藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2000年11月9日木曜日

ユビキタスコンピューティング

(2000年11月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

もう10年も前にゼロックスのパロアルト研究所で研究されていた「ユビキタスコンピューティング」(遍在するコンピュータ)の概念が再び注目を浴びている。その背景としてネットワークに接続可能なNonPCの急激な増加である。携帯電話におけるiモードの成功が,Non-PCはPCとは異なるニーズでのネットワークの利用シーンを創造していくことを世界中の人に確信させることになり,米国におけるPC上でのオンラインサービスとしてもっとも成功したであろうAOLも「AOL Anywhere」の合い言葉の元に,電話,携帯電話,PDA,TVの上でAOLのサービスを利用できることを目指しており,DoCoMoともiモードのノウハウを活用するため提携した。
ではNonPCが増え端末が遍在化するとどうなるのか?まずは個人と端末の切り離しが可能になる。これまでWSなどを除き,端末は基本的に特定個人にひも付いている場合が多く,誰の端末かで個人を特定することができた。実際ローカルに個人のデータがあればますますその部分は大きい。しかし,TVや車など家族で共用で利用するものも増える中,個人のデータや環境などはネットワーク上のどこかのサーバーに存在すれば,端末は必ずしも個人にひも付いている必要はない。誰の携帯を借りても,コンビニのMMKでも,友達の車のカーナビでも,ネットワーク上の自分の環境を利用できるようになれば,身の回りのどこかにネットワークに繋がった端末さえあれば多くのことは足りるようになる。ホテルに泊まった時でもテレビは自分の好みのチャンネルを中心に設定されるし,目の悪い高齢者であれば自動的にフォントを大きくすることもできる。
2つ目は端末同士の協調分散化である。我々(特に日本人)はこれまでも電子手帳,ウォークマンなどPC以外の小型デバイスを好む特性を持っていたが,それぞれはスタンドアローンであり,協調して動作することはなかった。しかし,IPベースでネットワーク化され,Bluetoothのような技術で端末同士がお互いに通信し,協調して動作するようになると,電子レンジやエアコンなどの家電も含めて我々がインタラクティブにイベントを発生させなくてもコンピューティング同士が勝手に仕事をするようになる。
特に携帯の可能性は大きい。例えば音楽ホールにコンピュータがあり,携帯電話が近づくと,携帯電話とホールコンピュータがお互いに通信し,ここは自動的にマナーモードにするべきと判断するようなことも可能になるし,電車の中の温度はその時乗車している人達の希望温度の多数決で自動的に調整されることもあるかもしれない。口説こうとしている彼女の携帯と自分の携帯が通信し,彼女の音楽の趣味に合わせた着メロに自動的に切り替わるなどという洒落たことまでをもしてくれるかもしれない。ナップスターやグヌーテラなどの登場で注目されているP2Pのアプリケーションを動かすこともできるだろう。
こうした時代になるとオンラインサービスもWeb上でのメニューを充実させる方向から利用者の時間と場所と使用端末とその時の状況に応じて提供するサービスやコンテンツやインターフェイスなどがダイナミックに変化するようなものに変わるのだろう。オンライントレーディングサービスなどは朝のTV,通勤途中の電車の中のPDA,会社のPC,営業中の車のカーナビなどを通じて24時間最適なサービスを提供できるかどうかが勝負になるかもしれない。当然ボスの端末が近づいてきたら自動的に各端末の画面が切り替わる「自動ボスが来たモード」は欲しい機能である。

2000年11月2日木曜日

「LookWest」韓国に学ぶべきIT政策。日本に求められる「ITビッグバン」

(2000年11月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

■日本を抜き去った韓国
アジアでもっともトラフィックの多いWebサイトをご存じだろうか?ある調査サイト(http://www.alexareseach.com/)の結果では韓国のdaum.netというポータルサイトである。日本のyahoo.co.jpは4位であり,韓国のyahoo.co.krが2位である。ちなみにTop10の中で8サイトが韓国であり,残りの1つは台湾のサイトである。全世界のTop10でも3つは韓国サイトである。ご存じの人もいると思うが,韓国のインターネットユーザーは1700万人を越えており,人口4500万人の国なのですでに40%近い普及率であり,日本を追い抜いている(普及率では台湾にも抜かれている)。インフラもADSLが急速に普及しており(現在220万加入を越えている),家庭になくてもPCルームというADSLに接続されたパソコンを利用できるインターネットカフェのようなものが全国に2万件有り,1時間200円ぐらいで利用できる。証券取引は70%近くがオンライントレーディングであり,インターネットゲームではプロリーグまで設立され,プロのゲーマーになった若者は大学に推薦で入ることまで可能であり,世界中からプロのゲーマーが韓国へ移住することまで始まっている。

