藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2000年12月11日月曜日

暫定インターネットから常時接続:真のインターネットへ

(2000年12月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

○暫定インターネットの登場
1993年末にMosaic(初期のブラウザー,Netscapeの前身)が登場して,インターネットビジネスが花開くまで,インターネットは研究者や一部の人たちが利用できるものであり,専用線で多くのUNIXコンピュータが常時接続され,分散コンピューティングの実験が進んでいた。しかし,WWWとMosaicの登場により,インターネットは大衆レベルで利用できることを求められ,PCでの利用と電話線の利用を前提としたサービス中心になり,必要な時だけ遅い回線で接続される「暫定インターネット」となった。初期のホームページは豊富な画像を用いたものも見られたが,すぐに軽さが命となっていく。また,多くのインフラはインターネット利用を前提に整備されたものではないため,常時接続には多くの非効率さが存在した。現在の交換機を利用した音声目的で整備された電話システムの上でパケットデータを流す状況はそもそもコスト効率が悪い。ISDNも当初常時接続を想定していないため最近の定額接続サービスでは問題も発生している。また現在の携帯電話網も色々な工夫をしてインターネットデータを流している状況がある。これまでの6年間はこうした,暫定的なインターネット環境のもとでインターネットが普及してきた段階であったが,2001年以降はようやくインフラがインターネット技術に追いつこうとしている。

○本当のインターネットのレベルへ
 現在大手キャリアが続々と参入を表明しているADSLは,交換機を介さないインターネット網をようやく実現しつつある。携帯電話におけるIMT-2000は最初からデータ通信利用を想定して規格策定が行われた。デジタル設備に置き換えたCATVは巨大なLANになった。こうした大量の高速なパケットデータを想定した高速常時接続環境の登場は,技術者が1993年当時に実現していたインターネット環境に,ようやく一般レベルで追いつき,追い越すことを意味する。現在2千数百万人と言われている我が国のインターネット利用人口はまだまだ暫定インターネットの利用人口に他ならない。真のインターネットはやはり常時接続であり,通常のデータ転送においてストレスを伴うものであっては行けない。時々しか走れず,ところどころ舗装されていない道路が整備されている状況で,ロードサイドビジネスが花開くだろうか?ロジスティックを確保しコンビニがジャストインタイムでビジネスをできるだろうか?答えはノーであることは明かであろう。逆に言えばこれまでこの暫定インターネットでよくここまで人々が我慢し,利用してきたと言える。Yahoo!は舗装されていない道路でも,軽い自転車に乗ってサクサクと新聞を配達してくれているようなものであるのかもしれない。

○常時接続で変わる利用スタイル
 ADSLなどはブロードバンドという言葉で高速化の方が話題になっているが,筆者はむしろ常時接続の方が利用者のインターネット利用の感覚を大きく変えることを予想している。ゆっくり落ち着いた状況でオンラインショッピングできたり,チャットでリアルタイムなコミュニケーションが増えることは簡単に想像ができるが,さらにデータはいつでも取りに行けるため,手元に残しておく感覚も減っていくだろう。すぐ近くにコンビニできれば,冷蔵庫の中にいつもビールを入れておく必要が無いのと同じで,音楽や大事なデータは自分のハードディスクの中にしまうのではなくネットワーク上の倉庫に預けるサービスが増えるだろう。ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)のサービスが増え,自分のパソコンにアプリケーションをインストールしておく必要も無くなるだろう。マイクロソフトもすでに「.NET」構想でこうしたコンセプトのアプリケーションを開発している。こうなることで携帯からでも,他人のパソコンからでも必要な時に自分の必要なデータとアプリケーションを利用できるようになると予想される。またナップスターのようなP2Pアプリケーションも,常時接続された環境でこそ成立する。このように常時接続で可能になるビジネスモデルの可能性は大きい。これまでの暫定インターネットでもここまで広がったインターネットビジネスが利用者の常時接続環境において,さらに次のステップにあがることを想像すれば,ビジネスチャンスもまたとても大きいものがあるのではないだろうか。

