藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2002年4月8日月曜日

チャイナパワーをチャンスにする「ジャパンスタイル戦略」

(2002年4月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

中国の台頭が製造業の空洞化と日本の産業力の地位低下をもたらすという脅威論が日本中を席巻している。確かに技術水準が高度化し,WTO加盟を果たした中国は確実に世界の製造業において重要なポジションを占めることは間違いないだろう。しかも,沿岸部を中心とした消費市場の急速な立ち上がりも,大消費地としての魅力をますます高めている。しかし,筆者はいよいよ日本がITを活用した文化としての「ジャパンスタイル」を産業の基本戦略としてアジア市場に対して展開していく時期が来たと考える。
 例えば東京と今や中国成長のシンボルである上海との関係をかつて米国が急速に成長してきた頃の大英帝国におけるロンドンとニューヨークの関係になぞらえることができるかもしれない。当時すでに成熟化した社会であったイギリスのロンドンは文化と常に新しいカルチャーの発信拠点であった。一方ニューヨークは巨大に成長する米国市場を代表する成長都市であり,ヨーロッパの文化は消費対象であり,貪欲に吸収していった。確かにニューヨークは巨大になったが,ロンドンは常に先端的なカルチャー都市として尊敬される都市であり続けた。例えば音楽産業の世界でも米国市場は産業としては巨大であるが,ロンドンチャートは常にアーティストとには尊敬される市場で有り続けた。ロンドンで認められ,米国に移住するのがアーティストのサクセスストーリーでもあった。今後は東京で認められ,上海で巨万の富を築く,ミュージシャン,デザイナーなどが出てくることを予感させる。
ファッション,料理,J-POP,ジャパニメーションなどアジア圏における常に先端的なカルチャーを発信し,コンテンツとしての工業製品の上にスタイルとしてのコンテキストを付加することで真の「付加価値」を作ることがとても重要である。

日本は残念ながら豊かに人生を楽しむことに関しては下手な国であるが,ITを活用して楽しむ文化に関しては世界でのトップクラスの国である。ウォークマンに代表されるAVGショックなどハイテク時計も世界中を魅了した。ビデオゲーム,携帯ゲームに関してはあらためて言うまでも無い。今またロボットを生活の中で楽しむ文化が生まれようともしている。このように特に大事なのはITをコスト削減や効率化のツールとして捉えるのではなく,「楽しみ」や「幸せ」「豊かさ」を創造するツールとして,ITカルチャーによる豊かな社会「ジャパンスタイル」を作りだすことである。具体的に今おこなうべきことはまず音楽,ファッション,空間デザイン,ゲーム,アニメなどジャパンカルチャーのアジアに対する積極的なブランド化と,次にそれらにナレッジとITを積極的に活用することでの産業化を進めることである。そうすることでジャパンスタイルは尊敬され,憧れになり,質のよい工業製品を大量に供給する国からアジアを中心とした世界中の人々に対してきちんと付加価値をとりながら笑顔を供給することを目指す国になれるはずである。

2002年2月19日火曜日

ネットビジネスと規制-古物営業法改正問題-

(2002年2月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました) 


ここのところ,多くのネットビジネスにおいて規制の問題がでてきている。悪質な事業者の排除を目的とした2001年の訪問販売法の改正のあたりから増え始め,プライバシーや著作権のトラブルが増える中,プロバイダーの責任範囲を定めたプロバイダー責任法に続き,社会問題化している迷惑メールについても現在,その規制について経済産業省が特定商取引法を改正しようとしているのに対し,これは議員立法の別案も登場して議論が進んでいる。このように目の前の問題に対し,既存のルールを少しでも適用するための法改正の動きが活発になっていると言える。しかし,この流れが行き過ぎることで,インターネットがもたらした「サイバースペース」が古いパラダイムに逆行することを恐れる。

現在開会されている通常国会において,警察庁が「古物営業法」を改正しようと準備作業を進めている。筆者はこの新しい規制がインターネットオークションビジネスの健全な発展に支障を与えることを危惧している。
今回の古物営業法改正の背景はインターネットオークションを舞台に急増している盗品売買について防止策をこうずるためのものである。確かに少年グループが盗品を売りさばくためにバイクの部品を販売する事例などがでてきており,
何かしらの対策の必要性はあることは事実である。
しかし,今回警察庁が検討している内容は原則規制という従来型の広範囲の規制強化の側面が強く,事業者へ過度の負担を強いる可能性も大きく,こうした前例がその他のeビジネス全般にも波及することなども考慮すると,是非とも慎重な検討を求めたい。

