藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

1999年12月7日火曜日

サイバーショップ VS リアルショップ

(1999年12月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

昨年11月末に米国で面白いニュースが話題になった。米国ミズーリ州にある170店舗をほこる大規模ショッピングモール「セントルイスガレリア」がテナントに対して「施設内でのインターネット販売の広告は一切禁止する」という通告を出したのである。
このショッピングセンターではショッピングバックにURLを入れているところやショーウインドウにネット販売の広告を出していたショップなどがあったようだが,
これらが禁止対象になった。この一見時代錯誤とも思える通告の背景にあるのは急速に広がるネット販売に対するリアル店舗の抵抗である。一昨年騒がれた「e-クリスマス」以降,米国のネット通販は小売業のビジネスに少なからず影響を与える状況になってきている。今回のクリスマス商戦ではネット販売は前年の倍増以上である総額60~85億ドルと見られており,しかも利用者は女性の方が男性を上回っているという調査結果がある。もはや一部の時間が無い忙しい人が利用するものではなく,ごく日常のショッピング手段になってきており,ウインドウショッピングが大好きだと言われていた女性でさえも参加し始めている。このことが既存の小売店舗の人々からすると顧客を奪われはじめているという恐怖感に繋がっているようだ。特に今回のショッピングモールの言い分としては「大手はインターネットと店舗両方で相乗効果を出せるが,小さい店舗はネットの餌食になる」というような発言をしている。
昨年米国では大手の玩具ストアのチェーンのトイザラスが5月に新興勢力の「eToys」などに対抗するためのネット販売を強化する戦略を打ち出したが店舗の価格よりもネットの価格を安くするかどうかで社内が大もめになり,9月にはCEOが辞任するという騒ぎがおきた。トイザラスと言えば日本ではあの有名な規制の代名詞大店法を破壊しながら日本に進出し,たちまち零細玩具問屋をいくつも廃業に追い込んだとして話題になった会社であり,古いものを破壊するカテゴリーキラーのイメージがあるが,そんなトイザラスでさえもネット販売は,既存の店舗ビジネスとの軋轢に悩むことであり,いかにこの変化が大きなものであるかが推察できる。
すでに明らかになってきていることではあるが,ネット通販は紙のカタログ通販がデジタルデータに置き換わったものではない。インターネットがもたらす新しいビジネスモデルは,多くの当たり前だと思われていたモデルを生活者本位の効率的なモデルに作り直すことを要求する。この変化の過渡期には,これまでの既得権益が大きければ大きいほど,そうした人々は恐怖に直面する。それは日本でもまもなく直面する課題であろう。
ただ筆者はあまり特別なことと考える必要も無いと思う。こうしたことはこれまでにもあったことである。
たとえば,我が国では現在,地方の多くの駅前商店街の不振が問題になっているが,それは駅前で人が通るのが当たり前だと考え,仲間で抜け駆けしないように調整しながら,その利権を守ろうとする姿勢でいたら,駅から遠くに人々が魅力に考えるような,品揃えの工夫と効率的な価格で大きなショッピングセンターが誕生し,車という移動手段を手に入れた生活者はそちらを選択したということが大きな要因と言われている。今回の問題もこの構図と同じことである。これまでは大店法などで規制でしばりをかけようとしていたが,ネットの世界にはそうした規制は持ち込めないだろう。しかも人々は車に変わる,インターネットというさらに手軽な手段を手に入れている。そして今度はかつて小売りの勝者だったショッピングセンターを冒頭のような行動に走らせているわけである。
ただ,答えを決めるのは誰でもない,これまでそうであったように,生活者が選択することになるのである。自分のことをよく理解してくれて,魅力的なサービスを提供してくれた方を。

1999年11月8日月曜日

インターネット回線の固定料金化で生産性向上?