■IMF危機が韓国のITビッグバン
私は93年からの日本のインターネット商用化を見てきた中で,「いったい日本はこの7年間何をしていたのだろう?」と考えてしまう。ある意味では日本はIT化において完全に抜かれたわけであり,この現実をきちんと検証することは大事なことだと感じている。最近やっと我が国でも政府レベルで具体的なITへの対応の施策が次々と登場しているが,お隣韓国では3年前のIMF危機と呼ばれる金融恐慌で全てが変わった。財閥を中心に大企業が次々と倒産,レイオフを行い,優秀な人材が大量に失業者となって放出された。政府がITにかけた意気込みの違いは想像以上のものであったのだろう。国を救うためにIT・ベンチャー分野に次々と手が打たれた。通信会社は電力会社を参入させるなど,完全に競争環境が整備され,ADSLが競争原理の中で普及している。失業者の創業支援制度,ベンチャー認定されると税金が50%免除になる制度,ベンチャーを入居させると課税優遇されるベンチャービル制度,国の補助金による主婦インターネット教室や学校へのインフラ導入。家賃やネット代が無料で利用できる大量のインキュベーションセンターの整備。郵便積み立てを行うとパソコンを激安で購入できる制度。オンラインだけで証券取引を可能にする法改正など,とにかく国ができることは何でもすぐに行った。その結果が現在の状況である。もちろん韓国も世界的なネット系に対する厳しい評価は例外なく始まっており,株価は低迷している部分もあるが,KOSDAQには数百のベンチャーが上場しており,玉石混合の中でも切磋琢磨が行われている。これらはIMF危機がまさにビッグバンとなり,既得権益が吹っ飛んだ中だったからこそできた改革だったのかもしれないが,政府と民間が一体となってやる気を出せば3年できることを韓国は証明してくれた。

■日本に求められる「ITビッグバン」
橋本政権における金融ビッグバンは金融のメガコンペティションの中で危機感が生んだ政策であった。IT基本法などは評価できるものの,日本のIT政策はとてもゆっくりしており,まだまだ閉塞感の打破や次世代の産業育成のためという趣旨を抜け出していないような感がある。しかし,インターネットとMosaicが登場してすでに7年。7年前からこのネット時評のコラムニストの多くの有識者は「革命が来た!」と叫んでいたはずである。あと3年でAfterWeb10年(Web以前をBeforeWeb,以後をAfterWeb)であり,ドッグイヤーでない時代でも10年は一昔である。今から3年後までのタイムスケジュールの中で,NTT問題,通信放送融合,各種業法の見直し,ベンチャー政策を始めもはや政府の政策は危機意識を全面に出した「ITビッグバン」と命名し,民間の既得権益の退場を予告し,金融ビックバンの時のような国民全体でコンセンサスのとれるような推進力を持つべきだと考える。「LookEast」という言葉があったが,まさに今韓国は日本から見て「LookWest」となっている。

