藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2005年8月8日月曜日

注目されるインターネット上の口コミ(バイラルシェア) 可視化できるようになった口コミ(ブログのキーワード分析から)

(2005年8月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

ブログの利用が拡大を続けている。書き込んでいる人たちはまだ一般とは言えないかもしれないが,すでにヤフーやグーグルでブログの書き込み情報は上位に表示されているので,インターネット利用者の半数以上の人は何かしらブログのコンテンツを目にしている状況が生まれつつある。
ブログは掲示板やチャットなどと異なり,自分が思ったこと,感じたことを独白するパーソナルメディアである。そこで書かれていることは記入者自ら素直に感じたことが書かれている(一部にはアフリエイトで売るためのテクニックに走ったり,頼まれて書いている人も存在しているが)。これがデジタル情報でネットワーク上に存在していることが大きな意味を持つ。ITにより大量のデータを集めて自動的に処理できるため,マクロ的に捉えてみると従来のアンケートなどのリサーチと異なり,街中で友人達としゃべられている会話に近い情報がデジタル情報で収集できるようになったとも言える。ある意味都市上空から巨大な集音マイクで人々の声を拾い集めているようなものである。
実際それを具現化できる技術としてブログ専門の検索エンジンが多数登場し始めている。ライブドアやgoo,楽天などブログサービスを提供している大手ポータル系も軒並みサービスを開始しているが,これら自社サイトのブログ利用を広めるためだけでなく,検索エンジンだけでビジネスをしようとする動きも活発であり,海外ではBlogPulse(http://www.blogpulse.com/),国内でもテクノラティ(http://www.technorati.jp/home.html)などのサービスが今何がブログ上で話題なのか?などをランキングで提供することを始めている。またblogWatcher(http://blogwatcher.pi.titech.ac.jp/)はブログ上のポジティブに語られているのかネガティブなのかを測定したり,バースト度(急速に話題になったキーワード)を測定する技術などを研究し,サービス化している。

口コミの影響力は長年言われてきたことであるが,計測も難しく,影響があるだろうと言われるに過ぎなかったが,デジタルコミュニケーションの発達により確実に捕捉可能なものになりつつある。
我々は企業が提供する商品情報と口コミとしての利用者の感想や噂などを両方入手しながら比較できるようになっている。購買の意志決定には両方の情報を活用しているという調査結果もあり,すでに化粧品や家電製品の分野では@コスメや価格コムは絶大な影響力を持つと言われている。そこで筆者はブログ上で実際にいくつかの商品分野について分析をしてみた(分析手法等については以下を参照:http://www.d4dr.jp/service/06-1.html)。
今年の春に発売された緑茶飲料で比較してみるとブログ上に出現したエントリー数をBEP(ブログエントリーポイント)とすると,上海冷茶はCMのタレントの話題についてのBEPが大きいことがわかる。一方の若武者は商品そのものよりも緑茶戦争について語られるている話題の中で登場する傾向が強く,さらにある一週間だけのBEPが大きく,その後はあまり出現していないことがわかる。

図表 飲料「上海冷茶」についてのブログ上での出現推移とその内容

(出所)各種資料よりD4DR社作成
図表 飲料「若武者」についてのブログ上での出現推移とその内容

(出所)各種資料よりD4DR社作成

こうした違いは商品そのものの魅力や広告やプロモーションの仕方による違いだと思うが,今後はこのようにインターネット上の口コミにどれくらい影響を与えるがひとつの広告効果の測定方法になることも予想される。また激烈なシェア争いをしているデジカメの分野でブログのエントリーでシェアを比べると実際のシェアと近いシェアが見て取れ,さらにブログ上のシェアはPOSの販売シェアの変化を予想させる兆候も感じ取れる。


図表 デジタルカメラ3社のPOSのシェアとバイラルシェア(ブログエントリー数によるもの)の比較

(出所)各種資料よりD4DR社作成


このように,口コミが可視化できるようになった今,これまでのフローで消えるプロモーションと異なり,インターネット上にブランドのポジティブな情報のストックを残すことがこれからの宣伝戦略としてはとても重要になると考えられ,戦略的に口コミをネット上にどう出現させ,残していくことが重要になる。長い時間をかけて築いたブランド力というのは,一定の力を持つが,定番商品や企業ブランドはそんな簡単に作れるものではなく,多くの企業は大量の新製品の中から1000にひとつぐらいでも定番商品が生まれればよいと願いながら,たちまち消えていく,短いライフサイクルの中でもがいているのが現状である。しかし,インターネット上の口コミはこうした現状に新しい可能性を与える。大量のマス投入とコンビニの棚割を確保するところに力を入れていたマーケティングが,自社商品の本当に伝えたい思いや,開発者の理念,利用者の新しい利用シーン発見などを伝搬させることで,ライフサイクルを長くすることに貢献できる可能性が見えてきたと言えるのではないだろうか。シェアも販売シェアをだけを競う世界からネット上の口コミ量のシェアである「バイラルシェア」を高めていくことが重要になると思われる。まだまだ統計的には未知の部分が多い世界ではあるが,デジタル化された口コミは確実に企業の商品開発や広告宣伝の世界を変革させていくことは間違いないことを予感させる。

