藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2004年7月28日水曜日

やっぱりeコマース?まだまだeコマース! -アントレプレナーにとって今こそ再認識すべきフィールド-

(2004年7月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)
○ ECは成長産業?
インターネットのビジネスを展開する上である意味最大の弱点は,その利用がどんなに盛り上がってもそれを世の中に実感させることが非常に困難なところであろう。どんなに大繁盛して急拡大しているネットショップでも,利用者がそれを実感することは現段階では難しい。一方,リアルな世界では街を歩いていれば,その店を利用するしないに関わらず,やたらに増えたシアトル系カフェを目にしたり,流行のデパ地下の買い物袋を下げている人を見たり,行列ができているラーメン屋を見ていればそれだけで伝わるものはある。しかしインターネット上ではどんなに繁盛しているお店があっても,扱っている商品や名前もURLも知らなければたどり着くのは難しく,ページを見てもそれだけではお客さんがたくさんいるのかどうかはわからない。
だからECが成長産業だと言われてもピンと来ない人の方がまだまだ多いだろう。しかし経産省などの調査結果では2003年は4兆4300億円のB2C市場が存在し,前年から65%も増加しており,市場規模だけではカタログ通販市場を越える立派な成長産業である。しかし,それにも関わらずEC市場の実態は以前よりも見えにくくなっている。ITバブルの頃は様々な大企業のEC参入も話題になり,マスコミを賑わしていたが,最近はマスコミも楽天など一部の大手の派手な動きしか報道しない。ECの店舗を表彰する賞などもITバブルの崩壊で大手メディアのものは廃止され,草の根で行っているものがいくつか残っているような状況であり,成長マーケットにしては一時もてはやしすぎた反動のせいか,扱いは冷たいと言える。ドッグイヤーと言われるITビジネスの中で話題性や新鮮さもドッグイヤーな扱いなのであろう。

○ 可視化と業態分けが必要なEC
さらに問題なのは実態を把握する統計データも非常に少ないところである。先ほどの経済産業省系の市場規模も推測データであり,これだけあらゆる動きがデジタル情報で存在しているにも関わらず,実は誰もその実態を正確に把握できていないというのも問題がある。確かにこれまでの産業のように監督官庁に護送船団方式で育成され,旧来のように業界団体を作ればすぐに統計データも整備されるが,自由競争の中で誰もが自由に創意工夫でやっているという意味でデータが把握しづらいということもあるだろう。しかし,各店舗の経営者からしてみると,自分のポジションが見えないのも辛い。例えばリアルな小売りでコンビニの店長さんであれば日販40万を売ればだいたい全国平均である。もちろん立地や店舗面積などで異なる部分はあるが80万も売ればかなりよい店舗ということになる。しかし一日300万売ろうとしたらコンビニという業態では難しく,スーパーなりもっと客単価が高い業態に変える必要がある。そうなると商圏も変わる。コンビニは半径300から400mの顧客をがっちり握るのが重要であるが,郊外型のGSMであれば商圏は数10Kmであり,隣の県からも車で買いに来る人はいるだろう。リアルな小売りの世界では自分の業態と立地で商圏が定まるため店長さんはだいたい自分達がどこを目指せばよいかがわかる。しかしECショップの店長さんは今の売上が自分の力として適正なのか,まだまだ足りないのか,実は大成功しているのか,自分がいくら売れば平均なのかもわからない。理論上はサイトをオープンした瞬間から全世界の人がアクセスしてくれるわけで,アマゾンコムと戦うぞ!という目標を立てたとしても確かに可能性は0%ではない。つまりそれはアマゾンコムと業態が同じだと認識しているところに問題があると言える。現実には売る商品や,仕入れ形態,利用しているシステム,マーケティングコストが異なれば当然,それに見合った「サイバー商圏」が存在するわけで,目には見えない商圏であるが,それを自ら設定する必要がある。現在の日本のECであれば月商で200万以下のマイクロショップ(だいたい全体の半数近くがこのぐらいのサイズ:インプレスのインターネット白書2004の調査結果より),200万から1000万の中規模ショップ(30-40%ぐらい),1000万から1億までの大規模ショップ(6-7%程度),月商1億以上のメガショップ(1%程度)などの段階で業態が異なると言えるだろう。マイクロショップは1人か2人で運営しているところが多く,楽天などの加盟店としてマーケティングコストもほとんどかけずに頑張っており,赤字の店舗も多い。リアルで言えば商店街のママパパストアの感じである。中規模ショップになればリピーターを大事にしながらもそれなりに新規の顧客を獲得していく必要があるので結構マーケティングも大変である。この段階からさらに商圏を拡大させるためにはそれなりに投資が必要なのでここを突破するのが一番難しい段階の壁と言えるだろう。大規模ショップになると複数のモールに出店して,広告費もそれなりにかけるようになり,顧客管理も重要になる。コンタクトセンターのようなものも必要になるだろう。そして,メガストアまで行くと大資本のブランドがすでに存在しているショップだったり,リアルでカタログやテレビ通販のビジネスを行っているプレーヤーのインターネットチャネルサイトなどであるので,設備含めて逆に既存のインフラを有効に使えるようになる。これらはまったく違うビジネスと言ってよく,コンビニと百貨店を同じに考えないように,ECの世界でもそろそろ別のものとして業態を分けて議論するようにするべきだろう。