今回検討されている規制ポイントは以下のようなものである。
「事前届出制」
(不適格業者を排除するため,インターネット・オークション事業を営もうとする者は,あらかじめ,都道府県公安委員会に届出書を提出しなければならない。)
「疑わしい古物を発見した場合の警察への申告義務」
(インターネット・オークション業者は,出品された古物が盗品等である合理的な疑いがある場合は,警察への申告を直ちに行うとともに,その結果等から当該疑いに相当な理由がある場合には,出品情報の削除,落札者への連絡などど必要な措置をとらなければならない。)
「行政処分(警察による営業停止処分)」
(インターネット・オークション業者が違法行為を行い,盗品等の売買防止と発見が阻害されるおそれがある場合は,都道府県公安委員会は,「指示」又は「営業停止の処分」を行うことができる。)
「都道府県公安委員会による認定制度」
(国家公安委員会は,安全な(=盗品等が売買されるおそれの低い)インターネット・オークションの運営基準を作成し,インターネット・オークション業者は,基準に適合する旨の都道府県公安委員会の認定を受けることができる。)

こうした従来型の規制に対する筆者の危惧は以下の点である。
こうした規制がどこまで盗品防止に実効性があるのか検証されていないこと
インターネットオークション事業者の定義が難しいことと,eビジネスの技術的革新のスピードは速く,オークション機能の複雑化や既存のB2Cとの融合も進むため,対象範囲が見えないこと
海外のオークション事業者は規制対象にできないこと
新規参入や新しい機能実装など民間の創意工夫や健全な競争を妨げる可能性があること
原則自由,行政手続きの簡素化という行政改革の流れに逆行していること

これまでもインターネットオークションは2年半ほどの短い期間でも事業者の自助努力で格付け機能,エスクロー口座の導入や本人確認の実施,詐欺発生時の補償制度など健全な発展のための工夫は行ってきており,一定の効果をあげてきている。また現在も警察への捜査協力は行われており,業界と警察の協力関係が構築されれば規制の必要性も小さくなると考えられる。確かに既存の規制の中にいる古物商との不公平感が存在する部分の是正は必要かもしれないが,インターネットオークション事業者に対して規制の網をかぶせる方法は本質ではない。筆者の知るところでは海外でも類似の規制は存在していない。
また盗品の問題はオークションのみではなく,様々なネットサービスでも危惧される問題である。そういう意味では拡大解釈が可能になる可能性もあり,多くのネットサービスも規制対象になることや,オークション以外のビジネスが原則規制の流れになっていくことも避けるべきであろう。
こうしたサイバースペースの特殊性がもたらすリアル世界のルールとの不整合はナップスターの問題含め,様々なところででてきているが,そのルールの決め方などはオープンに多様な立場の議論を積み上げて行う新しい社会コンセンサスの作り方に基づくべきであると筆者は考える。従来型の密室権力先行型のルールの決め方はグルーバル対応,技術革新対応において多くの不整合をもたらすことも社会認識ができていると思う。そういう意味ではパブリックコメントすら公表していない現在の法改正の進め方には多いなる問題を感じる。この問題は是非多くの人に真剣に考えてもらいたい問題であり,eビジネス業界全体にとっても今後も増える既存ルールとのコンフリクトの解決における方向性を決める意味で無視することはできないと思う。

ここのところ,多くのネットビジネスにおいて規制の問題がでてきている。悪質な事業者の排除を目的とした2001年の訪問販売法の改正のあたりから増え始め,プライバシーや著作権のトラブルが増える中,プロバイダーの責任範囲を定めたプロバイダー責任法に続き,社会問題化している迷惑メールについても現在,その規制について経済産業省が特定商取引法を改正しようとしているのに対し,これは議員立法の別案も登場して議論が進んでいる。このように目の前の問題に対し,既存のルールを少しでも適用するための法改正の動きが活発になっていると言える。しかし,この流れが行き過ぎることで,インターネットがもたらした「サイバースペース」が古いパラダイムに逆行することを恐れる。