2005年6月21日火曜日

ネット音楽配信ビジネスは今度こそ立ち上がるか 単曲課金ITMSの先にある巨大市場の幕開け

(2005年6月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

○ いよいよスタートするITMS
アップルのiTunesによる音楽ダウンロードサービスITMS(iTunes Music Store)が早ければ8月にもついに日本でもスタートすると言われている。すでに発売されているハードウェアのipodはプレーヤーとCDから入力するソフトウェアの提供だけでも国内で好調な販売を続けており,全世界で累計4億曲販売した実績の楽曲販売のスタートに対する期待は大きい。すでに先行している携帯電話会社auが提供している「着うたフル」の累計ダウンロードも2004年11月にサービスを開始して以来先日累計1000万曲のダウンロードを突破した。いよいよ日本も本格的な音楽ダウンロードサービス市場の立ち上がりを迎えようとしている。

 インターネットの商用利用がスタートしてからおよそ10年,音楽のノンパッケージ販売はもっとも期待されたインターネットビジネスのひとつであり続けてきたが,そこにはいつもは大きな壁が存在してきた。1995年に米プログレッシブネットワーク社がリアルオーディオの提供を始めた時あたりから,インターネットユーザーにはインターネットが音楽ビジネスの歴史を変えると誰もが予想したに違いない。しかし,パッケージ流通により成り立っている音楽業界にとっては,瞬間的に地球の裏側にもコピーしてしまうデジタル技術に対しては慎重にならざるおえなかった。コピー防止技術や著作権処理の技術,業界の思惑の中で標準化の話し合いについて時間は費やされる。国内の音楽業界もおそるおそるではあるが2000年には現在国内で最大の音楽ダウンロードサービスを提供しているモーラ(http://mora.jp/)の提供会社であるレーベルゲートをレコード会社各社が共同で設立し,少しずつではあるが準備を始めた。しかし同じ頃ナップスターというP2P技術を利用したファイル交換アプリケーションの登場で音楽業界は衝撃を受ける。MP3フォーマットに変換された音楽データはまたたくまに世界中を駆けめぐり始めた。時をあわせるようにCDの販売も減少をはじめ,売上減少のやり玉にP2Pソフトがあげられ,提供会社と利用者に対する起訴合戦がスタートすることになる。ITMSはまさにそうした激動の中の2003年にITMSは1曲99セントという画期的な価格設定でサービスをスタートした。成功の要因としては本コラムの第10回の情報家電のコラムでも分析したように,アップルのシェアの小ささ,PCメーカーが出したハードだったこと,ハードからソフト,コンテンツ販売までのトータルサービスであったことなどの理由があると思われるが,その後順調にサービスが世界各国で立ち上がり,参入するプレーヤーも増えて,音楽業界もこれまでの慎重論からビジネスとしてのチャンスという見方に一気に方向転換することとなった。同じ頃日本ではやはりCDの売上が減少し,その理由として携帯の通話料・パケット料に若者のCD購入費を奪われているという見方まで出ていたが,その敵であったはずの携帯の着メロの著作権使用料がなんとJASRACのCDの売上の減少分をまるまる補うという状況になったことでITMSとは別に微妙に音楽業界の見方に変化が出た。着メロでは作曲家の著作権収入が中心で商売にならなかった楽曲の原盤権を所有しているレコード会社もこの状況から,携帯の3G化に合わせて本格的に携帯に音楽を配信する着うたサービスに力を入れることになった。そしていよいよ2005年日本でのITMSサービス開始への期待が高まっているところである。