○マイクロビジネスの集積としてのEC

2000年頃のインターネットブームが人々をけしかけた結果,多くのITベンチャーが死し累々になったのも事実であるが,一方で1万近いECショップが日本全国で多数生み出されたことは評価できるところではないだろうか。多くのECショップは事業規模がとても小さいマイクロビジネスであるが,今後日本の産業構造を考えた時に,多くの地方の駅前商店街が荒廃し,ロードサイドも大資本型のサービス業やFCなどに次々と置き換わり代わり映えのしない景色になっていく中で,新しい起業家精神の受け皿としてECというマイクロビジネスが生み出されたことの意味は大きい。多数の地方自治体もベンチャー育成を旗印にあげているが,急成長を求められるベンチャーはリスクの固まりであり,むしろ堅実なマイクロビジネスが多数出てくることもバランス的には重要なことである。中にはじり貧な家業を2代目がECとして業態転換しているような例も多く見られる。地域経済だけでなく,インターネットならではのモデルへの挑戦も立ち上げから数年を経て現実的なものとなってきている。産直モデルなども定着した感はあるが,フェアトレード運動(発展途上国の商品を適正な価格で取引する国際援助運動)などもECで展開されはじめており,こうした小さなマイクロビジネスが日本全国で多数集積されることで新しい産業としての固まりになっていく。そういう意味では集積を促した楽天などのモールの存在意義も大きかったのであろう。

○ 期待される周辺ビジネスの登場
このように集積が進むとビジネスチャンスも広がる。これらのECショップを支援する新しい技術や周辺ビジネスも成り立つようになるからである。現在一番ホットなのはアフリエイトの仕組みである。ブログが流行していることもあり,お店のロイヤルカスタマーや,その商品分野のプチカリスマな人などに商品を薦めてもらい,そのまま販売代理をしてもらうモデルである。商品を購入した人の意見は購入を検討している人にも貴重な情報であるので,購入経験者の情報は価値になる。また販売代理をする人にとっても,自分の買い物自慢という自己表現ができた上でさらに,やり方次第で小銭稼ぎや本格的なビジネスにもなるので様々な販売代理のモデルや技術はこれからも登場するであろう。また今後必要なのは欲望を喚起する技術である。これまでのWebでの販売はある意味自動販売機のようなものであり,すでに欲しいという商品を決めている人にとっては便利なものであるが,まだまだデパ地下やウィンドウショッピングや,テレビショッピングのように思わず欲しくなってしまう仕掛けは弱い。タイムセールや,米国ではすでにチャットをしながら商品説明をするようなモデルなども少しずつ登場はしているが,インターネットならではのインタラクティブで臨場感のある技術の応用もっと期待される。同様にショッピングのエンターティメント性の追求もまだまだ足りていないだろう。米国で生まれたギャザリング(共同購買)も携帯のネットプライスなどで人気になっているが,買い物自体が楽しくゲーム感覚になる仕掛けもまだまだ開発の余地がある。ネットゲームとECの融合も興味深い分野であろう。

