藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2001年1月16日火曜日

ユビキタスコンピューティングがもたらす無限の利用シーン 〜欲望喚起型サービスも可能になるeビジネス〜

(2001年1月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

マルチメディア狂想曲が吹き荒れていた90年代前半においては,マルチメディアの範囲が広く,夢のように様々なビジネスアイデアが議論されていたものであるが,現実的なインフラとしてのインターネットが登場してからは,まずインターネットで実現できる現実的なビジネスに人々の関心が移っていった。
現在提供されている多くのドットコムビジネスはまさに現実の環境そのものであり,家や会社のPCを利用した限られた利用シーンを前提にしているものばかりである。
例えば,現在のポピュラーな利用シーンとして,人々は会社の机の上でお昼休みに多少周りの人に気を遣いながら株を買っていたり,終業間際の夕方に週末の旅行を予約したりしている。また家庭では通信料金が安くなり,テレホーダイも始まる23時から夜中に一人自分の部屋の机の上でネットサーフィンしたりするような人々がメインである。
Yahoo!が現在成功している大きな要因は,何よりもこの現在の利用シーンにおいて,この「素早く自分の捜したい情報を見つける」という行為がもっともマッチしているからに他ならない。残念ながらこうした利用シーンにおいて一次流行したプッシュサービスはマッチしなかったと言えるだろう。誰も見ていないPCのスクリーンセーバー上で情報がむなしく提供されていたことも覚えている人も多いと思われる。
しかし,今日我々が迎えようとしているユビキタスコンピューティングの時代においては,人々はテレビや携帯やカーナビやMMKやPCなどあらゆる時間と場所から,その時もっとも使いやすい端末でネットワークにアクセスすることが可能になるわけで,これまでの限られた制約から解放されることになる。
実際,現在人気のiモードなどでも上位にくる利用サービスは電車の終電を調べるサービスや乗り換え案内をしてくれるサービスなどであり,これは電車に乗る直前や,帰りの居酒屋でこそ必要になる情報であり,その情報が必要な人にとっては,その瞬間,その場所では例えお金を払ってでも欲しい場合もある。しかし,同じ人が会社を退社する17時に机の上のパソコンでその情報を調べたとしても,その時点では必要性は低く,無料ならいいが有料では利用する気になれないだろう。これは利用シーンが異なると,同じコンテンツでも価値に違いが生じることを意味し,時間や場所などで生活者のニーズは異なり,ビジネスとして成立する場合もあれば,成立しない場合もあるということである。さらに,これまでeビジネスにおいて,PCを想定した場合,我々は一人で会社か家のPCで利用する人を多くの場合想定してきたはずである。この利用シーンにおいて,子供向けのプレゼントのECを考えた場合,きっと親がクリスマスや誕生日に買って上げるサービスを想定するだろう。今の子供が喜ぶおもちゃの紹介や,値頃感をアピールするに違いない。しかし,もし自宅のテレビでオンラインショッピングが普及したらどうなるだろう。あなたがあげようと思う,思わないに関係なく,欲望の固まりである子供達はテレビを見ている。そして,そこで販売される魅力的な商品に思わず声をあげるだろう「パパこれ買って!」しかもそれは限定商品であり,子供の目の前で在庫数を示す表示が減少していけば,さらに子供は叫ぶだろう「パパ早くしないとなくなっちゃうよ!」つまり,ECショップは子供達の欲望をあおることで,ビジネスチャンスを拡大することができるのである。同様にあなたの奥様や彼女が見ていることを想定した,宝石や旅行など欲望を喚起するサービスも出てくることは間違いない。これまでのECではニーズを持つ人と意志決定者はあくまで利用者本人であるために「One-To-One」がもてはやされている。しかし,世の中には欲望だけたくさん持っている人がたくさん存在し,その人達にプロモーションすることでニーズを喚起し,お金を持っている人に決定させるマーケティングもたくさん存在する。我々はこれまでPCモデルにおける非常に狭い範囲の利用シーンの中でドットコムビジネスを語ってきているが,これから我々が手に入れる環境ではまだまだ無限の利用シーンが待っている。これまではとてもビジネスにならなかったことが,場所と時間と重要度など利用シーンが変わるだけで大きなビジネスに繋がる可能性がでてきているのだ。そしてユビキタスコンピューティングがいち早く進むことが期待される日本市場においてこそ,こうしたきめ細かな利用シーンに対応した新しいe-ビジネスが多数登場してくることが期待できるのではないだろうか。