○ パッケージビジネスと何が違うのか?
ITMSに期待がある一方で日本ではうまくいかないという見方もある。ひとつは前述で解説した通り,日本では欧米と異なり携帯による音楽利用が進んでいる。携帯は確実に課金できる仕組みもあり,コピーされる心配もほとんどない。携帯での着うたにレコード会社が力を入れている状況で,ITMSに提供される楽曲の数が揃わないのではないかとの意見もある。仮に揃ったとしても洋楽中心で,若者に対する瞬発力のある売れ筋商品であるJ-POPが揃わないなどの状況も予想されている。確かに日本でのライフスタイルを考えた時に携帯のアドバンテージは大きいとは考えるが,筆者は大事なのは「ipod」か「携帯」かという議論ではなくノンパッケージの音楽ビジネスそのものの新しい利用スタイルをいかに作ることではないかと考える。
 まず音楽の価値を分析してみたい。従来のパッケージのLPなりCDの価値というのは
1)「パッケージ」デザインなど飾っておきたい価値
2)「コンテンツ」音楽そのものであり聞くことができる価値
3)「コンテクスト」曲順や選曲,アーティストの価値
の3つのバリューで構成されていると考えられる。現在のネット配信モデルでは1曲づつ購入するモデルであり,基本的には100円から300円程度の価値として購入してもらうというところが基本であり,上記の価値で言うと2)の価値が中心である。しかし,LP時代から使われているアルバムというのは、言葉通り様々なアレンジや順番含め複数の曲をトータルで構成したひとつの作品であり、一曲一曲のシングル版とは明らかに異なる価値を持つ。一昨年あたり「タイムスリップグリコ」などでなつかしのシングル版がジャケット写真毎8cmCDになって復活して人気になったことを思い出していただいてもわかる通り,「音楽を買ってしまう」欲望を喚起させるためには1)や3)の価値も大きな比重を占めている。残念ながら,デジタルのノンパッケージでは1)の所有できる価値は喪失しているため,それを利用するのは難しいが3)の価値はパッケージから解放されるからこそ再発見できる要素は多分にあると考えられる。現在の2)のモデルではコンテンツの価値を重視し、著作権というコンテンツ価値に属する権利を売買することをビジネスモデルの基本においている。確かにマイクロペイメントなどの少額課金決済技術の進展は、こうしたコンテンツ価値に対して多様な決済方法を提供することにもなり、少額の課金、回数制限方式、定額方式などの実用化を促している。
しかし,近年のCDの世界のオムニバスアルバムやベスト版の流行など,音楽の聞き手も一曲一曲に思い入れを入れているというよりは,癒されたい,カフェの気分を味わいたい,青春時代の想いに耽りたいなど,利用者はコンテキストの価値に対価を払っていると言える。実際ipodのシャッフル機能が受けているが,これは一定量の音楽の中からのランダムな選曲が楽しいという価値を提供している。同じくiTunesの中でプレイリストという機能があるが,これもDJ気分で自分で音楽を選曲する楽しさであるが,このプレイリストを交換したり,有名人が作ったプレイリストを入手するなどを楽しむ人たちがすでに登場している。これは新しいビジネスモデルを予感される。例えば、あなたが、1万曲の音楽データを手に入れたとしても、CDと異なり、その中から今日聞く音楽を選ぶことは大変な作業になる。しかし、自分の曲の好みや過去の選曲傾向などから、今日のおすすめの20曲だけを選曲し、インデックスデータを配信してくれるサービスがあったとして、それが有料でもあなたは利用するかもしれない。この場合、あなたにとって重要な価値は20曲のコンテンツ以前に、「自分のために選んでくれた20曲の選曲情報」というコンテクスト価値である。同様に自分と同じ趣味や価値観の人、80年代のAORが大好きな人たちが最近よく聞いている曲などを教えてくれるサービスが存在したらとても便利であろう。膨大なコンテンツや商品が街に溢れ容易に次々と消費される現代においては、コンテンツを商品と見た場合には普通の商品と同様に、自分の生活をより豊かにしてくれるかどうかが、購買意欲を刺激する意味でも重要なファクターになっており,もはや商品そのものが必要かどうかは重要ではなくなってくる。これは相対的にコンテンツ価値からこうしたコンテクストの価値が高まっていることを意味し、今後のデジタルコンテンツのビジネスモデルを議論する時には忘れてはいけない重要な要素であると考えられる。

○ 新しい音楽の楽しみ方は生まれるか?
このように携帯音楽配信とITMSは音楽の楽しみ方の幅を大きく広げてくれるだろう。それは今まで売ることが難しかった古い曲や眠っていた曲などに価値を与える可能性もある。携帯にもハードディスクが搭載され,いつでもどこでも膨大な音楽を持ち歩くことができるようになれば,そもそも着うたの本質的な欲求である「人に自分のお気に入りを聞かせたい」ということを自然にどこでもできるようになる。音楽は完全にコミュニケーションの道具であり,友人と乗っている自動車の中はDJブースになることは間違いない。近い将来自動車でのドライブデートは選曲センスの戦いとなるだろう。音楽は一曲一曲よりも大量の曲の中でどのように楽しむかがノンパッケージ時代のキーワードになる。