また消費者からのニーズとしては購買代理をしてくれるプレーヤーももっと出てきて欲しいところである。自分のことを理解してくれた上で,最適な商品や一番安い商品を探してくれたり,交渉してくれたり,安心感を与えてくれるなどの機能を果たしてくれれば,付加価値は高いはずである。現在のECではついつい生産者と消費者のダイレクトな感覚が新鮮でもあり,そちらが主流に見えてしまう部分もあるが,顧客ニーズとしては,インターネットだからこそ新しい価値のある中間サービス事業者が多数でてくることがさらに消費全体が活性化されると思われる。そういう意味では現在のショッピングモールというプラットフォームがそれらを用意するだけでなく,新しいプレーヤーがどんどんサービス化することが望ましい。楽天やYahooなどを見てしまうと,もはやモール主導でECはすでに寡占状態になっていると錯覚してしまう人も多いと思うが,彼らはプラットフォームビジネスのひとつの形態を提供しているだけであり,ECのモデルを全て握ってしまっているわけではない。まだまだ顧客の心をつかむ魅力的な店舗の参入チャンスは大きく,日本の起業家にとっては大きなフィールドであることは間違いない。リアルな世界で様々なカテゴリーキラーと呼ばれる新規参入者が既存のプレーヤーを脅かしたように,ECのビジネスはまだ赤ちゃんから子供になったばかりである。決して顧客ニーズが満たされているとは思えない現在のECではやるべきことはたくさんある。目の前に広がっている開拓されたばかりの市場が多くのアントレプレナーの挑戦を待っている。

2004年7月14日水曜日

コンテンツ産業的に見るプロ野球再生の考え方

(2004年7月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

ITベンチャーライブドアによる近鉄球団買収提案が話題になっている。ライブドアもITを活用した球団の立て直しを提案しているようでありプロ野球ビジネスに一石を投じている。人気が衰えているとはいえ日本のプロ野球は依然としてキラーコンテンツである。マスメディアの取り上げ方もJリーグよりはまだはるかに大きいし,選手の知名度も大きい。コンテンツとして捉えた時にはまだまだ大きな可能性を持っているだろう。発足当時の鉄道,新聞などの業種が中心的なスポンサーだった頃に作られたビジネスモデル(沿線開発やメディア販売の価値付け)の転換点に来ている現在,コンテンツビジネスの現在の潮流から見た再生の考え方を提案したい。

○ コンテンツとしての緻密な評価
プロ野球も昔は大映や東映など映画会社もオーナー会社であった時代があったようだが,ある意味そのころの方がコンテンツという意識があったのかも知れない。現在は興行として球場の入場者数とテレビの視聴率という指標でしかビジネス的には判断されていないのではと筆者は考える。もっとコンテンツとしての評価を多様に行うところから球団経営は始めるべきではないだろうか。ハリウッドの映画も現在はかなり細かい調査の上で作られている。どの場面がよかったのか?どの選手のどんなプレーに感動したのか?どこがつまらなかったのか?それはどんなターゲットのファンに響くのか?毎試合ごとにリサーチを行うべきである。ライブドアが提案しているようにブログのようなツールで選手や監督のコメントに対する反応からも貴重なデータはとれるであろう。現在はインターネットによりリサーチはとても簡単になっている。監督は面白い試合よりは勝つために集中しているのだろうから,この役目は球団経営幹部である。ファンが望む試合をするために球団の運営ビジョンを明確にし,それにのっとった監督や選手を集めプレーさせるべきである。面白くするための努力は球場での奇抜なイベントではない。緻密な分析の上での細かい改善努力を行いコンテンツとしての魅力の確認をまず行うべきであろう。