2001年1月15日月曜日

外資上陸とeビジネス

(2001年1月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)


幕張にフランスから世界第二位の小売り業カルフールが上陸した。電力業界では米国エンロン社が日本に上陸しようとしている。21世紀の黒船達は不景気になりそうというこの状況でもバブルの負債を抱えた国内企業を後目に日本市場を目指してくる。この市場というのは世界から見てとても美味しいマーケットに映っているようだ。それは国民が平均的に高い購買力を持ち,さらに同一人種であることから,購買行動が同質化されており,一度支持されれば一気に広がるマーケットであることも理由のひとつであろう。それは既存のサービスに必ずしも満足していない消費者がたくさんおり,決して保守的ではなく,いいものがあればすぐ新しいものに乗り換える特性を持っている。長い歴史を持つ衣料や小売り,外食産業でも絶えず,革新は起こり,既存プレーヤーは安泰ではない。
新しいプレーヤーの登場を促す要因として規制緩和と技術革新が大きな役割を果たすことはこれまでの歴史が証明している。大店法改正とともに上陸してきたトイざラスはたちまち既存玩具市場を破壊した。POSをベースにした単品管理はコンビニを小売りの覇者に押し上げた。自動車の登場とライフスタイルの変化が駅前商店街や百貨店から郊外型大型SCに顧客を移動させることを可能にした。
そして今再びチャンスは訪れようとしている。それはeビジネスという新しい武器である。カルフールの安さの源泉であるメーカーからの直接調達率は日本では卸業者の抵抗で現在は全体の約六割という状況である。これまでであればやはり日本の商慣習に屈するかと言われるところであるが,eマーケットプレイスの登場はこうした状況を激変させる可能性がある。すでにカルフールは世界の大手小売り7社が出資する電子市場「グローバルネットエクスチェンジ(GNX)」に参加しており,こうしたeマーケットプレイスの利用が広がることで,既存のノウハウをそのまま活かし,海外の市場でも調達を容易にした形での参入が可能になっていくだろう。
また電力分野における規制緩和とともに参入してきたエンロン社は発電所も建設を計画しているということでまさに今頃重厚長大産業の典型がというふうに見えるが,同時にエンロンジャパンはエンロンオンラインというエネルギーの含めた産業素材のeマーケットプレイスも併せて投入する。ここで電力需要の取引ができることで川上から川下までのバリューチェーンを握ることが可能になるわけであり,これもeビジネスがあることでより強力な参入を実現できることになる。
つまりある強いビジネスモデルを持ったプレーヤーが,新規参入する国の市場において足りない部分でeビジネスを活用できれば,これはまさに強力な参入チャンスになると言えるだろう。eビジネスの普及はこれまで流通慣行や商慣習に阻まれて参入できなかった外資にとってはまさにウェポンになろうとしているのだ。
もちろん,逆に考えれば,日本企業もeビジネスにより海外進出の機会を得ることができることも確かである。中国を始めとするアジアマーケットは何度も痛い目にあった企業も多いが,eビジネスが浸透すればいよいよ本当に上陸が実現できるかもしれない。eビジネスが特定の強いバリューをすぐに接続することを容易にしつつあるということで,強い企業はますますグローバルに展開できるチャンス増やすだろう。eビジネスの浸透は業界や業種を問わず,国際的な競争の障壁をますます低いものにすることだけは間違いない。

2000年12月11日月曜日

暫定インターネットから常時接続:真のインターネットへ

(2000年12月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

○暫定インターネットの登場
1993年末にMosaic(初期のブラウザー,Netscapeの前身)が登場して,インターネットビジネスが花開くまで,インターネットは研究者や一部の人たちが利用できるものであり,専用線で多くのUNIXコンピュータが常時接続され,分散コンピューティングの実験が進んでいた。しかし,WWWとMosaicの登場により,インターネットは大衆レベルで利用できることを求められ,PCでの利用と電話線の利用を前提としたサービス中心になり,必要な時だけ遅い回線で接続される「暫定インターネット」となった。初期のホームページは豊富な画像を用いたものも見られたが,すぐに軽さが命となっていく。また,多くのインフラはインターネット利用を前提に整備されたものではないため,常時接続には多くの非効率さが存在した。現在の交換機を利用した音声目的で整備された電話システムの上でパケットデータを流す状況はそもそもコスト効率が悪い。ISDNも当初常時接続を想定していないため最近の定額接続サービスでは問題も発生している。また現在の携帯電話網も色々な工夫をしてインターネットデータを流している状況がある。これまでの6年間はこうした,暫定的なインターネット環境のもとでインターネットが普及してきた段階であったが,2001年以降はようやくインフラがインターネット技術に追いつこうとしている。