現在開会されている通常国会において,警察庁が「古物営業法」を改正しようと準備作業を進めている。筆者はこの新しい規制がインターネットオークションビジネスの健全な発展に支障を与えることを危惧している。
今回の古物営業法改正の背景はインターネットオークションを舞台に急増している盗品売買について防止策をこうずるためのものである。確かに少年グループが盗品を売りさばくためにバイクの部品を販売する事例などがでてきており,
何かしらの対策の必要性はあることは事実である。
しかし,今回警察庁が検討している内容は原則規制という従来型の広範囲の規制強化の側面が強く,事業者へ過度の負担を強いる可能性も大きく,こうした前例がその他のeビジネス全般にも波及することなども考慮すると,是非とも慎重な検討を求めたい。

今回検討されている規制ポイントは以下のようなものである。
「事前届出制」
(不適格業者を排除するため,インターネット・オークション事業を営もうとする者は,あらかじめ,都道府県公安委員会に届出書を提出しなければならない。)
「疑わしい古物を発見した場合の警察への申告義務」
(インターネット・オークション業者は,出品された古物が盗品等である合理的な疑いがある場合は,警察への申告を直ちに行うとともに,その結果等から当該疑いに相当な理由がある場合には,出品情報の削除,落札者への連絡などど必要な措置をとらなければならない。)
「行政処分(警察による営業停止処分)」
(インターネット・オークション業者が違法行為を行い,盗品等の売買防止と発見が阻害されるおそれがある場合は,都道府県公安委員会は,「指示」又は「営業停止の処分」を行うことができる。)
「都道府県公安委員会による認定制度」
(国家公安委員会は,安全な(=盗品等が売買されるおそれの低い)インターネット・オークションの運営基準を作成し,インターネット・オークション業者は,基準に適合する旨の都道府県公安委員会の認定を受けることができる。)

こうした従来型の規制に対する筆者の危惧は以下の点である。
こうした規制がどこまで盗品防止に実効性があるのか検証されていないこと
インターネットオークション事業者の定義が難しいことと,eビジネスの技術的革新のスピードは速く,オークション機能の複雑化や既存のB2Cとの融合も進むため,対象範囲が見えないこと
海外のオークション事業者は規制対象にできないこと
新規参入や新しい機能実装など民間の創意工夫や健全な競争を妨げる可能性があること
原則自由,行政手続きの簡素化という行政改革の流れに逆行していること

これまでもインターネットオークションは2年半ほどの短い期間でも事業者の自助努力で格付け機能,エスクロー口座の導入や本人確認の実施,詐欺発生時の補償制度など健全な発展のための工夫は行ってきており,一定の効果をあげてきている。また現在も警察への捜査協力は行われており,業界と警察の協力関係が構築されれば規制の必要性も小さくなると考えられる。確かに既存の規制の中にいる古物商との不公平感が存在する部分の是正は必要かもしれないが,インターネットオークション事業者に対して規制の網をかぶせる方法は本質ではない。筆者の知るところでは海外でも類似の規制は存在していない。
また盗品の問題はオークションのみではなく,様々なネットサービスでも危惧される問題である。そういう意味では拡大解釈が可能になる可能性もあり,多くのネットサービスも規制対象になることや,オークション以外のビジネスが原則規制の流れになっていくことも避けるべきであろう。
こうしたサイバースペースの特殊性がもたらすリアル世界のルールとの不整合はナップスターの問題含め,様々なところででてきているが,そのルールの決め方などはオープンに多様な立場の議論を積み上げて行う新しい社会コンセンサスの作り方に基づくべきであると筆者は考える。従来型の密室権力先行型のルールの決め方はグルーバル対応,技術革新対応において多くの不整合をもたらすことも社会認識ができていると思う。そういう意味ではパブリックコメントすら公表していない現在の法改正の進め方には多いなる問題を感じる。この問題は是非多くの人に真剣に考えてもらいたい問題であり,eビジネス業界全体にとっても今後も増える既存ルールとのコンフリクトの解決における方向性を決める意味で無視することはできないと思う。

2002年1月31日木曜日

インターネットオークションに対する規制問題

(2002年1月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

現在開会されている通常国会において,警察庁が「古物営業法」を改正しようと準備作業を進めている。筆者はこの新しい規制がインターネットオークションビジネスの健全な発展に支障を与えることを危惧している。
今回の古物営業法改正の背景はインターネットオークションを舞台に急増している盗品売買について防止策をこうずるためのものである。確かに少年グループが盗品を売りさばくためにバイクの部品を販売する事例などがでてきており,
何かしらの対策の必要性はあることは事実である。
しかし,今回警察庁が検討している内容は原則規制という従来型の広範囲の規制強化の側面が強く,事業者へ過度の負担を強いる可能性も大きく,こうした前例がその他のeビジネス全般にも波及することなども考慮すると,是非とも慎重な検討を求めたい。