(1999年11月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)
多くの人が何よりも第一にインターネットの未来に期待していること,それはとてもクールなホームページが登場するよりも,ものすごい画期的なサービスが登場したりすることよりも,恐らくとても現実的な課題として,現在自分が利用しているネットワークの速度がストレスを感じなくなることだろう。パソコンのMPUのスピードは1年経てば,前のパソコンが遅く感じるぐらいどんどん高速化し,数年前の古いアプリケーションだと画面のスクロールが速すぎて,行き過ぎてしまったりするような状況であるにも関わらず,インターネットのホームページはもう何年も相変わらずじわじわと出てくる状況に変わりは無い。
これはインターネット上でのサービスが花盛りであり,多くのネット企業が既存の企業よりも高い株式時価総額を付けているような米国でも依然として続いている状況であり,顧客はいつでも「待ちぼうけ」である。逆説的に言えば,こんなに速度の遅い環境でも利用者がこんなにインターネットを利用してくれるということは,それほどニーズが高いサービスであるとも言えるのかも知れない。
しかし,ようやくインターネットのインフラにも明るい未来が見え始めたようである。米国でもこれまでは電話線がメインであったが,次世代インフラの本命とされているのがCATVである。すでに普及が9割を越えているような状況であるが,これが今急速にデジタル化されており,これを活用することで電話の100倍を越えるような非常に高速な通信ネットワークが全米に構築されていくことが期待されている。
かのビルゲイツ氏もこのCATVに注目している。現在全世界のOS市場でシェア95%を誇る「WindowsOS」でさえも,現在は全米の世帯の半数にしか利用してもらっていない,それはパソコン先進国の米国でさえも世帯普及率は5割を越えたところで伸び悩んでいる状況であり,全国民に普及させるためにはこのCATVの端末であるセットトップボックス(STB)にWindowsOSを乗せることでようやく全米制服の夢が実現されるようになるという戦略であり,現在大手電話会社のAT&Tと組み米国のCATV会社を次々と傘下に納めつつあるところである。
日本でもすでにいくつかのCATV会社が高速なインターネットサービスを提供しており,大手の東急ケーブルでも利用者は一万人を越えている。日本の場合にはCATVの普及率の低く,経営も赤字の第三セクタのCATV会社が多く,新たにデジタル投資をする余力が無いところから,米国のようにCATVが必ずしも本命ではなく,むしろ携帯電話などが有力視されているのであるが,このあたりの話しはまた別の回で触れたいと思う。さて,このCATVサービスは日本では数少ない定額制の使い放題のサービスであるところも特徴であり,面白いデータとしては,あるCATV会社が利用状況を調べたところ,夜の8時に利用ピークが来ているというデータになった。通常電話を利用したインターネットの世界では夜11時に利用の最大のピークが来る。これは深夜料金やテレホーダイの開始時間であり,電話料金が安くなる時間だから,本当は寝たい人も無理して起きて利用していることだってあり得るということだろう。今後インターネット利用が定額制になれば,テレビで言うゴールデンタイムがそのままインターネット利用のゴールデンタイムになるのである。すでに市内網は定額制の米国ではゴールデンタイムのCNNの視聴率のライバルはAOL(アメリカオンライン)になっている。
日本もISDNでは一部で定額制の実験がスタートした。定額制の環境が当たり前になれば,インターネットを利用する時間も大きく変わることになるのだろう。今は多くの優秀な人が寝不足にしなっていて,日本全体の生産性が下がっているのかも知れない。だとしたらますます急がないといけないですねNTTさん。