2000年12月4日月曜日

P2Pのビジネスインパクト

(2000年12月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

○第2のMosaic
93年にMosaicが登場した時の衝撃は,今日のインターネットの普及を見ても,誰の目にも明かなインパクトであった。それはMosaicでインターネットに出会う人にもそうであったが,従来からTelnet,FTPを利用しつつ,Gopherで分散ファイル管理を頭では理解していた人にも,同様にインパクトが大きかった。「これでビジネスになる!」筆者もそうであったがそう感じた人は少なくなかっただろう。ジムクラークもその一人であったに違いない。そういう意味ではNapsterの意味するところは同じようなインパクトであるのかも知れない。P2Pモデル自体は決して新しい概念では無いわけだが,それを具体的に音楽データの交換という非常に具体的かつ実用的なレベルに分散コンピューティングのイメージを与えたというところで第二のMosaicと言われるゆえんがある。

○コンテンツとコンテクストの分離
音楽データの流通に関しては,レコード会社やアーティストを含め,これまでのビジネスモデルとの親和性を維持しつつ,緩やかに移行できるモデルを目指した取り組みが真剣に行われてきた。基本は現在と同じようにデジタルコンテンツとパッケージメディアの価値を同等と考え,価格を設定し,著作権と手数料を徴収するモデルである。しかし,デジタルコンテンツはパッケージメディアにおける価値と明かに異なる価値であることは言うまでも無い。例えばこれまでCDが持っていた3つの価値は,1)「パッケージ」デザインとか飾っておきたい価値と2)「コンテンツ」音楽そのものであり聞くことができる価値と3)「コンテクスト」選曲の価値があった。パッケージの価値は明かに喪失しているし,コンテクストである選曲の価値もそこには存在しない,LP時代から使われているアルバムというのは,言葉通り様々なアレンジや順番含め複数の曲をトータルで構成したひとつの作品であり,一曲一曲のシングル版とは明らかに異なる価値を持つ。現在のデジタルコンテンツビジネスの多くは,コンテンツの価値を重視し,その権利を売買することをビジネスモデルの基本においている。しかしNapstarの登場は,コンテンツの流通コストが限りなく小さくなった状況の中では,コンテンツ価値よりもコンテクスト価値を重視してビジネスを行うことが可能であることを示した。実際に多くのコピー音楽がNapstarのサーバーではなく,ダイレクトに個人のPC間を行き来しているが,Napstarは誰がどの音楽コンテンツを所有しているか?あるジャンルの好きな人同士のコミュニティを集めることなど,コンテクストの情報そのものに価値の大きさを教えてくれることになった。
例えば,あなたが,1万曲の音楽データを手に入れたとしても,CDと異なり,それを選ぶことは大変な作業になる。しかし,自分の曲の好みや過去の選曲傾向などから,今日のおすすめの曲を選んでくれるサービスや,自分と同じ趣味や価値観の人が最近よく聞いている曲などを教えてくれるサービスが会ったら便利であろう。これはコンテクストの価値を与えてくれることに他ならない。P2Pによって,こうした音楽データや画像データ,様々なファイルやデータに対してコンテクストを与えていくビジネスモデルも十分想定できるようになる。現在はP2P技術で著作権管理を行うソフトウェアの開発なども進んでいるが,むしろこうしたコンテクストを利用したような多様なビジネスモデルを生み出すことインフラとしてP2Pの可能性を広げることが,音楽業界全体としての新しい収益メカニズムを確立していく意味でも大切なのではないかと考える。
現実にこれまでのようにコンテンツ配信ビジネスはコストもかかる。大量のコンテンツを集め,更新し,維持し続けるコストは膨大である。もしインデックスデータのみに価値を与えることができるビジネスが可能であれば,それは低コストで,価値の高いサービスとなる。実際に「gonesilent.com」のようにP2Pのサーチエンジンを開発しているベンチャーなどもでてきているが,こうした考えは狭い範囲で言えば企業内のナレッジマネジメントにも応用できる。全ての社員のデータを一カ所に集めてデータベース化することは非常に難しいことであるが,P2Pの発想で自然にデータのやりとりのコンテクストをマネジメントするだけで,ナレッジマネジメントは可能になるかもしれない。ここでも「GrooveNetworks.Inc」のように,グループウェアをP2Pで行うようなアプリケーションも登場してきている。