○本当のインターネットのレベルへ
 現在大手キャリアが続々と参入を表明しているADSLは,交換機を介さないインターネット網をようやく実現しつつある。携帯電話におけるIMT-2000は最初からデータ通信利用を想定して規格策定が行われた。デジタル設備に置き換えたCATVは巨大なLANになった。こうした大量の高速なパケットデータを想定した高速常時接続環境の登場は,技術者が1993年当時に実現していたインターネット環境に,ようやく一般レベルで追いつき,追い越すことを意味する。現在2千数百万人と言われている我が国のインターネット利用人口はまだまだ暫定インターネットの利用人口に他ならない。真のインターネットはやはり常時接続であり,通常のデータ転送においてストレスを伴うものであっては行けない。時々しか走れず,ところどころ舗装されていない道路が整備されている状況で,ロードサイドビジネスが花開くだろうか?ロジスティックを確保しコンビニがジャストインタイムでビジネスをできるだろうか?答えはノーであることは明かであろう。逆に言えばこれまでこの暫定インターネットでよくここまで人々が我慢し,利用してきたと言える。Yahoo!は舗装されていない道路でも,軽い自転車に乗ってサクサクと新聞を配達してくれているようなものであるのかもしれない。

○常時接続で変わる利用スタイル
 ADSLなどはブロードバンドという言葉で高速化の方が話題になっているが,筆者はむしろ常時接続の方が利用者のインターネット利用の感覚を大きく変えることを予想している。ゆっくり落ち着いた状況でオンラインショッピングできたり,チャットでリアルタイムなコミュニケーションが増えることは簡単に想像ができるが,さらにデータはいつでも取りに行けるため,手元に残しておく感覚も減っていくだろう。すぐ近くにコンビニできれば,冷蔵庫の中にいつもビールを入れておく必要が無いのと同じで,音楽や大事なデータは自分のハードディスクの中にしまうのではなくネットワーク上の倉庫に預けるサービスが増えるだろう。ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)のサービスが増え,自分のパソコンにアプリケーションをインストールしておく必要も無くなるだろう。マイクロソフトもすでに「.NET」構想でこうしたコンセプトのアプリケーションを開発している。こうなることで携帯からでも,他人のパソコンからでも必要な時に自分の必要なデータとアプリケーションを利用できるようになると予想される。またナップスターのようなP2Pアプリケーションも,常時接続された環境でこそ成立する。このように常時接続で可能になるビジネスモデルの可能性は大きい。これまでの暫定インターネットでもここまで広がったインターネットビジネスが利用者の常時接続環境において,さらに次のステップにあがることを想像すれば,ビジネスチャンスもまたとても大きいものがあるのではないだろうか。

2000年12月4日月曜日

P2Pのビジネスインパクト

(2000年12月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

○第2のMosaic
93年にMosaicが登場した時の衝撃は,今日のインターネットの普及を見ても,誰の目にも明かなインパクトであった。それはMosaicでインターネットに出会う人にもそうであったが,従来からTelnet,FTPを利用しつつ,Gopherで分散ファイル管理を頭では理解していた人にも,同様にインパクトが大きかった。「これでビジネスになる!」筆者もそうであったがそう感じた人は少なくなかっただろう。ジムクラークもその一人であったに違いない。そういう意味ではNapsterの意味するところは同じようなインパクトであるのかも知れない。P2Pモデル自体は決して新しい概念では無いわけだが,それを具体的に音楽データの交換という非常に具体的かつ実用的なレベルに分散コンピューティングのイメージを与えたというところで第二のMosaicと言われるゆえんがある。