1999年10月18日月曜日

無料インターネットサービス

(1999年10月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

米国においてもっとも普及しているインターネットサービスプロバイダー(ISP)であるAOL(アメリカオンライン)は全世界で1800万人の利用者を獲得しており,すでにAOLのシステムがダウンすると仕事にならなくなる人や生活できない人などが出てくるため,米国が麻痺すると言われるぐらい生活に密着し,普及が進んでいる。
しかしそんな一人勝ちのAOLが逆転して首位から転落するという事態が英国において起こった。その理由は現在「フリーサーブ」という98年9月に参入したばかりのプロバイダーが猛烈な勢いでシェアをのばし,サービス開始後たった4カ月で100万人の登録ユーザーを確保し、「AOLヨーロッパ」を抜いて英国第1位のISPとなったからである。フリーサーブは大手の家電チェーン「ディクソン」傘下の会社であり,英通信事業者「エネルジス」と共同でサービスを行っている。このエネルジスはフリーサーブのネットワークの運用を行っており,子会社のプラネット・オンラインを通じて15000ものサイトを運営している。ディクソンもパソコンの販売に力を入れており,無料で利用者を増やすことが結局彼らのビジネスを良い方向に導くということでこの戦略ををとっている。こうした動きに触発され,現在英国では全部で約95のISPが,利用料無料の接続を提供している。最大手の通信事業者である「ブリティッシュテレコム」も無料サービスを開始し,日本のゲーム機であるドリームキャストを利用した通信サービスもまた無料である。こうした中,米国では有料サービスを展開しているAOLまでもが英国では「ネットスケープオンライン」という無料ISPに参入し,英国の代表的な新聞に全面広告を打つなどシェア獲得に向けて激しい競争を展開している。
先進国ではインターネット利用者がまさに一般の人々を巻き込んで急拡大するフェーズに入りかけている。こうした中で,利用者を獲得する手段としてこうした「無料」というインセンティブが急速に広がりはじめている。
米国ニューハンプシャーのISPの「Empire.Net」はインターネット接続サービスの料金として,月額29ドル95セントという通常ではやや高いと思われる料金設定をしている,実はこの会社は同社のサービスに新規契約した人に,同社のサービスを3年間利用すると約束する必要はあるが無料でモデムもモニタもついたPCを進呈している。これは無料プロバイダとは逆にPCを無料にしているが,利用者の加入への障壁を減らすという意味では同じ効果がある。米国ではすでに「フリーPC」という形で,PCを無料で配布する代わりにパソコン利用時にインターネット広告が勝手に出たりするシステムや指定されたインターネット通販業者で毎月一定額以上の買い物をしなければならなかったりするシステム,そして特定のインターネットプロバイダーと必ず継続契約をしなければならないものなどが急速にシェアを高めつつあり,なんと大手の「デルコンピュータ」も1000ドルのPCに1年間のインターネット無料接続を開始するなど拡大している。
こうした動きは日本でも携帯電話が無料で配られていることから,実感できると思われるが,ハードウェアに実感できる差がなくなりつつある現在(iMacなどの動きはあるが),自分にとって利便性の高いサービスにこそ利用者が大きな価値を認めている動きが加速しているということであろう。無料にしてでもコストは広告や販売などの手数料などで回収できれば,むしろネットワーク上では見込み顧客を大量に囲い込むことがリアルな世界での「商圏」を確保することにつながり,いい立地の場所に店を構えられたことと同じ効果があると言えるだろう。現在おきている現象は無料サービスを駆使した目に見えない商圏の争奪戦なのである。
実は日本では96年にすでに広告を強制的に見せることで無料インターネットサービスを行う有名ベンチャー企業が存在していた。日本もハードゥエアでなくサービスの価値で勝負できるチャンスは十分あるということだろう。残念なのはちょぅと時代が早すぎたことであろう。

1999年9月12日日曜日

現実化したノンパッケージ流通

(1999年9月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました) 
レコードというものが登場してからSP盤がLP盤になり,そしてCDと再生技術は進化してきたが,ミュージシャンにとってはレコード会社からアルバムを発表することによって「プロ」として認められ,例えインディーズのヒーローになったとしてもそれはけして「プロ」とは一線を画して見られてきた時代が続いてきた。しかし,デジタル技術は今我々からこのレコードという概念を消失させようとしており,この「プロ」の概念をも変えようとしている。現在我々が日常利用しているMDもすでにデジタル技術の申し子であり,音楽をコンピュータで扱えるデータに変えてしまっているわけであるが,これまではあくまでメーカーやレコード会社が音質や技術を支配下におき,コントロールしてこれた。しかしインターネットの普及が高音質なデジタルデータを簡単に個人の力で全世界のネットワーク上に流布することを可能にしたことから,状況は大きく変わりだした。中でもMP3というオープンな技術がデファクトスタンダードになり,再生する安価な携帯プレーヤーも売られ始め,多くの個人が勝手に好きなアーティストの曲をネットワーク上で流し始めたことから,違法コピーが大量に流れ始め音楽団体もMPプレーヤーの出荷差し止め請求を起こすなど慌てはじめ,そして多くのインディーズがネットワーク上で曲を流すようになってきている。

