藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2000年9月11日月曜日

第四次産業

(2000年9月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

Amazon.comの株価低落に代表されるように,BtoCに対する見直し機運は世界的な傾向として顕著になってきている。単純に販売チャネルとしてリアルなものをオンラインに置き換えた「e-somthing系」はのきなみ市場の評価も厳しいようである。これらは既存の小売り業のひとつの形態に過ぎず,既存の小売り業よりもはるかに高い利益率を生み出すことは難しいという評価が一般的である。
しかし,こうした状況の中でも「eBay」やBtoBにおける「e-Steel」などのeMarketplaceマッチング系サービスなどは高い評価を得ている。これらのサービスの特徴としては物流など,固定費としてかかる部分を抱えておらず,いわゆる「情報流」に付加価値をつけることでビジネスをしている。例えばオークションサイトはそもそもニーズとニーズのマッチングをしていたり,価格を形成したり,信用を作るために過去の取引履歴をレイティングすることで格付けなどを行ったり,情報の付加価値を生み出す仕組みである。
しかも情報流だけでビジネスを行うことができれば,地理的要因など物理的な制約がなく,ビジネスを拡大していくことも可能である。こうした情報流のビジネスは今後さらに様々なものが考えられる。現在急速に増えているASP(アプリケーションサービスプロバイダー)もプログラムという情報流の付加価値を提供することで対価を得るビジネスモデルである。ASPはパッケージソフトをネットワークを介して利用するものもあるが,これはリアルタイムで利用者に個別の付加価値を提供することで対価を得やすくなったとも言える。つまり,身の回りでさらにつきつめていくと様々な世界が描ける。
例えば炊飯器メーカーはこれまで炊飯器の付加価値を高めるために,お米を美味しく炊くためのノウハウを研究し,炊飯器にマイコンとして内蔵させてきた,しかし,消費者は購入する時に炊飯器としてしか判断しないため,どんなに付加価値の高いソフトウェアを内臓させても倍や3倍の価格で販売することは難しかった。
しかし,もしネットワーク対応の炊飯器になり,その日その時その人がもっとも美味しくお米を炊くためのパラメーター(味覚,湿度,気圧,お米の成分,水分含有量など)から,プログラムを生成し,炊飯器にネットワークを利用して送り込むことが可能になったとしよう,この場合消費者は美味しくお米を炊いてくれるプログラムに価値を見いだしてくれるため,プログラムだけを毎月か一回毎かで有料で販売することが可能になる。すでに価値は炊飯器というハードにあるのではなく,自分自身のために価値を与えてくれるプログラムというコンテクストに価値があると言えるだろう。これは前回も少し触れた個人個人の曲を選曲してくれる「パーソナルDJ」サービスもそうである。こうしたネットワークを介して情報流の付加価値を創出することは,従来パッケージなどハードウェアと一緒になっていたり,対面で人が直接サービスするなどで物や時間の制約で埋もれていた価値を外にアンバンドルすることで,大きなビジネスを生み出すことを予感させる。それは製造業の2次産業やサービス業の3次産業とは異なり,まったく異なるビジネス特性を持つことから,知識集約型の新しい産業「第四次産業」として,違う概念で捉えてもいいのではないか。そしてIT立国が目指す産業モデルとして日本も積極的に新興していくべきものであると考える。