングにも登場し,さらにアクセスが増えるというスパイラル効果で個人のブログでも高い集客力を持つものが育ち易い土壌が生まれてきていることがあがられる。実際企業の商業サイト並の「メディア」としての価値を持つブログが増えてきている状況である。

2)掲示板系(2ch
ご存じ2chに代表されるテーマ毎に意見を重ねる形で進行する掲示板である。その場のリアルタイムな雰囲気などで大きく内容が左右されるが,匿名性が高いことと,個別のスレッドには中心的な管理者が存在しないため,荒しと呼ばれる発言も多く,誹謗中傷が起きやすくビジネス的にはネガティブに捉えられることが多い。大衆心理作用も働きやすいため,2chなどでは通称お祭りと呼ばれ雰囲気が激情化する状況も生まれる。リアルタイム性の高いニュースや出来事では逐一実況する人も多数現れ,多元生中継のような状況も生まれている。実際地震の発生時などはニュース以上にきめ細かい局地的な状況の把握や安否確認などに使われ始めており,多次元同報という新しいメディアの可能性も見え始めているとも言えるだろう。別の側面として時間軸の進行の中でストーリー性を持ったものが,後日編集されて「電車男」など書籍というメディアの形になることも生まれ始めている。

3)パーソナルコミュニティ系(エキサイトフレンズ,ヤフーチャット等)
 ・いわゆる「出会い系」と呼ばれていたような個人と個人を結びつけることを目的としたサイトも最近は形が代わりつつある。男女のお手軽な出会いサイトの段階では年齢や性別とコメントなどの情報が交換される簡単なものであったが,最近は幅広い趣味のコミュニティが形成されていたり,アバターのようなバーチャルなキャラクターで自己表現を楽しんだり,チャットでリアルタイムの井戸端会議を行うなど必ずしも男女の出会いに重点をおいていない要素も増えてきている。しかし,ベースのパワーはやはり男女の出会い欲求であり,そのことが来訪者と来訪頻度を高く押し上げており,メディア価値の形成に繋がっていると言えるだろう。

4)テーマ口コミ系(@cosme,価格コム,関心空間等)
 ・化粧品に関する口コミを大量に集めている@cosmeや家電やPC系の価格比較と口コミを集めている価格コムなど,消費者が商品を購入する際に参考にする口コミ情報を集積させたサービスが増えてきている。高い購買意欲を持った人が多数訪れていることが明白なため,以前はネガティブな情報が口コミで流れることを恐れる傾向もあったメーカーもここのところは積極的に広告を出し始めている。@cosmeでは一人の人が同じところでは1回しかコメントできないなど,掲示板で見られる荒しが起きにくい工夫をするなど,口コミの集積メディアとしての工夫を凝らしている。同様にブログに近い構造で商品の口コミなどを集積させている関心空間も通常のブログよりも高いCTR(クリックスルーレート)を出すなど,購買意欲や興味を喚起しやすいメディアとしての特性を実証している。

5)クローズSNS系(mixi,gree等)
・そしてここに来て大きく盛り上がっているのがSNSである。昨年までは日本ではまだ一部のオタク的な人が利用するものと見られていたが今年に入り,一般の人々を急速に獲得している。特にmixiはすでに160万人の利用者を突破し,急激に成長が行われるブレーク段階に入ったと言えるだろう。SNSの持つクローズの利点として知り合いの信用に基づいた人の範囲でコミュニケーションできることの安心感と,読み手をイメージしながらコンテンツを作成しやすいというところがある。それから足跡機能という誰か見に来たかが判明するため,反応がわかりやすいのとコミュニケーションとりやすい構造を持っている。これらからメディア価値のひとつの指標でもあるスティキネス度(高いリピート頻度や長い滞在時間など)はとても高くPVも大きいので広告価値もありメディア価値もあると言えるが,あくまでもクローズなメディアであるというところが特殊性も多く持っている。