○ コンテンツファンド手法の適用
コンテンツビジネスの大きな動きはファイナンスの多様化である。リスクを分散化するためにも運営資金を特定の事業会社の広告宣伝費に依存するのも時代遅れではないだろうか。何よりもファンという人々が存在しているのであるから,そのファンに投資してもらうファンドを作ることも可能ではないだろうか。何よりもファンはチームの発展を願っており,利回り額よりもチームがよい試合をし,結果的に成績がよくなることが嬉しいはずである。成績があがれば放映権,球場収入,関連グッズの売上が大きくなり配当額も期待でき,投資のメリットも倍増する。さらに権利として無料招待や選手とのイベント参加,インターネットでのコミュニケーションなどがあれば,それだけで満足するファンもいるはずである。そうしたファンからのファンドで球団運営の一部をまかなうことで,一部のオーナーが個人の所有物であるかのごとく振る舞う行為も無くなるだろう。ファンから球団の運営資金を募る考え方はプロ野球には適しているはずである。何よりも投資していればファンなのについつい球場から足が遠のいているファンも球場へ行く回数は増えるはずである。投資家と事業者との関係が利回りのことだけ考えることで,現在の資本市場が忘れかけている投資の本質がここにはあり,金儲けだけ考えるディトレーダーではない,本当の意味での投資対象に共感を持ち,現在のIRのような片方向ではない,コミュニケーションを行う個人投資家を育てるための,とてもいい土台にプロ野球がなる可能性を秘めているとも言えないだろうか。

○ アジア市場へのキラーコンテンツ

現在のオーナー会社の新聞,鉄道は国内産業であり,日本市場を中心にしか見ていない。しかし今後の日本の産業構造からすれば現在のアニメやJ-POPのようにアジア市場での付加価値の高いブランディングができるコンテンツはとても重要にある。例えば韓国,中国,台湾などとのアジアリーグが可能になり,日本選手が活躍すればその価値はとても大きいものがある。例えばSHINJOがアジアのスターになり,中国で10人に1人が知っている選手になったとしたらその価値はとてつもないものだろう。そうなれば家電メーカーや食料品メーカーはこぞって日本球団のスポンサーになりたがるだろうし,プロ野球の価値は大きなものになる。すでに大リーグのアジア選手増加やサッカーのレアルマドリードなどの戦略はそうしたアジア市場を見据えてのものだと言われている。
何よりも東京ドームの中継が中国に衛星もしくはインターネット中継されるようになれば,そのスポンサー枠の魅力は現在の巨人戦の比ではない。


内向きに既得権益を守ろうとする現在のプロ野球の球団関係者の姿は,まさに護送船団方式で来た多くの日本産業界そのものを見ているようである。現在の収益を守ることを考えていてもイノベーションは起きない。2倍,10倍にすることを発想した時,始めてイノベーションは起きる。プロ野球界に必要なのは,そうした外部の発想力に今こそ耳をかたむけることだろう。

2004年6月9日水曜日

ITがもたらすイノベーション活性化型産業政策の方法論確立の必要性  -Winnyが示唆するもの

(2004年4月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

○Winnyが教えてくれるIT産業への課題
開発者が逮捕されたWinny問題は我々に大きな示唆を与えてくれた。もちろん今回の事件特有の様々な問題点はあるものの,ITを活用したビジネスに携わる多くの人にとって,共通の問題があらためて浮かび上がったのではないかと筆者は考える。今回の事件で以下の3点については確認されたと言えるだろう。