○コンテンツとコンテクストの分離
音楽データの流通に関しては,レコード会社やアーティストを含め,これまでのビジネスモデルとの親和性を維持しつつ,緩やかに移行できるモデルを目指した取り組みが真剣に行われてきた。基本は現在と同じようにデジタルコンテンツとパッケージメディアの価値を同等と考え,価格を設定し,著作権と手数料を徴収するモデルである。しかし,デジタルコンテンツはパッケージメディアにおける価値と明かに異なる価値であることは言うまでも無い。例えばこれまでCDが持っていた3つの価値は,1)「パッケージ」デザインとか飾っておきたい価値と2)「コンテンツ」音楽そのものであり聞くことができる価値と3)「コンテクスト」選曲の価値があった。パッケージの価値は明かに喪失しているし,コンテクストである選曲の価値もそこには存在しない,LP時代から使われているアルバムというのは,言葉通り様々なアレンジや順番含め複数の曲をトータルで構成したひとつの作品であり,一曲一曲のシングル版とは明らかに異なる価値を持つ。現在のデジタルコンテンツビジネスの多くは,コンテンツの価値を重視し,その権利を売買することをビジネスモデルの基本においている。しかしNapstarの登場は,コンテンツの流通コストが限りなく小さくなった状況の中では,コンテンツ価値よりもコンテクスト価値を重視してビジネスを行うことが可能であることを示した。実際に多くのコピー音楽がNapstarのサーバーではなく,ダイレクトに個人のPC間を行き来しているが,Napstarは誰がどの音楽コンテンツを所有しているか?あるジャンルの好きな人同士のコミュニティを集めることなど,コンテクストの情報そのものに価値の大きさを教えてくれることになった。
例えば,あなたが,1万曲の音楽データを手に入れたとしても,CDと異なり,それを選ぶことは大変な作業になる。しかし,自分の曲の好みや過去の選曲傾向などから,今日のおすすめの曲を選んでくれるサービスや,自分と同じ趣味や価値観の人が最近よく聞いている曲などを教えてくれるサービスが会ったら便利であろう。これはコンテクストの価値を与えてくれることに他ならない。P2Pによって,こうした音楽データや画像データ,様々なファイルやデータに対してコンテクストを与えていくビジネスモデルも十分想定できるようになる。現在はP2P技術で著作権管理を行うソフトウェアの開発なども進んでいるが,むしろこうしたコンテクストを利用したような多様なビジネスモデルを生み出すことインフラとしてP2Pの可能性を広げることが,音楽業界全体としての新しい収益メカニズムを確立していく意味でも大切なのではないかと考える。
現実にこれまでのようにコンテンツ配信ビジネスはコストもかかる。大量のコンテンツを集め,更新し,維持し続けるコストは膨大である。もしインデックスデータのみに価値を与えることができるビジネスが可能であれば,それは低コストで,価値の高いサービスとなる。実際に「gonesilent.com」のようにP2Pのサーチエンジンを開発しているベンチャーなどもでてきているが,こうした考えは狭い範囲で言えば企業内のナレッジマネジメントにも応用できる。全ての社員のデータを一カ所に集めてデータベース化することは非常に難しいことであるが,P2Pの発想で自然にデータのやりとりのコンテクストをマネジメントするだけで,ナレッジマネジメントは可能になるかもしれない。ここでも「GrooveNetworks.Inc」のように,グループウェアをP2Pで行うようなアプリケーションも登場してきている。

○分散処理のメリット
もうひとつの大きな流れは大量のデータ処理におけるP2Pの可能性だろう。現在の集中処理ではさばけない程の大量の計算を低コストで実現することが可能である。「SETI@home」のように宇宙からの膨大な信号を分散処理することなどにすでに利用が広まっているが,「United Devices,inc」などは,同様の仕組みを利用して,企業から複雑な計算処理などを受託することで商用利用することを目指している。自分のPCを提供したユーザーは航空会社のマイルなどをもらえる仕組みもあり,具体的なビジネスモデルも確立していると言えるだろう。現在の暗号化技術もスーパーコンピューター何年分の計算が必要と言っているが,全世界のPCが繋がればあっという間に解けてしまうことになるかもしれない。
また最初から大量に分散しているものの処理にも適している。例えば全国に散らばっている事業所やフランチャイズチェーンなどは現在本社のホストコンピュータに全てのデータを一度送信して処理し,利用しているが,P2Pのテクノロジーにより巨大なマスターデータを管理しない形で,リアルタイムに販売データを管理したり,商品データの更新などが可能になるかもしれない。
同様にモバイルを中心とするNonPCも有望な分野である。今後携帯電話のチップの処理速度は加速度的に高まることが予想され,現在の携帯電話が入れ替わるだけでも日本だけですでに6000万台の端末が町中に存在していることになる。これらがP2Pに接続されれば,例えば「P2Pアメダス」などが考えられる。天気のセンサーを内蔵させ,全国の6000万地域の天気情報を分散管理し,必要な人は瞬時に必要な場所の天気情報を知ることが可能になるだろう。また同様に交通情報も,P2Pを利用することで,全ての道に高度なセンサーを整備することなく監視することができるようになるかもしれない。