CGMにも生まれてきているジャーナリズム
ビジネス的なメディア価値とは別にマスメディアの大きな役割で語られるのはジャーナリズムである。こうしたブログなどのCGMも一個人が情報を発信できることで,従来の新聞・ラジオ・テレビなどのメディアが持つジャーナリズムの力も持てるのかという議論も盛んであり,CGMが市民ジャーナリズムという形で個人の力でも立派なジャーナリズムになるという見方もある。実際米国ではブロガー達が高いジャーナリズムマインドを持ち,政治的にも活発な議論を誘発しており,ホワイトハウスの記者クラブの一員になるブロガーも登場している。しかし,以前として情報に対する信頼性の確保,一定の質を維持する組織的メカニズム,権力のチェックという意識などマスメディアでなければ難しいという意見も一方では大きい。国内でもライブドアがニュースの中にPJ(パブリックジャーナリスト)という形で一般の人から記者を公募する仕組みを実現しているが,まだまだ実験的取り組みになっている。筆者は最終的には,情報の受け手が個人の私見の中で発信するマスメディアでは取り込めない草の根の情報と,一定の権威と編集方針を持って発信されている情報を同時に使い分けていくリテラシーが身に付いてきているかどうかがこの議論のまず重要な要素になると考えている。次に中間プレーヤーとして,それを客観評価し,編集し直すなど付加価値をつける事業者の台頭が利用者のリテラシーをカバーするようになるのではと考えている。ある意味,現在のコンテンツと流通がセットになって権威化しているマスメディアが分解されて,記事とその後の流通を分離したモデルになれば,この動きは加速するのではないだろうか。
このことはジャーナリズムの議論とは別に,商品を購入する時の参考情報としての口コミとメーカーの公式情報との使い分けにも通じるものがあり,純粋に利用者視点で見ればやはり両方あった方が選択肢も増え便利なことは間違いない。

○既存メディアよりも進化しているCGMのビジネスモデル
こうした市民ジャーナリズムや口コミの台頭は既存メディアのビジネスモデル上の弱点が大きくなってきていることにも起因する。
新聞離れ,テレビ離れなど流通側に起因する問題から利用者に見てもらうパワーが落ちてきており,課金,広告モデルとも収益性に不安が残る
ジャーナリズムとしての記者の育成や質の担保,広告主からの独立性などが市場原理の収益性の追求と矛盾する点が顕在化してきている。
双方向性などITによって可能になった新しい情報コミュニケーションを活かせる土壌が無い。
これらのベースには広告ビジネスという「少しでもたくさんの購買意欲がある人達に見てもらいたい」というビジネスモデルの基本メカニズムを内包したメディアが高いジャーナリズムを維持していくことの難しさが根底にあると言えるだろう。そもそもたくさんの人が集まるところに広告を出すということであればマスメディアの優位性はまだ多少あるのかも知れないが,サーチエンジンの登場で細かいブログも集積させることが可能になり,人を集めるというよりは,効率的に送り込むことが可能になりそれなりの規模の人にリーチすることは可能になっている。さらに「購買意欲のある人」という質的意味ではすでにCGMの方が優位性は高い。自分の興味のある話題の口コミや同じような興味を持つもの同士のコミュニティに属しているだけで,誰がどんな目的で見ているかさえもわからないマスメディアに比べると圧倒的な優位性を持つ。

これだけであれば消費者が発信した情報を見に来るに対して広告を出すというモデルはあまりマスメディアのモデルと変わらないようにも見えるが,実は大きな違いがある。CGMのビジネスモデルの最大の特徴は発信された口コミ情報などの知識情報を買いたい人や売りたい人に役立てるように流通できるというところである(図表参照)。GoogleAdSenseのように,記事の中身を解析して最適な広告をマッチングしたり,アフリエイトで興味を喚起した直後に購入させる手段の登場などインテリジェントな情報技術の登場により,それまで役には立ってもお金にならなかった情報に価値を作り知識流通させることが可能になった。ひとつひとつは細かいビジネスであるが,まさにロングテールを紡ぐことでその市場は巨大なものに変貌しようとしている。