今回検討されている規制ポイントは以下のようなものである。
「事前届出制」
(不適格業者を排除するため,インターネット・オークション事業を営もうとする者は,あらかじめ,都道府県公安委員会に届出書を提出しなければならない。)
「疑わしい古物を発見した場合の警察への申告義務」
(インターネット・オークション業者は,出品された古物が盗品等である合理的な疑いがある場合は,警察への申告を直ちに行うとともに,その結果等から当該疑いに相当な理由がある場合には,出品情報の削除,落札者への連絡などど必要な措置をとらなければならない。)
「行政処分(警察による営業停止処分)」
(インターネット・オークション業者が違法行為を行い,盗品等の売買防止と発見が阻害されるおそれがある場合は,都道府県公安委員会は,「指示」又は「営業停止の処分」を行うことができる。)
「都道府県公安委員会による認定制度」
(国家公安委員会は,安全な(=盗品等が売買されるおそれの低い)インターネット・オークションの運営基準を作成し,インターネット・オークション業者は,基準に適合する旨の都道府県公安委員会の認定を受けることができる。)

こうした従来型の規制に対する筆者の危惧は以下の点である。
こうした規制がどこまで盗品防止に実効性があるのか検証されていないこと
インターネットオークション事業者の定義が難しいことと,eビジネスの技術的革新のスピードは速く,オークション機能の複雑化や既存のB2Cとの融合も進むため,対象範囲が見えないこと
海外のオークション事業者は規制対象にできないこと
新規参入や新しい機能実装など民間の創意工夫や健全な競争を妨げる可能性があること
原則自由,行政手続きの簡素化という行政改革の流れに逆行していること

これまでもインターネットオークションは2年半ほどの短い期間でも事業者の自助努力で格付け機能,エスクロー口座の導入や本人確認の実施,詐欺発生時の補償制度など健全な発展のための工夫は行ってきており,一定の効果をあげてきている。また現在も警察への捜査協力は行われており,業界と警察の協力関係が構築されれば規制の必要性も小さくなると考えられる。確かに既存の規制の中にいる古物商との不公平感が存在する部分の是正は必要かもしれないが,インターネットオークション事業者に対して規制の網をかぶせる方法は本質ではない。筆者の知るところでは海外でも類似の規制は存在していない。
また盗品の問題はオークションのみではなく,様々なネットサービスでも危惧される問題である。そういう意味では拡大解釈が可能になる可能性もあり,多くのネットサービスも規制対象になることや,オークション以外のビジネスが原則規制の流れになっていくことも避けるべきであろう。

 こうしたサイバースペースの特殊性がもたらすリアル世界のルールとの不整合はナップスターの問題含め,様々なところででてきているが,そのルールの決め方などはオープンに多様な立場の議論を積み上げて行う新しい社会コンセンサスの作り方に基づくべきであると筆者は考える。従来型の密室権力先行型のルールの決め方はグルーバル対応,技術革新対応において多くの不整合をもたらすことも社会認識ができていると思う。そういう意味ではパブリックコメントすら公表していない現在の法改正の進め方には多いなる問題を感じる。この問題は是非多くの人に真剣に考えてもらいたい問題であり,eビジネス業界全体にとっても今後も増える既存ルールとのコンフリクトの解決における方向性を決める意味で無視することはできないと思う。

2001年12月7日金曜日

決済手段を手に入れつつあるC2Cマーケット

(2001年12月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

急激に成長しているネットオークションはB2Cと別にC2Cビジネス(P2Pビジネスと言われる場合もある)と言われている。米国でも多くの.com系ビジネスが淘汰される中でebayだけはダントツの成長をみせている。この成長の要因のひとつに個人間決済の広がりがある。米国ではpaypalというサービスが電子メールだけで簡単に個人間決済ができるサービスがebayで採用され,利用者の間で急速に広まった。今では1100万人以上の利用者を抱えるサービスにまで成長している。日本でもYahoo!オークションでジャパンネットバンクなどが個人間決済をサポートし始めたために,利用が広まっている。Niftyも個人間決済を20023月から行うとアナウンスしており,オークションに限らず個人間で貨幣価値を交換しあう仕組みが整いつつある。