今後どんなに万能な著作権管理システムと課金システムが完成したとしても、デジタルコンテンツの購買欲望を喚起する仕掛けが用意されていなければ、欲しくなる人が少なく、ビジネスとしてはうまみはなくなる。デジタルコンテンツは音楽業界全体としては新しいビジネスチャンスであることは間違いないと思われるが、従来のパッケージビジネスにおいてもカラオケやラジオのチャート番組などの別のビジネスモデルの中で音楽に触れ,聴く機会が存在するという連動された複合型モデルで成立していたことを忘れてはいけない。一人に年間数枚のCDを売ることを考える時代から一人の年間音楽エンジョイ費を月数百円とるモデルへのパラダイムシフトこそが,市場全体のパイを広げる鍵である。音楽関係者には街で回りを見渡して欲しい。目の前を歩いているここ数年CDを買ったことの無い膨大な人々が,この大いなる市場の潜在予備軍である。巨大な新しいエンターティメント市場である音楽ビジネスの幕開けは今度こそITMSとともに幕を開けようとしている。

2005年4月18日月曜日

eマーケティング概論2005 4大メディアからアクティビティへ

(2005年6月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

eマーケティングいよいよメジャーへ

インターネットの登場でマーケティングに革命が起きると多くのマーケッタは感じてきたし,実際大きく変わっているのであるが,Webやメールを活用したマーケティングは別世界の中でユニークな存在として,毎年少しずつ宣伝・広報・営業部の予算を確保しながら成長してきた。One-to-Oneマーケティング,バイラルマーケティング,パーミッションマーケティングなど企画書の中を通り過ぎていったキーワードも多数存在したがインターネットを積極的に利用するのはあくまで特別な人たちであり,マーケティング全体の中ではまだまだ一部の人たちに対するアプローチでしかなかった。一方でTVへの大量出稿と店頭での販促など従来アプローチは,脈々と流れてきたこれまでのノウハウを継承しながら続いてきており,TVでURLが告知することや,キャンペーンの応募にメールが使えるようすることで,新しい技術に寛容であるかのように見せながらも従来のマーケティングアプローチの前提を崩すことはこれまではなかっただろう。
しかし2004年には日本のインターネットと携帯インターネットの普及率も60%を越え,そのうちの半分以上はブロードバンド化し,気がつくと自分の商品のユーザーの中に新聞もテレビも見ていないインターネットだけで情報を得ているセグメントが存在し始め,購買の意志決定にインターネットがメインに躍り出ている人々は急増している。筆者らが昨年行った調査でも最近3ヶ月の平均視聴時間でインターネット利用者のうち男性は2時間以上みている比率が地上波テレビは43%でインターネットは50%と逆転している(ちなみに女性はテレビが57.4%でインターネットが47.4%)。インターネット広告市場もラジオを越えたと言われており,少なくとも一部の大手企業のマーケティングにおいては本気にeマーケティングを主において予算のプランを立てる最初の年になるのかも知れない。

AIDMAからAIDSUASSへ

マーケティングという言葉は何気なくよく使われているが,ここでもう一度再確認しておこう。かの有名なマーケティングの大家フィリップ・コトラー教授は「マーケティングとは,価値を創造し,提供し,他の人々と交換することを通じて,個人やグループが必要とし欲求するものを獲得する社会的,経営的過程である。」と定義している。ここからも価値を創造したり,交換したり,欲求を理解したり,獲得する手段そのものが変化すればその過程も変わらざる追えないことがわかる。つまりマーケティングはコミュニケーションによるところが多く,そのコミュニケーションがデジタルネットワークとして変化することがそのままマーケティング自体の変化を促すのは定義からも明らかである。

マーケティングにおいてもっとも理解しやすい消費者の購買行動のプロセスは従来以下のようなAIDMA理論が一般的に使われてきていた。

従来のAIDMA理論
○ Attention(注意)
・テレビ広告などで注意を引かれる
○Interest(興味)
 ・商品に興味を持つ
○Desire(欲望)
 ・商品が欲しくなる
○ Memory(記憶)
・ブランドや商品を覚える
○Action(行動)
 ・購買行動を起こす