CGMに必要な多元性
こうしたCGMはますます巨大化していきそうな予感ではあるが,個人が情報発信を安心して続けていくには考えておかなければいけない点もある。このように個人が様々な情報発信を行うことで,それが匿名で行われていたとしても個人の特定化がしやすくなることや,ビジネスとしてそれを利用したいと思う企業などが個人を評価し,それがあるルールで単純化されて利用が進むリスクもある。例えばビジネス中心にブログで発言している人がちょっと息抜きにアダルトについての発言を3回,アダルト系のコミュニティに1つ参加したとする。そのことで,例えば「アダルト大好きな人格」とどこかのビジネスロジックで決めつけられ,その後そうした広告ばかり出てくるようになることは悪夢である。またビジネス上の友人とプライベートな友人両方が自分のブログを
読んでいることが判明した時に書き手がどちらも意識して書くことが難しくなる局面も出始めている。テーマが決まっている口コミサイトであればそうした問題も少ないだろうが,ブログやSNSなどの個人のライフスタイルを広く発信していくCGMでは個人の生活全てをオープンに発信することで,ビジネスとして企業に利用されたり,過去にさかのぼってプライベートを知られてしまう(新しい彼女に,昔の恋人のことをSNSで簡単に調べられてしまうなどの事例がでてきている)など新しいリスクが登場すると思われる。現代の人間は多様なコミュニティに同時に属しており,様々な人格も持つ人である。そうした多元的なコミュニティに属することとそれに応じたコミュニケーションを実現するためにはCGMの中で多様な人格を同時に持てて,コントロールする仕組みが今後は重要になるだろう。プライバシーを守る暗号化の次には中間の匿名性を維持できるテクノロジーがCGMを健全に発展させるためにも今後の重要な鍵を握るだろう。プライバシーは対象や時間軸でもその意味と重要さが変化していく社会になるということでもあるとも言えるだろう。

楽天がTBSに経営統合を呼びかけるなど,旧来のメディアを取り巻く環境は激変している。サイバースペース上に生まれている無数の個人の情報の集合体であるCGMは玉石混合の中で試行錯誤の中でも確実に利用者にとって魅力的なコンテンツを製造し,それを選別する技術も日々生まれている。さらには広告ビジネスという資本主義のマネーを魅力的に吸い寄せる手段を持ち,ビジネスとしても飛躍の時を迎えている。しかし,既存のメディアが持つ高いジャーナリズムとしてのパワーや質の高いコンテンツ開発力は同時に存在できるものであろう。垂直統合されているマスメディアが有効なファンクションをアンバンドリングし,CGMを取り込んでいくことで両者ともに新しいステージへ発展できるとも筆者は考える。そういう意味では光ファイバーでコンテンツ配信できることや,テレビとオンラインショッピングの融合という視点とは別に旧来メディアがCGMをうまく統合させながら新しいメディアへと再編するためにネット企業を統合させることも,ひとつの必然として進むのではないだろうか。






2005年8月12日金曜日

店頭へと拡張するEC市場 -家を出た巨大EC市場「店頭EC」-

(2005年8月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

○購買ニーズ最大の源泉である店頭
ECの市場は相変わらず順調に成長をしている。これまで顧客層が違うと,まだマイナーな扱いをしていたカタログ通販会社もカタログの成長がとまり,テレビショッピングも一時の勢いが落ち着く中で,各社とも確実な成長をしているネットでの販売シフトにいよいよ本気になり始めている。B2Cの電子商取引の市場規模は2004年で5.6兆円(出所 経済産業省・ECOMNTTデータ経営研究所)であるが,まだEC化率は2.1%である。つまりこの50倍の市場こそがECの潜在市場と言える。さすがにそれは言い過ぎだと言う人もいるだろう。小売りの全てがネットになることはあり得ないと。確かに現在のECの一般的なスタイルから言えばそうかも知れない。現在の自宅でPCや携帯で商品を選んで購入するスタイルというのは通信販売の延長の利用シーンであり,カタログを選んで電話やFAXする手続きをデジタル化した手軽な部分が受けている。しかし,ITのもたらすパワーはこの「どこでも手軽に注文できる」という従来のECに加えて「どこでも即座に欲しくさせる」という新しいパワーを持とうとしている。我々が商品を欲しくなるのは圧倒的に商品を目にした時である。例えばあなたが店頭で気になる商品を見たとき,その商品のことをさらに知りたくなり,作っている人,使っている人のコメントを聞き,競合商品と比較し,メーカーからリコメンドや割引提案を即座に受けられればもはや買わずにはいられなくなるだろう。これまで買いたい人が求めていたが不可能であったこれらのコミュニケーションを店頭で可能にする技術は確実に登場しており,いよいよ「店頭EC」の世界が実現されようとしている。