○技術発展によるさらなる進化
P2Pをもう一段のステップに押し上げていくためには,いくつか技術発展も望まれる。ブルートースのような端末間通信技術は交換局を通さずに,個別端末同士のやりとりを増やすことになり,自動販売機や家電など,多くのコンピュータ同士がP2Pでのネットワークを構築することを加速するだろう。またエージェント系のインテリジェント技術も必要である。人間のアクションが必要だったり,決まった処理しかできないプログラムではなく,自立的な協調分散処理を実現するために,自動化された多数のエージェントプログラムが人間に代わってP2Pの網の中で一定の処理をしていくことが求められる。
こうしたP2Pはさらに多くのビジネス分野での応用が期待される。例えば医療情報のように病院が全国で一元管理されることをいやがるような世界でも有望かもしれない。カルテや症例など病院間が結ばれれば,必要な部分だけ検索利用が可能な巨大な分散データベースが誕生し,医療の発展に多いに貢献することが可能になるのではないだろうか。このように一元管理することが必要無いことで,自然な複雑系のままでの情報処理も進み易くなり,これまでそのメカニズムが謎につつまれているような「流行」や「口コミ」がどのように広まっていくのかつかめるかもしれず,バイラルマーケティングや様々な社会現象の解明や分析にも貢献していく可能性もあると言えるだろう。

2000年11月9日木曜日

ユビキタスコンピューティング

(2000年11月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

もう10年も前にゼロックスのパロアルト研究所で研究されていた「ユビキタスコンピューティング」(遍在するコンピュータ)の概念が再び注目を浴びている。その背景としてネットワークに接続可能なNonPCの急激な増加である。携帯電話におけるiモードの成功が,Non-PCはPCとは異なるニーズでのネットワークの利用シーンを創造していくことを世界中の人に確信させることになり,米国におけるPC上でのオンラインサービスとしてもっとも成功したであろうAOLも「AOL Anywhere」の合い言葉の元に,電話,携帯電話,PDA,TVの上でAOLのサービスを利用できることを目指しており,DoCoMoともiモードのノウハウを活用するため提携した。
ではNonPCが増え端末が遍在化するとどうなるのか?まずは個人と端末の切り離しが可能になる。これまでWSなどを除き,端末は基本的に特定個人にひも付いている場合が多く,誰の端末かで個人を特定することができた。実際ローカルに個人のデータがあればますますその部分は大きい。しかし,TVや車など家族で共用で利用するものも増える中,個人のデータや環境などはネットワーク上のどこかのサーバーに存在すれば,端末は必ずしも個人にひも付いている必要はない。誰の携帯を借りても,コンビニのMMKでも,友達の車のカーナビでも,ネットワーク上の自分の環境を利用できるようになれば,身の回りのどこかにネットワークに繋がった端末さえあれば多くのことは足りるようになる。ホテルに泊まった時でもテレビは自分の好みのチャンネルを中心に設定されるし,目の悪い高齢者であれば自動的にフォントを大きくすることもできる。
2つ目は端末同士の協調分散化である。我々(特に日本人)はこれまでも電子手帳,ウォークマンなどPC以外の小型デバイスを好む特性を持っていたが,それぞれはスタンドアローンであり,協調して動作することはなかった。しかし,IPベースでネットワーク化され,Bluetoothのような技術で端末同士がお互いに通信し,協調して動作するようになると,電子レンジやエアコンなどの家電も含めて我々がインタラクティブにイベントを発生させなくてもコンピューティング同士が勝手に仕事をするようになる。
特に携帯の可能性は大きい。例えば音楽ホールにコンピュータがあり,携帯電話が近づくと,携帯電話とホールコンピュータがお互いに通信し,ここは自動的にマナーモードにするべきと判断するようなことも可能になるし,電車の中の温度はその時乗車している人達の希望温度の多数決で自動的に調整されることもあるかもしれない。口説こうとしている彼女の携帯と自分の携帯が通信し,彼女の音楽の趣味に合わせた着メロに自動的に切り替わるなどという洒落たことまでをもしてくれるかもしれない。ナップスターやグヌーテラなどの登場で注目されているP2Pのアプリケーションを動かすこともできるだろう。
こうした時代になるとオンラインサービスもWeb上でのメニューを充実させる方向から利用者の時間と場所と使用端末とその時の状況に応じて提供するサービスやコンテンツやインターフェイスなどがダイナミックに変化するようなものに変わるのだろう。オンライントレーディングサービスなどは朝のTV,通勤途中の電車の中のPDA,会社のPC,営業中の車のカーナビなどを通じて24時間最適なサービスを提供できるかどうかが勝負になるかもしれない。当然ボスの端末が近づいてきたら自動的に各端末の画面が切り替わる「自動ボスが来たモード」は欲しい機能である。