確かにマスマーケティング時代においては人々は常に新しい商品やサービスを期待し,欲求を持ち続けている人であったため,新しい商品に便利さなどをアピールし,それが伝わりさえすれば商品は購入してもらえた。しかし,物で満たされた現代日本においては革新的な技術でメリットが生み出された商品や個人個人の生活の質を向上させるような商品・サービスでなければ人々が購入しなくなってきたため,売るだけでよい状況は終わりをつげた。消費者は消費するだけの人ではなく,自らマーケティングプロセスにも参画するプロシューマー化してきており,現代の購買行動プロセスは複雑化している,より詳細化すると以下のような拡張が必要になるだろう。

新しいAIDSUASS理論
○ Attention(注意)
・注意を引く
○Interest(興味)
 ・商品に興味を持つ
○Desire(欲望)
 ・商品が欲しくなる
○ Search(探索)
・ 商品情報を調べる
○ Understand(理解)
・各種情報や友人などから学習し理解し,納得する
○Action(行動)
・ 購買行動を起こす
○ Satisfaction(満足)
・ 利用を満足し,間違っていなかったことを確認する
○ Sympathy(共感)
・商品やサービスに共感し,他人にも勧めたり,自らの商品,サービスのために行動を起こすようになる

このプロセスにおいてインターネットを中心とするデジタルコミュニケーションの果たす役割は大きくなってきており,以下のように整理できる。

1. 興味や欲望を捕捉できる
・ SEM(サーチエンジンマーケティング)が最たるものであるが,デジタルコミュニケーション上ではその人が何に関心があるのかを捕捉することができる。
・ また今どこにいるのか,何をしているかまでわかるため,その興味にあわせて商品やサービスをリアルタイムで提供することが可能になった。

2. 探索と理解が安易になった
・ 書籍で調べたり,友人に話しを聞いたり,店員と相談したり,これまでも可能ではあったが,デジタルコミュニケーションでは検索エンジンや比較サイトなどで瞬時に商品情報とそれを利用した人々の感想などの情報を入手することができるようになった。
・ さらに携帯などを利用することで店頭で商品を手に取りながらその商品の情報も入手可能になった。

3. どこでも購入できるようになった
・ ECの普及で欲しい商品はかなりのものがいつでもどこでもその場で予約・購入できるようになった。

4. 利用者同士の交流や商品開発への参加が可能になった
・ 自分の商品を利用している人同士でコミュニケーションすることが容易になり,使い方などの知識の交換も可能になった。
・ メーカーとの直接コミュニケーションが可能になり,商品の課題などを直接伝えることが容易になった。

5.販売協力ができるようになった
 ・アフリエイトプログラムなどで自分が商品を販売することに直接協力できるようになった。

このようにこれまでは,理論はあっても適切なコストで実行可能な手段がなかったために,広告・宣伝と値引きぐらいしかできなかったマーケティングの世界は多様なシナリオをマーケッタが用意することができるようになり,その土壌もできあがりつつあると言える。

アクティビティを握れ!

こうした時代において主役になるのは生活者のアクティビティ(行動)を握っているプレーヤーになる。これまでは「テレビを見る」「ラジオを聴く」「新聞を読む」という行動そのものが大きなアクティビティであり,そうしたメディアを握ることで伝える手段を抑えることが可能になり,注意や興味を持ってもらう情報を提供することで大きな力を持つことができた。あとは店頭という重要なアクティビティの上で直接目立つところに商品をおいたり,安売りしていることを伝えたり,店員の力で買いたくさせるということが可能な方法論であった。つまりメディアと店頭しかコミュニケーションできる手段は存在しなかったのである。しかし,「韓国のドラマに興味を持っているPCの前に座っている人」や「渋谷駅を18時に降りたばかりのOL」や「コンビニでお弁当を電子マネーで購入した直後の人」などがリアルタイムに捕捉できるようにな状況の中では,こうしたアクティビティにひも付いた商品情報の提供がPC,携帯,店頭・街頭ディスプレイ,レジなどのデバイスで可能になり,決済や購入段階での値引きもリアルタイムに自由自在になる。過程の情報も補足できるため効果測定も確実になり,投資対効果を明確になる。このことは以下のようにADを伝達するのにメディア主導でバリューチェーンを想定していたものをアクティビティ主導にすることが可能であるということであり,インターネット広告もこれまではどちらか言うとメディア化したポータルサイトを中心にメディア主導の発想であったが,キーワード連動型広告のように本来のデジタルコミュニケーションが得意なアクティビティ主導の流れに移行することになるであろう。その際には人々のニーズがどのように生まれ,何が意志決定の要因になるのか,共感した知識情報をどのように伝達するのかという前述のAIDSUASSに基づいたシナリオとアクティビティとどう連動するかが重要になると言え,企業は多くの人々にリーチするという行動から自社の商品・サービスにおいて重要なアクティビティを握るという行動原理に変わることになるだろう。

