藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2000年10月12日木曜日

リアルとサイバーを繋ぐ位置情報

(2000年10月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

「i-mode」の成功により,世界に向けて挑戦をするDoCoMoの動きが活発である。AOLもDoCoMoをパートナーとして選んだことで,世界の中でのDoCoMoに対する期待も大きくなってきており,ある意味で世界がモバイルネットサービスの巨大なマーケットを確信したとも言えるだろう。これまで遅れ気味であったWAPをベースにしたモバイルアプリケーションも欧米やアジアなどの日本以外の国でも急激に立ち上がってきている。メールの利用やWebへのアクセスは普通に利用できるようになってきているが,PCでのインターネット利用と大きく異なる技術的特徴として筆者がもっとも注目しているのは「位置情報」である。現在日本ではPHS事業者が基地局のエリアが狭い特性を利用して,位置情報を特定し,場所を知らせたり,その場所の周辺の情報を提供するサービスがスタートしているが,来年か日本でもスタートするIMT-2000はその技術的特性から,携帯電話でもこれまでよりも狭い範囲で位置を特定することができるようになる。さらに,衛星を利用したGPSを組み合わせることも進んでおり,米国国防省が民間利用促進のため,これまでよりも精度を高めていることと,米連邦通信委員会(FCC)が2001年までに米国のすべての携帯電話がGPS機能を搭載することを義務づけた(911-緊急電話に電話があった際に、発信者の位置を迅速に特定するためとなっているが,犯罪等の防止など政府が情報監視をしやすくするためではないかという説もある)ことで,携帯電話は今自分のいる位置情報を発信できるツールになりつつある。こうした動きの中で米国でもアットモーション,フォン・ドットコムやエアフラッシュなどのベンチャーが位置情報をベースにしたサービスやプロダクトを準備しているし,日本でもNTTDoCoMoが三井物産等と共同で「株式会社ロケーション・エージェント」という会社を設立させており,来年にはサービスを開始する予定である。
では位置情報はどのような変化をもたらしてくれるのだろうか。これまでサイバースペース上では様々なビジネスモデルが登場し,自宅や会社の机の上で時間と距離の制約を超えたビジネスへの挑戦がすすんできた。さらにはクリック&モルタルということで実在店舗との連携なども模索されてきているが,携帯電話はリアルタイムで街の中を移動中に「現在の場所」という情報でサイバースペースと繋がることができる。当然自分の位置を知って,地図を表示するということは普通に考えられるが,第三者がこの情報を共有できることでビジネスモデルが多様に広がる。
例えばマクドナルドが周囲500mにいる人にこれから1時間だけ有効なクーポン券を携帯電話に配信する。街の魚屋さんが売れ残った魚を,周辺にいる人に対してオークションする。携帯上でしか場所を教えてない秘密クラブ,3時間前にそこにいた人から,3時間後にそこに来る人にメッセージをとばす,北北西へ向かっている人だけを抽出して「北北西へ進路をとれ」コミュニティを作る等等。当然ナンパも変わる,登録しておいたプロフィールにマッチした人が周囲1km以内に登場した場合に知らせることも可能になるだろう。位置情報の登場は確実に現実世界のビジネスを大きく変化させる第一歩となることは間違いないし,声をかける勇気の無いあなたでもサイバースペース経由で目の前の美女にナンパができるようになる第一歩にもなるのかもしれない。