2000年10月12日木曜日

リアルとサイバーを繋ぐ位置情報

(2000年10月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

「i-mode」の成功により,世界に向けて挑戦をするDoCoMoの動きが活発である。AOLもDoCoMoをパートナーとして選んだことで,世界の中でのDoCoMoに対する期待も大きくなってきており,ある意味で世界がモバイルネットサービスの巨大なマーケットを確信したとも言えるだろう。これまで遅れ気味であったWAPをベースにしたモバイルアプリケーションも欧米やアジアなどの日本以外の国でも急激に立ち上がってきている。メールの利用やWebへのアクセスは普通に利用できるようになってきているが,PCでのインターネット利用と大きく異なる技術的特徴として筆者がもっとも注目しているのは「位置情報」である。現在日本ではPHS事業者が基地局のエリアが狭い特性を利用して,位置情報を特定し,場所を知らせたり,その場所の周辺の情報を提供するサービスがスタートしているが,来年か日本でもスタートするIMT-2000はその技術的特性から,携帯電話でもこれまでよりも狭い範囲で位置を特定することができるようになる。さらに,衛星を利用したGPSを組み合わせることも進んでおり,米国国防省が民間利用促進のため,これまでよりも精度を高めていることと,米連邦通信委員会(FCC)が2001年までに米国のすべての携帯電話がGPS機能を搭載することを義務づけた(911-緊急電話に電話があった際に、発信者の位置を迅速に特定するためとなっているが,犯罪等の防止など政府が情報監視をしやすくするためではないかという説もある)ことで,携帯電話は今自分のいる位置情報を発信できるツールになりつつある。こうした動きの中で米国でもアットモーション,フォン・ドットコムやエアフラッシュなどのベンチャーが位置情報をベースにしたサービスやプロダクトを準備しているし,日本でもNTTDoCoMoが三井物産等と共同で「株式会社ロケーション・エージェント」という会社を設立させており,来年にはサービスを開始する予定である。
では位置情報はどのような変化をもたらしてくれるのだろうか。これまでサイバースペース上では様々なビジネスモデルが登場し,自宅や会社の机の上で時間と距離の制約を超えたビジネスへの挑戦がすすんできた。さらにはクリック&モルタルということで実在店舗との連携なども模索されてきているが,携帯電話はリアルタイムで街の中を移動中に「現在の場所」という情報でサイバースペースと繋がることができる。当然自分の位置を知って,地図を表示するということは普通に考えられるが,第三者がこの情報を共有できることでビジネスモデルが多様に広がる。
例えばマクドナルドが周囲500mにいる人にこれから1時間だけ有効なクーポン券を携帯電話に配信する。街の魚屋さんが売れ残った魚を,周辺にいる人に対してオークションする。携帯上でしか場所を教えてない秘密クラブ,3時間前にそこにいた人から,3時間後にそこに来る人にメッセージをとばす,北北西へ向かっている人だけを抽出して「北北西へ進路をとれ」コミュニティを作る等等。当然ナンパも変わる,登録しておいたプロフィールにマッチした人が周囲1km以内に登場した場合に知らせることも可能になるだろう。位置情報の登場は確実に現実世界のビジネスを大きく変化させる第一歩となることは間違いないし,声をかける勇気の無いあなたでもサイバースペース経由で目の前の美女にナンパができるようになる第一歩にもなるのかもしれない。