○メディア主導のバリューチェーン
AD+コンテンツ+デリバリー手段(4大メディア(TV,ラジオ,新聞,雑誌),チラシ,ポスター等)+行動(読む,見る,聴く)

○アクティビティ主導のバリューチェーン
AD(もしくはAD+コンテンツ)+デリバリー手段(4大メディア,PC,携帯,店頭・街頭ディスプレイ,レジ等)+行動(移動,探索,学習,買い物,談笑等)

マーケティングコストの新しい考え方

商品やサービスには原価と販売マージン以外に以下のマーケティングコストがかかるものである。

マスマーケティングコスト(4大メディア):認知させ,興味をもたせるコスト
販促コスト(チラシ,店頭POP):店頭への誘因と購買の後押しコスト
値引きコスト(クーポン,値引き原資):後押しコスト
在庫コスト:売れ残り

これらのコストはアクティビティが重要になる時代においては販促コストと値引きコストがアクティビティコスト(最適なタイミングで最適な商品情報を最適な価格で提示するコスト)に移行し,マスマーケティングの比率は下がり,在庫コストも最適化されるため減少し,相対的にはマーケティングコスト全体は以下のような形に配分が変化していくことになると予想される。

図表 マーケティングコストの配分変化


これまでもブランド別のメディアの最適配分などの方法論が話題になり,マーケティングコスト全体の最適化は多くの企業の関心事ではあるが,今後eマーケティングの世界では商品・サービス別のAIDSUASSのシナリオを描き,それに基づいてマスマーケティングとアクティビティに最適に配分することがマーケッタの需要な役割になる。あわせて従来絶対的なメディアとして君臨してきたテレビ局や新聞社,雑誌社も新しいアクティビティのどこかを握るための戦略的アライアンスが必要になるだろう。逆に生活者の様々な行動を握っているプレーヤー(鉄道会社,コンビニ,検索エンジンサイト,携帯電話会社等)にとっては新しいビジネスチャンスが生まれると言える。広告代理店もこうしたアクティビティプレーヤーとの関わりは必須になり,巨大メディアを握ることから,多様なアクティビティを握ることと,それを最適にマッチングできる能力がマーケッタ達から期待されることになるだろう。2005年はいくつの企業がこうしたeマーケティングのスタイルを実践するかが楽しみである。。

2005年2月14日月曜日

情報家電市場は花開くか ipodの成功とライブドアが放送局を買う理由

(2005年2月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

○早くも失速デジタル景気?
 つい先日まで景気の牽引役として,薄型大画面テレビ,DVDレコーダー,デジカメと新三種の神器などともてはやされていたデジタル家電景気の雲行きが,早くも怪しくなってきている。その理由は急激な価格下落が進み,各メーカーが利益を出せなくなってきているというのが大きな理由である。この価格下落を主導したのは韓国勢とも言える。韓国勢の強みのひとつは,サムソンを筆頭に強気の設備投資を続けてきたことで半導体メモリー,液晶などデジタル家電の主要部品で世界的に高いシェアを持っており,彼らの部品における価格競争力はとても強い。主要部品で競争力があれば,完成品でも価格のリードが可能になり,日本勢の予想を上回る攻勢をかけてきている。アナログ時代は各企業が職人的な技術で微妙な製品の性能の差を持つことが可能であったが,デジタル時代の商品は所詮誰でも手に入る部品の組み合わせでしかない。逆に言えばデジタル時代はオープンな規格を広げることの方が重要であり,一社だけ排他的な商品を出すわけにも行かない。そうなるといソニーのように薄型大画面テレビ市場の参入に出遅れた企業は主要部品も外部企業から調達しており,価格競争になれば,かつてのように性能での優位性をアピールすることもできず,そのまま自社の利益が圧迫される構造になっている。一方シャープのように自社で部品である液晶の競争力がある会社はまだまだ高い利益をほこっている。ソニーもサムソンと合弁で液晶の工場を作ったり,戦略的なセルという半導体を作るなど,こうした状況を打開する手は打ってはいるが,まだそれらが花開くまで時間がかかり現状は苦戦を強いられている状況である。
 このようにデジタル家電はアナログ時代の競争戦略を大きく変えてしまったわけであるが,逆に現状のようなハードウェア商品単体として利益を出すビジネスモデルそのものが問題とも筆者は考える。本来情報家電に期待されているのはネットワークとハードウェアとサービスが一体となったものであり,そのトータルなサービスでの収益の分配モデルこそが本来の情報家電ビジネスだと考える。そのためには,市場全体の生態系を見極めながら自社のポジションを探る新しい考え方に切り替える必要があるだろう。