2000年11月2日木曜日

「LookWest」韓国に学ぶべきIT政策。日本に求められる「ITビッグバン」

(2000年11月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

■日本を抜き去った韓国
アジアでもっともトラフィックの多いWebサイトをご存じだろうか?ある調査サイト(http://www.alexareseach.com/)の結果では韓国のdaum.netというポータルサイトである。日本のyahoo.co.jpは4位であり,韓国のyahoo.co.krが2位である。ちなみにTop10の中で8サイトが韓国であり,残りの1つは台湾のサイトである。全世界のTop10でも3つは韓国サイトである。ご存じの人もいると思うが,韓国のインターネットユーザーは1700万人を越えており,人口4500万人の国なのですでに40%近い普及率であり,日本を追い抜いている(普及率では台湾にも抜かれている)。インフラもADSLが急速に普及しており(現在220万加入を越えている),家庭になくてもPCルームというADSLに接続されたパソコンを利用できるインターネットカフェのようなものが全国に2万件有り,1時間200円ぐらいで利用できる。証券取引は70%近くがオンライントレーディングであり,インターネットゲームではプロリーグまで設立され,プロのゲーマーになった若者は大学に推薦で入ることまで可能であり,世界中からプロのゲーマーが韓国へ移住することまで始まっている。

■IMF危機が韓国のITビッグバン
私は93年からの日本のインターネット商用化を見てきた中で,「いったい日本はこの7年間何をしていたのだろう?」と考えてしまう。ある意味では日本はIT化において完全に抜かれたわけであり,この現実をきちんと検証することは大事なことだと感じている。最近やっと我が国でも政府レベルで具体的なITへの対応の施策が次々と登場しているが,お隣韓国では3年前のIMF危機と呼ばれる金融恐慌で全てが変わった。財閥を中心に大企業が次々と倒産,レイオフを行い,優秀な人材が大量に失業者となって放出された。政府がITにかけた意気込みの違いは想像以上のものであったのだろう。国を救うためにIT・ベンチャー分野に次々と手が打たれた。通信会社は電力会社を参入させるなど,完全に競争環境が整備され,ADSLが競争原理の中で普及している。失業者の創業支援制度,ベンチャー認定されると税金が50%免除になる制度,ベンチャーを入居させると課税優遇されるベンチャービル制度,国の補助金による主婦インターネット教室や学校へのインフラ導入。家賃やネット代が無料で利用できる大量のインキュベーションセンターの整備。郵便積み立てを行うとパソコンを激安で購入できる制度。オンラインだけで証券取引を可能にする法改正など,とにかく国ができることは何でもすぐに行った。その結果が現在の状況である。もちろん韓国も世界的なネット系に対する厳しい評価は例外なく始まっており,株価は低迷している部分もあるが,KOSDAQには数百のベンチャーが上場しており,玉石混合の中でも切磋琢磨が行われている。これらはIMF危機がまさにビッグバンとなり,既得権益が吹っ飛んだ中だったからこそできた改革だったのかもしれないが,政府と民間が一体となってやる気を出せば3年できることを韓国は証明してくれた。