2000年9月11日月曜日

第四次産業

(2000年9月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

Amazon.comの株価低落に代表されるように,BtoCに対する見直し機運は世界的な傾向として顕著になってきている。単純に販売チャネルとしてリアルなものをオンラインに置き換えた「e-somthing系」はのきなみ市場の評価も厳しいようである。これらは既存の小売り業のひとつの形態に過ぎず,既存の小売り業よりもはるかに高い利益率を生み出すことは難しいという評価が一般的である。
しかし,こうした状況の中でも「eBay」やBtoBにおける「e-Steel」などのeMarketplaceマッチング系サービスなどは高い評価を得ている。これらのサービスの特徴としては物流など,固定費としてかかる部分を抱えておらず,いわゆる「情報流」に付加価値をつけることでビジネスをしている。例えばオークションサイトはそもそもニーズとニーズのマッチングをしていたり,価格を形成したり,信用を作るために過去の取引履歴をレイティングすることで格付けなどを行ったり,情報の付加価値を生み出す仕組みである。
しかも情報流だけでビジネスを行うことができれば,地理的要因など物理的な制約がなく,ビジネスを拡大していくことも可能である。こうした情報流のビジネスは今後さらに様々なものが考えられる。現在急速に増えているASP(アプリケーションサービスプロバイダー)もプログラムという情報流の付加価値を提供することで対価を得るビジネスモデルである。ASPはパッケージソフトをネットワークを介して利用するものもあるが,これはリアルタイムで利用者に個別の付加価値を提供することで対価を得やすくなったとも言える。つまり,身の回りでさらにつきつめていくと様々な世界が描ける。
例えば炊飯器メーカーはこれまで炊飯器の付加価値を高めるために,お米を美味しく炊くためのノウハウを研究し,炊飯器にマイコンとして内蔵させてきた,しかし,消費者は購入する時に炊飯器としてしか判断しないため,どんなに付加価値の高いソフトウェアを内臓させても倍や3倍の価格で販売することは難しかった。
しかし,もしネットワーク対応の炊飯器になり,その日その時その人がもっとも美味しくお米を炊くためのパラメーター(味覚,湿度,気圧,お米の成分,水分含有量など)から,プログラムを生成し,炊飯器にネットワークを利用して送り込むことが可能になったとしよう,この場合消費者は美味しくお米を炊いてくれるプログラムに価値を見いだしてくれるため,プログラムだけを毎月か一回毎かで有料で販売することが可能になる。すでに価値は炊飯器というハードにあるのではなく,自分自身のために価値を与えてくれるプログラムというコンテクストに価値があると言えるだろう。これは前回も少し触れた個人個人の曲を選曲してくれる「パーソナルDJ」サービスもそうである。こうしたネットワークを介して情報流の付加価値を創出することは,従来パッケージなどハードウェアと一緒になっていたり,対面で人が直接サービスするなどで物や時間の制約で埋もれていた価値を外にアンバンドルすることで,大きなビジネスを生み出すことを予感させる。それは製造業の2次産業やサービス業の3次産業とは異なり,まったく異なるビジネス特性を持つことから,知識集約型の新しい産業「第四次産業」として,違う概念で捉えてもいいのではないか。そしてIT立国が目指す産業モデルとして日本も積極的に新興していくべきものであると考える。

2000年8月11日金曜日

著作権ビジネスモデル=護送船団方式?

(2000年8月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

米国で19歳の若者が開発した「Napster」の登場は多くのインパクトを各方面に与えている。音楽データが無料で交換されることで,多くの損害が出るということで,全米レコード協会は徹底抗戦の構えを見せている。さらに最近では「Gnutella」など制御する中心サーバーをもたないアプリケーションの登場がさらに音楽業界の危機意識をあおっている。
パッケージビジネスの前提が崩れつつある中,デジタルコンテンツビジネスは既存のビジネスモデルを活かした形で緩やかな変化を望む既得権益の人達の希望をことごとくうち砕く方向に行っていると言えるかもしれない。
そもそも,現在のCDなどのパッケージはふたつ3つの価値の集合体である。一つ目は音楽そのものの価値,二つ目は選曲,編集の価値,三つ目はデザインなど物体としての価値である。デジタル化によって3つ目の価値が喪失したが,一つ目の音楽そのものつまり,コンテンツとしての価値が自由に流通できるようになったわけだが,忘れてならないのが,二つ目の選曲の価値である。例えばあなたが,1000曲ハードディスクに音楽データを持っていたとしても,毎日その中から聞く曲を選ぶのは結構大変なことだろう。何しろ,CDと違って選曲されていないため,色んなジャンルがあればランダムに聞くのもたぶんクールにはならない。そこに例えば,あなたの好みや過去の試聴履歴,季節や話題などを考慮して,今日聞くべき曲のリストだけ送って来てくれる「パーソナルDJ」サービスがあったとしたら,どうだろう。この場合の価値はあなたのハードディスクの中の音楽にあるのではなく,選曲してくれるパーソナルDJの人の選曲という「コンテクスト」にあることになる。この価値の対価を有料でビジネスにすれば,コンテクストの収入を音楽にまわすビジネスモデルを考えることもできるかもしれない。
つまり,パッケージからデジタルの流れは,パッケージ課金からコンテンツ課金というだけではない様々な多様なビジネスモデルの登場をもたらす可能性を秘めている。現在のノンパッケージディストリビューションの議論は違法コピー防止と課金手法の多様化のところで白熱しているが,ネットの普及がアーティストとオーディエンスの関係を変えてしまう以上,既存のビジネスモデル以外の選択肢の開拓は必要不可欠な段階に来ている。
振り返れば中世の時代は多くの芸術家は,特定の王侯貴族などのパトロンから活動費用を得ていたわけであり,近代の著作権の考え方はレコードなどの大量生産の流れの中で確立していったモデルである。しかし,工業社会から知識情報社会の変化の中で金融商品の発達している英国ではデビットボーイなどがアルバムを制作するために債券を発行するなど,新しいモデルも登場してきている。ファンというコミュニティが小口のファンドを出資して,活動を支え,産み出される作品や活動収益を配当するという金融モデルとの組み合わせも一部始まっており,インターネットのコミュニティが多数でてきている中では今後も広がっていく可能性があるだろう。つまり,IT革命とサイバースペースの登場はアーティストが活動費用を多様なビジネスモデルに委ねることを可能にするわけで,「Napster」の登場は,違法コピーしほうだい!「Gnutella」は足がつかない!という側面で見るのではなく,多様なビジネスモデルの可能性が目の前に登場してきたと捉えるべきだろう。そのため,「著作権ビジネスモデル=護送船団方式」のように守るよりは既存のアーティストやオーディエンスが挑戦する環境を整え,既存著作権の仕組みの中での不利益を最小限にとどめる保険の仕組みなど,まさに金融業界が変化せざる負えないと同様に新しい仕組みを整えることを考えるべき時期に来ているのではないだろうか。