A 既存の経済活動や社会活動上,困る人々が存在している。
B現行法の解釈ではこのようなツールを開発して広める行為は犯罪行為にあたる。
C 新しい「コンテンツ流通」の仕組みの可能性を秘めている。

今回の逮捕については賛成の意見を述べている人はA,Bが根拠であり,反対の意見の人はCの立場にたっている。
多くのITがもたらす新しい技術革新はcのコンテンツ流通のところを別の言葉に置き換えればだいたいは以下のプロセスを経る。

1) A+B < C の状態にあり,この段階では一部の研究者やイノベーターが騒いでいるだけで社会的影響度が少ないため,法制度的にグレーな状態でも特に問題が無く利用が進むことになる。

2) A+B > C になると,これは問題であるという社会的コンセンサスが高まり,厳格な法制度の適用がスタートする。特に未成年への影響,打撃を受ける企業の数が一定レベルを超える,マスメディアも騒ぎだし,官庁に対してもクレームが多数はいるようになる。

しかしCの状況が変化し,

D ビジネスモデルが明確になり,大きな市場規模が生まれ,雇用が創出される。   
 Aで被害者だった人もCのモデルへ移行する。

という状態に変われば適切な法改正も行われ

3) Aという状況になる。

ITを利用した新しいイノベーションを起こすために必要な政策は1)から3)の状態に持って行くために2)の状態を乗り越えることに他ならない。2)が発生しない,もしくは小さいものはどんどん普及する。電子メールも郵便には影響を与えたであろうが普及した。携帯電話も電磁波や自動車事故などの問題はあるものの,運用上の改善の方で普及を妨げるような動きはなかった。オークションや出会い系については,一定の範囲の犯罪という問題(オークションについては一部の古物商業界は打撃を受けたと思われるが)となり,警察と業界の相互の努力により,一定の法改正の中でビジネス的なイノベーションは進んでいると言えるだろう。しかし,P2Pの問題は著作権法をベースにした音楽,映画などの幅広い業界が影響を受けるため2)の状態を乗り越えるところが現在難しくなっている。無線ICタグにしてもプライバシーの問題から2)の状態が懸念される状況である。

○日本におけるイノベーションの活性化の重要性
 国際的にも成熟したポジションを占める日本において,国際競争力を高めるためには,積極的なビジネスイノベーションを多数産みだし,自ら付加価値をとるポジションを築いていくことであるというのはひとつのコンセンサスになっていると筆者は考える。だとすると,日本に必要なものはこうしたイノベーションを活性化させるための産業政策であり,方法論を確立していくことが競争力の源泉のひとつになる。こうした現象はIT産業に関わらずFTAを目の前にした農業においても共通する問題ではあり,日本は現実的には多数の既得権益を持つ企業や主体が存在しているとイノベーションに対する抵抗勢力の力はとてつもなく大きいのが実情であろう。しかし,ITの分野では今後も顕著に発生する問題であることは間違いなく,お隣韓国はITの分野で積極的にイノベーションを推進している。日本の次世代産業として期待される情報家電分野でもそこから新しいアプリケーションが様々に花開くためにも早急に社会が多くのイノベーションを許容し,適切に新しいモデルへ移行することを推奨する仕組み構築することは喫緊のテーマと言えるだろう。