まだまだ提供者側の工夫の余地が大きいB2Cの世界と異なり,日本のインターネットで確実に根付いたのはC2Cの世界であることを疑う人はいないだろう。オンラインショッピングをするためにインターネットを開始した人よりも,電子メールやチャットやインスタントメッセージの利用のために始めた人の方が多いことは確実だと思われ,個人間で金銭のやりとりは無くても何かしらの価値の交換を行うこと自体はネットの世界に溢れる掲示板の洪水を見ていても実感できる部分である。この個人間のコミュニケーションの延長に金銭取引を絡めるものや自分で作成したコンテンツの交換などがあることも自然な流れであり,オークションビジネスはそれを非常にわかりやすい形で広めたのであると思われる。今後個人間決済が定着するとオークション以外の分野でもこうしたC2Cビジネスの可能性は拡大する。ただし,個人同士が勝手に取引をする部分が広がる一方で何かしら中間で情報流通の仲介をしてくれる「ニューミドルマン」の存在は重要になることは間違いないだろう。ただし,C2Cビジネスで不透明なのが,そうした中間事業者の価値以外の個人消費の増加や産業波及効果などの意味で,個人間同士で行われる経済活動が増加した時に,実態経済の成長につながるかどうかはよく見えない部分が存在しており,筆者としても是非情報経済学者などの研究対象として欲しいところである。もちろん事業者でない人同士の取引の増加は税金や業法を始めとして法制度においても新たに考えるべき点が多いところでもある。

2001年10月24日水曜日

眠れる獅子『地上波キー局』

(2001年10月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

 ようやくブロードバンド向けのコンテンツ流通ビジネスがかなり動き始めている。IT不況の中で世界的にパソコンも携帯もこけている中で,唯一激しい伸び方をしているのが,ブロードバンド系のサービス加入者である。当然各社も大きな期待をかけ,ビジネスチャンスをうかがっている。しかし,現実にはコンテンツサプライヤーも,サービス事業者も権利や課金,制作コスト,技術水準などの問題を抱え,悩み多き状況であるのも事実であり,様子見の状況になっている。
 もちろんインターネットの世界だけで閉じてみると,ブロードバンドは大きな可能性を見せてくれるし,ジョージギルダーが『テレビが消える日』で予言していた誰でもインターネットを利用して放送局になれるという世界が現実に近づいている気がしてくる。しかし,社会全体で見た時にはやはり放送というインフラのコスト効率はよく,人気歌手のライブを一定のクオリティで日本中に大量に配信するのには,やはり当分電波はとても適したインフラであるのも事実である。デジタルテレビとIPベースのネットワークをいかにうまく組み合わせていくかについては,世界的に仲が悪いと噂される放送技術業界とコンピュータ技術業界の歩み寄りがもっとあってもよいのではないかと思う。

 こうした中,放送の世界から見た時には,常時接続と広帯域というブロードバンド化でようやくインターネットが通信と放送の融合の第一歩を踏み出したと映るようである。米国のように3大ネットワークの地位が相対的に低下し,多チャンネル化の中で確実にシェアを奪い取ることができたAOLはすでにゴールデンタイムの視聴率でいくつかのテレビ局を上回っている。しかし,日本ではまだまだ地上波こそが圧倒的なキラーコンテンツであり,最大のポータルサイトとして君臨している。実際に日常の行動の中で,家に帰ってまっさきテレビをつける人は非常に多い。自分の部屋でも個人のテレビがある時代であり,パソコンを立ち上げてメールをチェックしながらもテレビがついているというシーンも多いことだろう。これまでテレビでインターネットが利用でき,テレビでショッピングをすることができるというような発想は多かったが,地上波キー局自体がポータルサイトとして登場するイメージは少なかった。しかし,近年多チャンネル化の危機意識の中で地上波各社はブランドロイヤリティ向上のために猛烈なプロモーションを展開しており,フジテレビや日本テレビの自社CMをみない時間は無いという状況である。こうした戦いの中で各社が地上波デジタルを迎え,BSデジタルをはるかに越える技術でインタラクティブなコミュニケーションを取り込もうとしている中では当然のように視聴者という顧客へのCRMを展開することになるだろう。例えばネットのポータルサイトとキー局がアライアンスを組むことができた場合。テレビをつけた瞬間に画面の上部と左にパーソナライズされたナビゲーションバーがでてきて,個人向けの情報やオークションを利用でき,真ん中でテレビ番組を放送しているという状況を実現することになるだろう。かつてWebTVのようにテレビというメディアにインターネット側のビジネスモデルで0からのアプローチはこれまでもあったが,改めて日本の巨大ビジネスのひとつである地上波キー局が従来の大きなビジネスの増強としてインターネットのビジネスを飲み込む姿の方がリアリティは高いのかもしれない。眠れるアナログポータルの雄がデジタルという武器を手に入れる日はもうすぐである。今後の通信と放送の融合の中で地上波の各局が持つポータル力とネットのポータル力との戦いになるだろう。Yahooのライバルはもはや日テレやフジなどなのかもしれない。またもうひとつの大ポータルNHKも現在は様々なしばりはあるが,この変革の中では無関係ではいられないであろう。NHKのコンテンツ課金モデルも通信放送融合の中では生活者のデジタルサービス関連支出のひとつにすぎなくなるのだから。