大手のレコード会社はこれまでのビジネスモデルが破壊されるこうしたノンパッケージ流通に対しては歩みも遅く,神経質な対応をしてきたが,ここへ来てもはや流れは止められないと確信し始め,SDMI(Secure Digital Music Initiative)など,著作権管理などが可能な業界標準技術を積極的に進め始めた。前述の端末メーカーともSDMIを採用することで和解し,すでに今年のクリスマス商戦ではこの仕様に対応した商品を出すメーカーも登場しようとしている。MP3の端末はモーターなどの機械的な駆動部が無いため小型で軽く,振動に影響されることもない。SONYもこれらに対応したウォークマンを年末には発表するのではという噂もある。まさに音楽業界は嵐の前の静けさという状況と言えるだろう。

アーティスト側の変化も大きい。米国ではあのYahoo!を始め,多数の有料のダウンロードサービスもたくさんでてきている。ディビットボウイは新作アルバム「hours」を店頭発売より前にネットで先行発売すると発表した。すでにメジャーなアーティストにとっては手軽に多くのファンに曲を届けることが可能であり,価格も在庫リスクや流通コストを抑えることが可能なため,安くすることが可能になる。過去の楽曲もレコード店では置き場所に困っていたわけであるが,ネットワーク上にはいつでも置いておくことができる。
インディーズのアーティストにとっても,これまでの自主制作に比べれば遙かに簡単に多くの人に曲を聴いてもらえるようになった。米国のMP3.comという有名なサイトではインディーズ系のアーティストの曲が大量に無料でダウンロードされているが,そこでのランキングはこれまでのチャートと異なり買われた数ではなく,聞かれた数である。さらにダウンロードが少なかった順というのも公表されており,尖った人々にはそちらのチャートが注目されていると言われる。「売れる曲」という呪縛に縛られてきたミュージックシーンの作られ方自身も大きく変わっていくのかもしれない。音楽に対する対価はこれまで曲を運ぶためにCDのプレス代,輸送費,店頭の販売費などに大きく費用を割かれていた。しかし,ノンパッケージ流通の対価は確実にアーティスト自身への感動や期待といった価値そのものであり,ストリートミュージシャンへのチップと同様なものに近づいていくことになるのかもしれない。

が,日本でもJASRACの著作権許諾を受けた合法的な有料ダウンロードサイトが登場し始めた。中でもmusic.co.jpは5000曲の契約をしているサイトであり,音質の劣る音楽フォーマットで全曲試聴でき,気に入ったら音質のいいMP3を1曲200円で購入できるなど本格的なサイトになっている。

ヤフーがマルチメディアサイト“Yahoo! Digital”の開設を発表

Yahoo!は、音楽ライブ放送、音楽コンテンツの視聴や購入、アーチスト情報等のメニューを揃えるサイト“Yahoo! Digital”開設を発表した。同サイトの運営は、Beatnik、EMusic.com、Liquid Audio、Yahoo!、Yahoo Broadcast Services(前broadcast.com)の各社が共同で実施する。このサイトでYahoo!ユーザは、以下の楽しみ方が可能となる:

1)好きな音楽コンテンツをMP3ファイルなどの形でダウンロードしたり購入する
2)オンデマンドでビデオ・チャンネルを見る
3)Net Eventsを通じてアーティストと交流する
4)収録されている音楽のリストから希望の曲を検索する
5)オンラインで選択した音楽を再ミキシングする


またYahoo!は、同社サイトにおけるデジタル音楽の販売でLiquid Audio及びEMusic.comと契約した。EMusicは1曲99セント、あるいはアルバム1枚8ドル99セントのMP3音楽を2万2000点以上提供する。Liquid Audioも、Yahoo!のサイトで2万点以上の音楽を提供する。
なお8月30日からは、ユーザーが自分の演奏や作曲した楽譜などをアップロードし、インターネットで公開するシステム“Yaho! Open Mic”も、同サイトで開始の予定である。