○求められる社会実験的アプローチ
具体的な方法論として,経済特区はひとつのアプローチと言える。現在の経済特区は地域を限定しているが,サイバースペース上では地域を限定することは難しいため,このモデルを応用し,利用者を限定,全体の産業規模を限定など地域では無い限定範囲を設定できるようなモデルも是非試みたいところである。
特に今回の逮捕が法制度の適用範囲を厳しくしている意味でも,法制度の柔軟な運用体制も必要である。特に技術革新が激しい中では新規に立案する制度に関しては原則時限立法として,時間軸の中でも適切なタイミングで運用できるような形に変えるべきであろう。違法になるものもレベルがあり,国民の生命に危険が及ぶものと,特定企業が損害を被るものでは対応方策は異なるべきである。この際の市場の監督者は非常に難しい判断を迫られるが,官庁中心だけでなく,第三者機関の活用もこうした監督では積極的に行うことが望ましい。
また,セーフティネット政策も必要である。新しいビジネスモデルにより,一時的にも収益源が崩れていくようなプレーヤーが存在する場合,かつて国家としてエネルギー政策を石炭から石油へ,そして原子力へ移行したように,既存のモデルに依存するプレーヤーに対する一定の補助なりで,新しいモデルへの移行の推奨とその抵抗を抑える政策も必要になる。著作権のようにビジネスモデルの土台が劇的に変わるようなものは市場原理にまかせていても4半期で株主から突き上げをくらっているような経営者が意志決定するはずもないため,市場全体の利益の最適化につながるとは限らない。やはり,どこかのタイミングで業界全体がチャレンジしやすくなり,背中を押してあげるような政策が求められるだろう。
 日本がIT立国を標榜し,勝負しようというコンセンサスが国全体でちゃんと存在しているのであれば,他の国がやらないことをやる,もしくはやらせる勇気が必要である。何もしなければIT分野の様々な挑戦は法律違反になり(ドンキホーテもそうでしたね)警察や司法はルール通りにしか動かないだろう。

まず行政改革担当大臣の肩書きをイノベーション推進大臣に変え,規制緩和の数ではなく,イノベーションへの挑戦の数でマニフェストを作成するのはどうであろうか。

2004年6月3日木曜日

検索エンジンの未来 – GoogleはHALになれるのか?-

(2004年6月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

 ○ インターネットの中に存在したHAL
かつてコンピュータの理想的な未来はAI(人工知能)であり,わからないことはコンピュータに聞けば瞬時に答えてくれるようになるはずであった。映画「2001年宇宙の旅」に登場したHALは巨大な記憶装置らしきものに様々な知識を蓄えていたようであり,それをもとに宇宙船をコントロールしていた。2004年に生きる我々は残念ながら映画の予測と異なりHALレベルのAIは手に入れていないが,パソコンのブラウザの入力フォームに知りたいキーワードを入れれば,おおよその知識は瞬時に手に入れることができるようになった。HALほど賢くもなく,記憶容量も大きく無いPCで,HALも知らないような今日地球のどこかの街でおきた事件も知ることができるようになったことは,ある意味人類の想像を超えたとも言えるかもしれない。ひとつのコンピュータを人間の頭脳に近づけるアプローチは難航したが,全人類の知識を少しずつインターネットという巨大な分散コンピュータの中にちりばめるということには我々成功した。今やインターネット上の知識は日々膨大な量が増加し,変化し続け,どんな巨大なメモリにもハードディスクにも納めることはもはや不可能であろう。インターネットは全人類が共有できる巨大な頭脳になったと言っても過言ではない。そしてその巨大な頭脳との間のインターフェイスとして「検索エンジン」はもはや必要不可欠であり,その存在無しではインターネットもここまで利用が進まなかったという意味で,その役割は今後ますます重要になるのではないかと考える。