商品とコミュニケーションできる画像認識技術
現在も携帯を利用したコマースは拡大している。PCと異なる利用の特徴として,即時性の高さがある。メールマガジンでお得なアクセサリー情報を配信した後はすぐに注文が集中するなど,自分の好きな時に利用できるPCよりは,情報に接した瞬間に反応しやすいという特徴が見られる。同様に何気なく見ていた雑誌に出ていた商品が気になり,横に印刷されているQRコードからHPに飛んで,商品を購入することも出来るようになった。このように,いつでもどこでも瞬時に注文することは携帯によりほぼ実現できていると言えるだろう。こうした携帯の特性を活かしたさらなる技術革新として画像認識技術が登場してきている。これは商品の画像を携帯のカメラで撮影することで,その商品が何であるかを認識し,あらかじめ登録されていたその商品のHPへ飛ぶことができるという技術である。これまでもQRコードや透かしを撮影することでHPへ飛ぶ技術があったが,これらは事前にQRコードを印刷しなければいけなかったり,写真の画像処理が必要だったりと手間がかかり,コストも増えた。しかし,この技術はそうした処理が必要なく,そのまま商品やロゴなどを撮影するだけで済む。利用者側も撮影するだけで簡単に商品情報へ導線を作れるため,あらゆる商品の情報を撮るだけで入手することができるようになる。現在のところ代表的なものとしてN-Visionという会社がi-scoutという技術を発表(http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/0507/14/news098.html
)しているが,他にも複数の会社から同様のアプローチが発表され始めている。
これにより店舗で気になる商品を撮影するだけで商品の成分情報や別の人のレビュー情報まで入手することが容易になる。もしあなたが,友達が持っている商品が気になればそれを撮影するだけでよい。また瞬間に生まれたニーズはそのままでは消えゆくものである。友人のを見て気になっても,電車の中の中吊りを見て,興味を持っても電車を降りて時間が経てば,忘れていることも多い。一度は興味を持った商品もその時に時間が無く,それっきりになることで,これまでは大量の機会損失が発生していた可能性がある(それで衝動買いをしなくて済んでいるとも言えるが)しかし,この技術を活用すれば中吊りの広告を撮影すればすぐにでも購入OK状態になり,書籍などはそのままデジタルコンテンツとして携帯上で読むこともできるようになる。またテレビ画面を撮影することもできるので,テレビ画面を撮影して,テレビの中で取り上げられた商品に興味を持てば,瞬時にアクセスすることも簡単である。つまり消費者のニーズが生まれた瞬間を捉えた販売機会が確実に増えることになる。
こうした技術によって,例えば見本の商品だけを展示している「無レジ店舗」なども出てくるかも知れない。この店舗は徹底的に購買意欲をあおることだけに特化し,顧客はその商品を撮影するだけで,買う前に興味があることをメーカーや小売りに伝えることができる。そのことでメーカーや小売りは買ってもらうための様々なアプローチもしやすくなるだろう。もちろんその場で購入するのもよい。渋谷など繁華街では手ぶらで買い物し,後日自宅へ届けてもらう買い物スタイルも流行るかも知れない。店舗側も在庫スペースもレジもいらないため,店舗面積も節約できる。消費者は購入する時に実に多くの情報を欲しがっている。これまでは店員という人に聞くことが最大の情報源であり,あとは時間をかけてネットなどで自分で情報を収集していた。これからは店頭などで興味を持った瞬間を多くの人に伝えることができるようになり,情報も自動で集まるようにすることもできるのかも知れない。