2000年7月10日月曜日

NTT再国営化論!

(2000年7月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

前回韓国の事例を紹介したが,アジアも通信インフラの高度化が急速に進展している状況の中,足踏みをしている日本でもNTTのあり方を含めて,通信インフラの問題が改めて議論されている。例えて言うならば使い勝手の良い道路整備がされていないまま,ファミレスやショッピングセンターなどのロードサイドビジネスが産業として立ち上げりつつある状況が今のECの置かれている状況であり,ロードサイドビジネスが「道路整備と車の普及によって生まれた新しいライフスタイル」を捉え,成長したビジネスであったならば「ネットの普及によって生まれる新しいライフスタイル」は新のデジタルインフラ無しでは進化しないわけである。
これまで米国のAT&T分割などをお手本にしてきているが,もはやデジタル時代は状況が異なるし,通信と放送両方の視点も必要になる。そこで現在議論されているNTT,NHKを含めて今回は私の大胆な私案を紹介したい。
まず日本の特殊事情として,これまでの通信インフラはNTTが税金と加入者権という特殊な債券を国民から集めて,整備してきたものである。またNHKも特殊会社ということで,受信料という絶対的な徴収メカニズムを持って,放送インフラの整備に当ててきた。つまり,この両者をただ民営化してもゼロに近い状態からスタートする企業がまともな競争にならないのは当たり前の話しであり,NTTの企業努力だけにするのも難しい話しである。一番重要なのはデジタル時代にふさわしい競争構造にすることであり,本当の基盤インフラとデジタルネットワークのプラットフォームとその上のコンテンツ・サービスの3層は異なるものであるという認識が必要である。そこで時代に逆行するという人もいるかも知れないが,NTTの再分割はダークファイバーと呼ばれる光ファイバーとメタリックの線そのものや電柱,交換局設備などハードウェアを所有する基盤インフラ部分を日本通信公団として,期限を定め一定のインフラが整備されるまでの時限特殊法人とし,税金を財源とすることを提案したい。各自治体の所有する下水道の光ファイバー,第三セクターの赤字CATVなどの公的インフラも吸収可能なものは一緒にするのもいいだろう。
そうした上でNTTの東,西含めて他の市内通信事業に参入する通信事業者は公団から設備を同一の条件で借り受けて,プラットフォームとしてのデジタル通信サービス事業を展開する。これにより,外資系の通信事業者も同一の条件での参入が可能であるし,大規模な設備投資が必要なければADSLなどのベンチャー通信会社も簡単に参入できる環境が整うことになり,設備を借りてケーブルテレビ会社までもスタートできる。また懸案のユニバールサービスとして過疎地域へのサービスも含めて補正予算等で国が通信インフラを支援することも容易になる。
税金は道路の財源と同様に目的税化し,通信料金の一部と通信ハードウェアに課税する。そもそも高い通信料金をNTTに吸収され使い道がよくわからなくなるよりは,一部がきちんと税金化されることで,きちんとデジタル社会のインフラになることが明確になる方がよいだろう。ADSLも過渡的なものであり,やはり長期的には安い光ファイバーが日本全国に行き渡ることを今のうちに行うことは重要である。
そしてもうひとつ重要なのはNHKの受信料である。これもインフラ整備とコンテンツ制作の費用は分離し,少なくともインフラ部分は税金とし,放送設備整備のための財源とし,広く民間企業に解放することが望ましい。(コンテンツ部分もあいまいな受信料制度は改定されるべきだが)
税金の一部はデジタルデバイド解消や,セキュリティ開発などデジタル社会で公的な費用として必要な財源にするのもいいだろう。
そして10年後にはまた新しい枠組みを考えればよいと考える。
あくまで大胆な仮説ではあるが,みなさんのご意見を是非聞きたいところである。