○日本における検索エンジンビジネスの歴史
検索エンジンの歴史はWebの普及とともにあった。1994年になり日本でもWebサイトが毎日少しずつ増えつつあった頃,Webサイトをディレクトリ化していたNTTのページ(当時はNTTディレクトリという名前でボランティア的な運営であった)はすでにポータル化しており,日本で一番アクセスが多いサイトのひとつであったことは間違いない。やがてCSJ(サイバースペースジャパン)のようなベンチャーが登場し,Yahoo!も日本でスタート,ディレクトリ型の検索エンジンにバナー広告を付けるという形でビジネスがスタートした。しかし,インターネット上のWebサイトの増加が指数関数的な伸びを見せる中で人力が中心のディレクトリ型の限界も見え始め,それまで一部の技術的な試みであったOpenTextやAltavistaなど現在主流のロボット探索型の検索エンジンに注目が集まり, Infoseek,Exciteなど現在のポータルサイトのベースになるサイトが次々と立ち上がった。しかし,初期のエンジンはアルゴリズムが単純であったため,サイト数がさらに増加し,アダルトサイトなどが検索エンジンにわざとひっかかるような仕掛けを始めると,検索結果が必ずしも適切でないものが増えてくるようになり,自分が探しているページを見つけるのにとても時間がかかるというような状況も現れた。多くのポータルは検索よりもコンテンツ充実の方に力をいれ,利用者の集客はコンテンツの魅力の方にシフトしようという方向が一般的になりはじめた。
そうした中で1998年に登場したのがGoogleである。Googleは膨大な量のインデックスデータを処理し,最適な検索結果を得られるアルゴリズムを実装し,従来よりも格段に望んだ結果が表示されるようになった。2000年には日本語でのサービスもスタートし,ヤフーもGoogleをエンジンで利用するようになると,再びインターネット利用で検索エンジンを活用する人が増加するようになる。2002年からキーワード広告がスタートすると,検索結果と連動するビジネスモデルが確立し,ECサイトや各ポータルの戦略も検索エンジンの影響を大きく受けるようになる。SEOと呼ばれる検索エンジンに効率的にひっかかるようにするためのコンサルティングビジネスも急拡大してきた。

○ 広告ビジネスかマッチングビジネスか
Yahooのトップページのバナーがとても高いのはテレビのゴールデンタイムの広告料金が高いのと理屈は同じである。インターネットに従来の広告モデルを当てはめたという意味ではバナー広告を開発した人は偉いかも知れない。しかし,同時に見たくもないバナーを見せられるという違和感を感じていた利用者も少なくないだろう。インターネットの場合はバナーを見た後に行動したかどうかがクリックスルーレイト(バナーを見て,押した率)などで把握できるために,広告効果が厳しく判断される。しかし,インターネットが一般化し,全体トラフィックが増える中でその率も低下していくため,インターネット広告を販売している人々はテレビと同じ間接的なブランディング効果を訴えるようになっていった。そうした中でスタートしたオーバチュアとGoogleが検索結果に連動する広告モデルは広告主からしたらとても嬉しいものであった。これまでも検索キーワードにあわせてバナーを変える(車と入れた人に車のバナー広告を見せるなど)という試みもあったが, 検索結果そのものもしくはその側に違和感の無い形で表示される広告は利用者から見たら,もはや広告では無く,自分の求めている情報のひとつとして捉えることができるようになった。従来ようにターゲットを絞り(男性,30代,都内在住,車所有,多分欲しくなる可能性あり!)広告をリーチさせていくモデルではなく,今まさにその情報を求めて行動を起こしている人(誰かわかんないけど,今すぐ欲しい!)に,リアルタイムで探している情報に近いサービスや商品を売り込めるわけであり,ここまで来ると広告というよりはマッチングビジネスに近い世界に入っていると言える。広告の価格もオークション方式なので,人気があるキーワードは高く,そうでなければリーズナブルに購入できる。当然,これまでのポータルサイトも大きく戦略を変えてきているYahoo!はオーバチュアを買収し,これまで利用してきたグーグルのエンジンの利用を中止し,これまで買収してきた様々なサーチエンジンの会社の技術を結集させた独自のエンジンに切り替えた。Googleも現在は10億ドル近い売上の95%は前述のアドワーズと呼ばれる検索ワードを買う広告が占めているが,情報配信やブログ,ソーシャルネットワーク,無償メールサービスなど検索エンジン以外のサービスも次々と追加し,株式公開も準備し,資金も調達することから,Yahooとgoobleがポータルとしてついに全面対決をする構図が見えてきている。