○情報武装する小売店の未来
また無線技術やデバイス技術により小売店自体の技術革新も注目されている。RFIDやブルートゥースのように小さい距離の無線から店内の無線LANまで消費者は無線によって自分が誰であるか,商品の方は自分が何であるかをお互い会話することが可能になる。現在でもRFIDなどは在庫管理など物流面での実用化は確実に進みつつあるが,顧客との接点の部分はまだこれから本格的な活用が始まる段階であり,様々な試みが行われている。大日本印刷はナビゲーションカート(http://www.dnp.co.jp/jis/news/2003/20030910.html)という商品を開発しているが,このようにショッピングカートにRFIDリーダーと無線LAN情報端末をつけることで,店内をうろうろしながら,店舗の場所に応じた情報と個別の商品に関する情報を見ながらの買い物ができるようになる。アレルギーの人であれば,アレルギーの商品には警告を出してくれたり,お得意さんであれば,隣の人よりも安い金額を画面上で提示することも可能になる。
同時にデバイスの技術革新も進んでいるので,カートの上だけでなく,薄型大画面テレビの低価格化は店頭における情報提供の可能性を大きく広げている。これまで商品棚のPOPは紙であったが,こうしたデジタルデバイスになると,表示内容を変えるのはもちろん,CMを映像としてそのまま流すことも可能になり,しずる感をあおるような情報提供で購買を喚起させることが可能になる。
テレビCMは多くの人に商品のイメージと訴求点を伝えようとする。しかし,テレビを見ている人はその場で買うわけではないので,記憶に残すという大きな作業が必要になった。そのためテレビCMにはインパクトが求められ,クリエイティブには記憶に残るインパクトが大きな要素であった。しかし商品を目の前にしている人に流すCMはインパクトだけでではなく,むしろ「説得」が大事である。店頭で説得され,納得された人の購買率が高まれば,販売に直接貢献することになり,絶大なる効果にかげりが見えてきたTVCMに加えて,この説得に投じられる店頭CMの重要性が高まるようになるのかも知れない。
すでに小売店側もこうした未来への取り組みを始めている。一番進んでいるのは欧州の小売り大手のMETROであり,ドイツで2003年から「フューチャーストア」(http://www.future-store.org/)の実験を開始している。国内の流通大手も試行的な取り組みを増やしており,新しい小売店舗のあり方を模索している。

ECはデジタルコミュニケーションによる買い物
ECの本質はデジタルコミュニケーションによる買い物である。これまではPCで通信販売を行う行為をECとイメージすることが大きかったが,それはPCがデジタルコミュニケーションがもっとも得意な端末であったということである。
ユビキタス化の進展により,デジタルコミュニケーションできる手段が様々になればその範囲は拡大し,「生活者が物に興味を持ち,購入する」という行為全体がECになると言えるだろう。以下の拡大ステップに照らすと現在のECの多くは第二段階であり,ようやくブログなどのCGM(コンシューマジェネネレーテッドメディア)との融合や店頭でもトレーサビリティなど第三段階が広がっている状況だと言えるだろう。

ECの拡大ステップ
第一段階 注文書の電子化
第二段階 商品選択の電子化
第三段階 関連情報(公式情報,口コミ等)入手の電子化
第四段階 あらゆる場所での消費者と供給者のコミュニケーションの電子化


今後第四段階を迎えるにあたり,生活者の購買に関わるアクティビティの行動を多く握っているプレーヤーの存在価値はますます高まる。例えば電子マネーの利用も重要なアクティビティである。Edyを利用するのは多くは店頭のレジであり,何かしらの購買行動の直後である。つまりどこで何を購入したかを捕捉できる可能性も高まっており,まだ店内にいるその瞬間に購入した商品に関連する商品情報を送ることも可能になっている。消費者の行動にあわせた適切なコミュニケーションこそが,従来のデモグラフィックを中心にしたセグメント型のターゲットに対するコミュニケーションよりもはるかに重要になることは間違いない。生活者の買い物の主戦場は街中であり,店頭である。店頭のIT武装は商品の裏側にある開発・生産者,売り込みたい人,買いたい人,買ってあげる人,お勧めしたい人がコミュニケーションすることを可能にし,商品を手にとって見るだけでない新しい世界を広げてくれる。こうした時代になると,逆にうまくコミュニケーションのできない無愛想な店員の存在は無意味なものになるのかも知れない。リアルなコミュニケーションに対する期待はますます高いレベルが要求されることになるのだから。