2000年6月12日月曜日

サイバーコリア

(2000年6月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

日米ともに一時のネットバブルの熱狂がやや冷め,ネット企業に対する選別の目は厳しい状況になってきている。その状況はアジア国々にも同様に波及しているようであり,日本のお隣韓国でも同様にハイテク関連の株価下落は起きている。しかし,韓国の状況は日本や米国とは異なる独自のサイバー化が進展しており,その状況は非常に興味深いものがある。筆者は5月末に韓国を訪問し調査してきたので,今回その状況を紹介したい。まず何よりも驚くのは街の看板に「ADSL」という言葉が普通に存在することである。ISDNが普及してしまった日本ではようやく一部の企業が実験を開始した状況であるが,韓国はISDNが無く,さらに市内電話網に競争環境が導入されていることから,ADSLが自然に普及し,高速な定額サービスが当たり前のように利用されている。このことは2年間で爆発的にインターネットを普及させた大きな要因としてあげられる。現在では利用者数も1200万人を越えており,絶対数では日本より少ないが,人口4500万人の国なので30%弱の普及率となっており,普及率では日本を越えている。国をあげてのベンチャー施策の影響もあり,コスダックという株式市場ではすでに500社を越える企業が上場しており,個人投資家ブームも起きているが,投資家の半分はすでにオンライントレーディングを利用しているという状況でもある。
また韓国は日本と異なり,プレイステーションに代表されるゲーム機がほとんど普及していない。そのため,流行しているゲームはほとんどが「スタークラフト」などのPCゲームであるが,その利用場所が凄い。ADSLのおかげでインターネット使い放題のPCを利用できる「PCルーム」という日本ではインターネットカフェのようなところがなんと全国で1万5千店にもなっており,そここそが主戦場である。子供達は学校の帰りなどに,友達とPCルームでオンラインゲームに熱中し,さらに驚くべきことはこうしたオンラインゲームは種類毎に地域別,年齢別にランキングされており,優秀なゲーマーはプロとしてスポンサーが付いてTVに出演したり,イベントに出たり,推薦で大学に入学できたりする状況があり,そうしたプロチームは次々と増えている。まさにゲーマーが親を養い,キャリアアップの道であるのも驚きである。
ネットが生活スタイルを変え,財閥中心からベンチャー主導への産業構造の転換を促した,要因としてはIMFの影響も大きい。1998年頭頃は韓国経済は最悪の状態に陥り,大手の銀行,財閥も倒産が続出した。失業者も増え,韓国にとって,構造改革はするものではなく,他に選択肢はなかったと言える。このことが,IT産業を育成していくことと,ベンチャーが新しい雇用を創出していく社会へと見事なまでに変身させた。日本は金融危機を乗り切りはしたが,痛みも制限したので,その分ドラスティックな社会変革は中途半端に終わったと言えるだろう。国家主導でIT化を進めたマレーシアなども必ずしも成功している状況ではないが,国家の危機の結果としてサイバーコリアが誕生したのも興味深い。もちろんあまりにも一度にインターネットブームとベンチャーブームが到来している,急すぎる変化の危うさも多数存在するが,ベンチャー企業も選別淘汰されるだけの絶対数が存在するところは日本とも異なる。社会がサイバー化していくモデルは多様であり,米国の道だけではないことを改めて感じた訪韓であった。