○検索エンジンの未来
検索エンジンの発展はまさにポータルサイトの歴史でもあった。なぜ検索エンジンがポータルになるのかと言えば,見た目はWebページのひとつにしか過ぎないが,人間が膨大なWebの世界へアクセスするための最良のインターフェイスであるからに他ならない。今後はこのインターフェイスを最適化するための試みが鍵になると言える。これまではWeb側はHTMLとわずかな検索エンジン用の情報を提供するだけであった。それを力業で処理しているGoogleには頭が下がるばかりであるが,今後はその効率化のためにWeb側も意味を持つ情報を提供するようになるだろう。Web側からサイトの更新情報や伝えたい相手などを伝えることができるようになり,リアルタイムで検索結果に影響を与えるようになるだろう。現在でもRSSの機能を使い,実現しようとしているサービスも出てきているが,本質的にはXMLとWebサービスのテクノロジーが主流になるのと期待される。まさにセマンティックwebという考え方検索主導で実現に近づくのかも知れない。そうすれば,自分のPCの中にある電子メールやPPTなどのデータもシームレスに検索できるようになり,生産性は非常に高まることが期待できる。
インターフェイスは人間側も大きく変化することが予想される。すでにYahoo!が行っているように個人のカスタマイズ化は最初に進むであろう。自分のこれまでの検索パターンなどを理解してもらうことでより精度の高い結果を出す試みはGoogleなどでも準備されているようだ。日本では日本語入力のATOKなどと連動してくれたりすると便利だろう。キーワード入力だけでなく,自然言語や対話型も出てくるのだろう。もうひとつの大きな変化は表示方法である。SEOビジネスが盛んな理由もキーワード連動の広告が指示される理由も大多数の人が検索結果の最初の数ページしか見ないというところにある。ひたすらGoogleの1ページ目に表示されるように毎日命かけている職業が存在しているのも,つまるところページ方式で表示する現在の画面インターフェイスに依存している部分がとても大きい。しかし,膨大な量がひっかかった場合には,その分類や分布の把握などをしたいというニーズも当然のようにある。むしろみんなが知らないマイナーな情報を探している人もいる。こうした検索結果をビジュアルで表示したいというニーズはすでにでてきており,例えばGrokker(http://www.groxis.com/)という結果を自動的に体系化しマッピングしてくれるソフトまで登場してきている。筆者は個人的には3次元の本棚のインターフェイスでGoogleの結果が出てきてくれれば,それを見渡すだけで素晴らしいアイデアがいっぱい生まれそうな予感がする(図書館や本屋を歩き回っていると何気ない発見があったりするものだ)。冒頭で述べた通り,インターネットが人類の知の集積である以上,それを有効活用し,新しい知を創造するためにはまだまだ情報の出し方,見せ方には技術革新の余地が大きいと考えている。また携帯との連動も楽しみな分野である。街の中で自分の欲しい情報に瞬時にアクセスするニーズは大きく,ボイスXMLという技術があるが,音声でのインターフェイス対応も含めて期待したい。当然インターフェイスをいじると現在のトップにでるキーワード連動広告も形は変わらざるおえないと思うが,より利用者が望んでいることが把握できればマッチングビジネスの可能性は高まることになるだろう。そういう意味では大きな期待ができるビジネスモデルとしては課金モデルがある。顧客ニーズが把握されている以上,付加価値の高い役立つ情報をリアルタイムで提供する際に有料でお金を払うモデルが成り立つ可能性は高い。一回10円や100円というマイクロペイメントモデルが検索エンジンと組み合わせることで,検索結果の中にそのまま購入できる新聞記事,音楽,映像などのデジタルコンテンツが出てくれば購入率も非常に高いだろう。誰もが実現したかったモデルである,知識流通ビジネスにも大きく貢献することになるだろう。

このようにGoogleやYahoo!の発展はインターネットをひとつの巨大なコンピュータにしていくプロセスと言えるだろう。どんどん複雑化する検索アルゴリズムはやがてHALのように自分の意志を持つようになる日がくるのだろうか。