○ ipodの成功理由
ソニーにじたんだを踏ませているもうひとつのサービスがある。ご存じ好調を続けるipodである。日本ではipodはHD&メモリー型音楽プレーヤーであるから,先のデジタル家電のようにハードウェアとして儲かっていることは間違いないのであるが,欧米ではipodというハードウェアとiTunesミュージックストアというインターフェイスに優れたソフトウェアと音楽ダウンロードサービスを組み合わせたトータルなビジネスモデルで高い収益をあげている。そもそもウォークマン以来,CD-ROM,MDと媒体を変えつつも,携帯音楽プレーヤー市場を自ら創造したブランド力からも圧倒的な強さを誇ってきたソニーが完全にシェアを奪われている状況である。しかも,ソニーは長らく,コンテンツ市場にも力を入れ,レコード会社自身も経営するなど,多くのコンテンツ権利まで持っているにも関わらずのこの状況がますます悔しさを倍増させている。
では何故ipodはここまで成功したのであろうか?その要因をここで分析してみたい。
1) クローズでシェアが小さかったこと
ネットワークを利用した音楽サービスはこれまでにも多数ベンチャー含めて挑戦されてきた。しかし,Windowsプラットフォームの上では違法コピーの問題があり,P2Pソフトの問題も拡大している中では問題が起きた時の影響が大きすぎるため,レコード会社等も本格展開には慎重な状況であった。しかしMacのシェアは米国では5%程度であり,しかも専用ハードウェアをベースとすることで特定の範囲のクローズなサービスであると認識され,音楽業界の支持を得られやすかった。(実験するには丁度よい場であったということでもある)その後,成功を見た後でアップル側もWindowsでも利用できるように移行し,両社ともにWin-Winな関係で一気に市場を拡大させることができた。
2)PCメーカーであったこと
 独自OSを採用しているMacであるが,今やPCの世界ではほとんどの技術がオープンなデファクトスタンダード技術の上に成り立っている。今やMacも実際のところ利用されている技術はオープンな技術であり,部品や主要ソフトウェアはWindowsでも利用されているものがほとんどである。その結果として水平分業の効果でMacも低コスト化な商品を出せるようになっている。ipodも独自圧縮技術を推奨しているものの,MP3など他の標準的な圧縮技術に対応しており,中身はPCベースの既存技術の組み合わせに過ぎない。そのことが展開を容易にしたと言えるだろう。
3)利用者からはトータルサービスに見えたこと
 技術的には水平展開されているPC市場のプレーヤーであるが,利用者から見たときにMacはWindowsとは異なるプラットフォームである。アップルが出すipodは利用者から見ればやはり独自のコンセプトであり,そのサービスはとてもオリジナルに見える。音楽を購入してダウンロードからiTunesというアプリケーション上でのインターフェイス,そしてハードウェアとしてのipodのデザインとインターフェイスまで利用者はアップル社が提供するトータルな世界観の中で過ごすことができ,裏側の技術などを知る必要はない。さらにそのことで「好きな音楽を一曲聴く」という価値を提供したのではなく,「ipodという音楽を聴くスタイルが楽しい」という価値を提供できたことが何よりも最大の成功要因と言えるだろう。

このようにアップルの成功は多くの示唆を与えてくれる。PCの世界のプレーヤーでありながら,オープンなインターネット技術を使いこなす優れたハードウェアを出す,家電メーカーの振る舞いをもすることができたからである。そしてそれを表すキーワードはサービス業としての顧客へ最終的にどのような価値を提供するかを素直に創り上げたことではないだろうか。

