藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2002年9月12日木曜日

ファイティングIT!戦うための地域情報化 行政サービスのための情報化から戦うためのナレッジマネジメントへ

(2002年9月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました) 

地域情報化がe-Japan構想の中で再び盛り上がりを見せている。ニューメディアブームによる第一次ブーム,インターネットによる第二次ブームを経て第三次ブームとも呼べるかも知れない。しかし,e-Japanの中でも現実的に進められているのはパスポートの申請などの電子申請などによる業務の効率化であり,公立学校においても高速インターネットの整備などの目標があるぐらいである。筆者は今地方自治体がおかれている状況を考えた時に,政府のe-Japanとは異なる軸で独自にITを地方経営の競争力強化のために今こそ活用しなければ未来をないと考えている。
これまで地方自治体が行う地域情報化は行政サービスの効率化や住民サービスの高度化などの目的で推進されてきた。確かにそれは一定の成果をあげている部分もあるだろう,しかし,現在地方自治体がおかれている状況はその延長で考えている状況ではない。地方債の発行残高も増加の一途をたどり,税収の落ち込みはひどいものがある。これはこれまでのように工場や企業を誘致し,雇用と税収を増やすという高度経済成長モデルが破綻していたにもかかわらず,大都市圏の経済に依存し,中央政府からのミルク補給でごまかして来たことに他ならない。しかし,もはや中央政府に余力はなく,地方の自立の名目で,ミルク補給は無くなりつつある。今こそ地方自治体はITを活用し,攻めるための情報化を行う時期である。民間企業はすでにメガコンペティションの中で厳しい競争の中でITを戦うための武器として利用している。
そのための筆者の基本的考え方はまずナレッジマネジメントの概念を地域に導入することが重要だと考える。つまり地域固有の知識情報である「地域ナレッジ」が活用できる状況こそが新しい地域の産業振興の核であり,それが輝き,かつアクセシビリティが高い状況ではじめて東京や世界の人々がそれに惹かれることになる。すでに工場は中国へ流出し,がらがらの工業団地に有力な工場を誘致することは幻想になりつつある。工場を誘致し,雇用と税収を確保するというスパイラルが崩れた以上,工業化社会から知識集約・創造型社会における新しいスパイラルモデルを構築する必要がある。
例えば岐阜県や三重県はこうした方向で進んでいる地域のひとつだと言えるだろう。これらを可能にしているのも,戦略的なITの取り組みを知事レベルのトップダウンで推進されていることが大きい。岐阜などはイアマスという学校が世界でも通用するレベルの優秀な人材を集められたことなどで面白い取り組みが生まれている。例えば伝統的な繊維産業のナレッジをベースに新しいウェラブルコンピューティング時代のファッション開発などが行われていたりする。

具体的には地域文化,観光資源,伝統技術,GISなどの知識情報を取り込み,地域固有の情報に関して徹底的な集める仕組みと,蓄積する仕組み,そして多種多様なコミュニティ(住民,NPO,ベンチャー,研究機関,企業,自営業者,行政等)が活用する仕組みを構築することである。この場合,対象を地域内に限定しがちであるが,今や東京の企業の商品開発室などの方がそうした情報が整理されていたりもするわけで,対象は東京の企業や研究者,そして海外なども含めるべきだろう。
筆者は拠点としては大学と図書館が重要であると考える。地域の大学はこれまでもその役割は担ってきたと思われるが,図書館は考え方を変える時期である。もはや貧しい時代では無いのでベストセラー小説を貸し出すような住民サービスから戦略的生涯学習,地域情報のアーカイブ拠点と変革するべきである。

これまでの伝統文化の保護的な意味合いのデジタルアーカイブなどは様々な形で取り組まれているが,ナレッジマネジメントはあくまでの新しいアイデアと智慧の創造のためである。東京にいる日本でトップクラスのプロデューサーやクリエイターや研究者が触発されるレベルのクオリティである必要がある。もちろん若年層の興味が喚起されることも大事であるが,ユニバーサルサービスの考え方よりも優先するべきは,戦うための産業が生みだされる智慧のベースになることである。

もちろん現在の市町村や県という単位でどこまでが投資的にも可能なのかどうかという意味では事情は地域ごとに大きく異なるであろうし,広域経済圏単位での取り組みが現実的かも知れない。当然のごとくライバルは日本の都市などだけではなく,アジアや世界の地域と戦い,そして共生するためのIT武装が今必要なのである。