■日本に求められる「ITビッグバン」
橋本政権における金融ビッグバンは金融のメガコンペティションの中で危機感が生んだ政策であった。IT基本法などは評価できるものの,日本のIT政策はとてもゆっくりしており,まだまだ閉塞感の打破や次世代の産業育成のためという趣旨を抜け出していないような感がある。しかし,インターネットとMosaicが登場してすでに7年。7年前からこのネット時評のコラムニストの多くの有識者は「革命が来た!」と叫んでいたはずである。あと3年でAfterWeb10年(Web以前をBeforeWeb,以後をAfterWeb)であり,ドッグイヤーでない時代でも10年は一昔である。今から3年後までのタイムスケジュールの中で,NTT問題,通信放送融合,各種業法の見直し,ベンチャー政策を始めもはや政府の政策は危機意識を全面に出した「ITビッグバン」と命名し,民間の既得権益の退場を予告し,金融ビックバンの時のような国民全体でコンセンサスのとれるような推進力を持つべきだと考える。「LookEast」という言葉があったが,まさに今韓国は日本から見て「LookWest」となっている。

2000年10月12日木曜日

リアルとサイバーを繋ぐ位置情報

(2000年10月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

「i-mode」の成功により,世界に向けて挑戦をするDoCoMoの動きが活発である。AOLもDoCoMoをパートナーとして選んだことで,世界の中でのDoCoMoに対する期待も大きくなってきており,ある意味で世界がモバイルネットサービスの巨大なマーケットを確信したとも言えるだろう。これまで遅れ気味であったWAPをベースにしたモバイルアプリケーションも欧米やアジアなどの日本以外の国でも急激に立ち上がってきている。メールの利用やWebへのアクセスは普通に利用できるようになってきているが,PCでのインターネット利用と大きく異なる技術的特徴として筆者がもっとも注目しているのは「位置情報」である。現在日本ではPHS事業者が基地局のエリアが狭い特性を利用して,位置情報を特定し,場所を知らせたり,その場所の周辺の情報を提供するサービスがスタートしているが,来年か日本でもスタートするIMT-2000はその技術的特性から,携帯電話でもこれまでよりも狭い範囲で位置を特定することができるようになる。さらに,衛星を利用したGPSを組み合わせることも進んでおり,米国国防省が民間利用促進のため,これまでよりも精度を高めていることと,米連邦通信委員会(FCC)が2001年までに米国のすべての携帯電話がGPS機能を搭載することを義務づけた(911-緊急電話に電話があった際に、発信者の位置を迅速に特定するためとなっているが,犯罪等の防止など政府が情報監視をしやすくするためではないかという説もある)ことで,携帯電話は今自分のいる位置情報を発信できるツールになりつつある。こうした動きの中で米国でもアットモーション,フォン・ドットコムやエアフラッシュなどのベンチャーが位置情報をベースにしたサービスやプロダクトを準備しているし,日本でもNTTDoCoMoが三井物産等と共同で「株式会社ロケーション・エージェント」という会社を設立させており,来年にはサービスを開始する予定である。
では位置情報はどのような変化をもたらしてくれるのだろうか。これまでサイバースペース上では様々なビジネスモデルが登場し,自宅や会社の机の上で時間と距離の制約を超えたビジネスへの挑戦がすすんできた。さらにはクリック&モルタルということで実在店舗との連携なども模索されてきているが,携帯電話はリアルタイムで街の中を移動中に「現在の場所」という情報でサイバースペースと繋がることができる。当然自分の位置を知って,地図を表示するということは普通に考えられるが,第三者がこの情報を共有できることでビジネスモデルが多様に広がる。
例えばマクドナルドが周囲500mにいる人にこれから1時間だけ有効なクーポン券を携帯電話に配信する。街の魚屋さんが売れ残った魚を,周辺にいる人に対してオークションする。携帯上でしか場所を教えてない秘密クラブ,3時間前にそこにいた人から,3時間後にそこに来る人にメッセージをとばす,北北西へ向かっている人だけを抽出して「北北西へ進路をとれ」コミュニティを作る等等。当然ナンパも変わる,登録しておいたプロフィールにマッチした人が周囲1km以内に登場した場合に知らせることも可能になるだろう。位置情報の登場は確実に現実世界のビジネスを大きく変化させる第一歩となることは間違いないし,声をかける勇気の無いあなたでもサイバースペース経由で目の前の美女にナンパができるようになる第一歩にもなるのかもしれない。