2001年8月29日水曜日

可処分コミュニケーション争奪戦

(2001年8月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

ブロードバンドはコミュニケーションできる情報量を劇的に増やすことが期待されている、確かに情報価値が高まる効果は存在するとは思うが、その情報が消費されやすいかどうかというのは別問題である。例えばそれぞれ1分ずつ10個のムービーファイルがあったとして、あなたは全部見る気になるだろうか?恐らく大多数の人は自分が興味を持ちそうなファイルを3つぐらい選んで見たくなるはずである。一方10通の電子メールであればとりあえずななめ読みでも全部目を通すことはそれほど苦な作業ではない。確かに情報量や情報価値が高まり、より深い印象を与える情報だとしてもそもそも選択され消費されなければ意味がない。特定のポータルサイトなど各ジャンルで上位12Webサイトに利用が集中してしまう傾向も、大量の情報消費の限界と関係しているのではないだろうか。筆者はデジタルデバイドとは別の視点でコミュニケーション洪水に対する限界感や抵抗感などが「可処分コミュニケーション」と呼べるような概念を形成しているのではないかと仮説を立てている。
 これまでもマーケティングの世界では可処分所得と可処分時間の争奪戦が繰り広げられていたわけであるが。非同期性が高いデジタルコミュニケーションにおいて時間は新規に創出されると期待されているところがある。確かに調査結果からもiモードは女子学生の授業時間とか電車の中とか新しい利用シーンを創造した。(電車の中の時間を奪われた雑誌や文庫本への影響は気になるところだが)しかし、時間が生まれたとしてもそもそもの利用者の可処分コミュニケーションの大きさには一定のものがあるのではないだろうか。例えばiモードはコンテンツ個別課金であるため、5つぐらい有料コンテンツに加入すれば、それ以上の加入は少ない傾向にある。上位5コンテンツに入れなければニーズが多少あっても選択してもらえないという事態も存在している。1500円で好きなコンテンツをいつでもとっかえひっかえできるような仕組みにすればともかく、そうでないと後発のサービスは限られたポジションを奪い取るという作業が発生する。
企業のコミュニケーションでも注意が必要である。CRMの概念は多くの企業をデジタルコミュニケーションでの囲い込みの誘惑を生じさせている。しかし、どんなに顧客だとしても、自分の身の回りの商品100社からメールマガジンが来てもただの迷惑と感じるだけであろう。生活者のコミュニケーションは企業だけではなく、仕事や友人関係、MLなどのコミュニティに占有されているかも知れない。すでに毎日見るホームページが習慣化し固定化されている人に対してスイッチングさせることは、それなりに大変なエネルギーがいることだろう。

 CS放送やBSデジタルもある種の可処分コミュニケーションの問題を抱えている。オンラインゲームも新たらしい可処分コミュニケーションを争奪しようとしている。これから新しいサービスを検討する人にとっては、そのサービスがターゲットの可処分コミュニケーションを奪えるだけの可能性があるのかを考えていく必要があるかも知れない。奪う相手はオールドメディアかも知れないし、デジタルコミュニケーションかも知れない。また一度奪い取ったその座も簡単に奪い返されるものかも知れない。可処分コミュニケーションを守り続けるためにはブランディングなどの強いコミュニケーション欲求を創出し続けることがますます重要になってくると思われる。人も会社もコミュニケーションし続けたい人である必要があるのだろう。ところで官邸メールマガジンは多くの人の可処分コミュニケーションの範囲に入り続けられるでしょうか?