○ サービス業になれるか?
 現状情報家電分野へはPC系と家電系の争いとも言われているが,双方難しさはある。例えばPCのWindows陣営の方は各水平プレーヤーが強く,OSやアプリケーションからマイクロソフトはアップルのように魅せたいが,メーカーであるデルやHPもそう魅せたいし,MPUのインテルも狙っていればインターネットサービス企業のアマゾンも狙っているだろう。このように各階層のプレーヤーが独自に主導権を取ろうとして行くほど利用者の混乱は膨らむばかりである。一方の家電メーカー陣営は垂直統合で自社のハードウェア中心に展開することを試みるだろうが,前述した通りデジタルの世界ではそれは非常に難しい。あくまでハードウェア中心で進めば中途半端なサービスが提供されることになる。
アップルの成功から示唆されるように,今後の情報家電ビジネスにおいて,何より重要なことはサービス業であることを提供企業が再認識することであろう。そのためには何よりも顧客からの見え方が重要になる。自分がサービスを受けている相手をどれだけ意識してもらえるか。そのブランドにロイヤリティを観じているか。そのサービスに対価を払って良いと考えているか。そうしたポイントが重要になる。
 こうした意味では携帯電話業界はもうひとつ参考になるだろう。日本においては通信事業者主導で市場が形成されたため,端末のハードウェアも通信事業者主導で価格が低価格で提供され,メーカー色は薄まっている。iモードに代表されるネットワークサービスも通信事業者の意向が強く反映されている。
こうした現状には批判もある。通信料金が高い,端末メーカーが儲かりにくい。コンテンツ事業者がしばられていると。しかし,こうした顧客から見たときに統一的なイニシアティブをとれるプラットフォームプレーヤーの存在は安心感がある。対価を支払う相手としてサービス水準を保証するブランドこそがプラットフォームプレーヤーであるからである。またプラットフォーム間の競争が適正に行われれば,利用者の選択肢と利便性は確保されるだろう。iモードも様々な批判はあるにせよようやく国際展開が進みつつある。プラットフォームが広がれば,メーカーやコンテンツ提供事業者もそのチャンスは拡大するというメリットもある。

○顧客価値をにぎるプレーヤーが重要
 それでは今後の勝負はどうなるであろうか,前述したプラットフォームプレーヤーにどこがなれるのかという戦いでもある。デジタル家電の主役が薄型大画面テレビであるように,やはりテレビは情報家電の主役になる可能性が高い。だとすれば放送局は中心的なプレーヤーになるポテンシャルが高いプレーヤーと言えるだろう。しかし,一方的な放送に慣れた彼らには顧客と直接リレーションをにぎれるか難しい。放送法の既得権益に守れている部分としばりを受けている部分があり,残念ながら現状ではipodのようなイノベーションを自ら生み出すことは難しいであろう。かろうじてテレビショッピングは直接顧客と対話するのでそこから発展する可能性はあるかも知れない。米国ではCATV局が注目のプレーヤーであるため,その成功モデルが出来たあとで国内でようやく重い腰をあげることになるシナリオはあるかも知れない。
 一方,この放送局の買収で話題のライブドアをはじめ,Yahoo,楽天などインターネットサービス企業もにわかに有力プレーヤーになりつつある。Yahooはすでに独自のテレビ放送も提供しているし,インターネット上ですでに多様なサービスを提供しており,統一的なブランドで顧客に価値を提供していく流れから,情報家電分野にその戦いの場を移すのは自然の流れである。M&A力が高いところも有力視できる材料であり,ここで記述している他の分野のプレーヤーを飲み込んでプラットフォーム化する可能性は大きい。
 ISPを含む通信事業者も候補ではある。すでに100万単位の顧客から毎月対価を確実にとっている基盤は強みである。何よりも日本ではNTTは光ファイバーという最強兵器を使い大逆転を虎視眈々と狙っている眠れる?獅子である。前述した通り,携帯電話事業者は携帯という市場で利用者の生活の一部をすでに握っており,携帯の枠を飛び越えた瞬間にかなり有力プレーヤーになる。
アップル,マイクロソフトは日本ではなかなか厳しいかも知れないが,世界的な展開力を背景に日本での戦いを挑んでくることは間違いない。ipodが映像分野で攻勢をかけてきた時は面白い展開が期待できるだろう。
 では冒頭で苦戦している現在デジタル家電を提供しているメーカーはどうであろうか?松下やシャープなどはやはり韓国勢に優位にたてる部品をしっかり握りハードウェア中心に,上記の様々なプレーヤーとのアライアンスに戦略を移していくことになるだろう。もはや家電メーカー自体が主役になることは幻想になる。しかしソニーはもちろん意地でも市場で戦いを挑むことは間違いない。実際ISPのSo-NetやICカード,携帯などで電子マネーフェリカなどを展開し,顧客を握るアプローチも行っている。そういう意味ではこれまでの戦いは前哨戦であり,いよいよソニーの本格的な戦いが幕をあけると言えるだろう。

大容量なネットワークとユビキタス化の進展は生活者の家庭を中心とする様々な行動における価値ある「サービス」を提供可能とする大市場である。PCでないデジタルなハードウェアを販売するという市場はほんの予行演習にすぎない。まさにデジタル市場のK-1である本格的な異種格闘技戦の幕が開こうとしている。