○分散処理のメリット
もうひとつの大きな流れは大量のデータ処理におけるP2Pの可能性だろう。現在の集中処理ではさばけない程の大量の計算を低コストで実現することが可能である。「SETI@home」のように宇宙からの膨大な信号を分散処理することなどにすでに利用が広まっているが,「United Devices,inc」などは,同様の仕組みを利用して,企業から複雑な計算処理などを受託することで商用利用することを目指している。自分のPCを提供したユーザーは航空会社のマイルなどをもらえる仕組みもあり,具体的なビジネスモデルも確立していると言えるだろう。現在の暗号化技術もスーパーコンピューター何年分の計算が必要と言っているが,全世界のPCが繋がればあっという間に解けてしまうことになるかもしれない。
また最初から大量に分散しているものの処理にも適している。例えば全国に散らばっている事業所やフランチャイズチェーンなどは現在本社のホストコンピュータに全てのデータを一度送信して処理し,利用しているが,P2Pのテクノロジーにより巨大なマスターデータを管理しない形で,リアルタイムに販売データを管理したり,商品データの更新などが可能になるかもしれない。
同様にモバイルを中心とするNonPCも有望な分野である。今後携帯電話のチップの処理速度は加速度的に高まることが予想され,現在の携帯電話が入れ替わるだけでも日本だけですでに6000万台の端末が町中に存在していることになる。これらがP2Pに接続されれば,例えば「P2Pアメダス」などが考えられる。天気のセンサーを内蔵させ,全国の6000万地域の天気情報を分散管理し,必要な人は瞬時に必要な場所の天気情報を知ることが可能になるだろう。また同様に交通情報も,P2Pを利用することで,全ての道に高度なセンサーを整備することなく監視することができるようになるかもしれない。

○技術発展によるさらなる進化
P2Pをもう一段のステップに押し上げていくためには,いくつか技術発展も望まれる。ブルートースのような端末間通信技術は交換局を通さずに,個別端末同士のやりとりを増やすことになり,自動販売機や家電など,多くのコンピュータ同士がP2Pでのネットワークを構築することを加速するだろう。またエージェント系のインテリジェント技術も必要である。人間のアクションが必要だったり,決まった処理しかできないプログラムではなく,自立的な協調分散処理を実現するために,自動化された多数のエージェントプログラムが人間に代わってP2Pの網の中で一定の処理をしていくことが求められる。
こうしたP2Pはさらに多くのビジネス分野での応用が期待される。例えば医療情報のように病院が全国で一元管理されることをいやがるような世界でも有望かもしれない。カルテや症例など病院間が結ばれれば,必要な部分だけ検索利用が可能な巨大な分散データベースが誕生し,医療の発展に多いに貢献することが可能になるのではないだろうか。このように一元管理することが必要無いことで,自然な複雑系のままでの情報処理も進み易くなり,これまでそのメカニズムが謎につつまれているような「流行」や「口コミ」がどのように広まっていくのかつかめるかもしれず,バイラルマーケティングや様々な社会現象の解明や分析にも貢献していく可能性もあると言えるだろう。

2000年11月9日木曜日

ユビキタスコンピューティング

(2000年11月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

もう10年も前にゼロックスのパロアルト研究所で研究されていた「ユビキタスコンピューティング」(遍在するコンピュータ)の概念が再び注目を浴びている。その背景としてネットワークに接続可能なNonPCの急激な増加である。携帯電話におけるiモードの成功が,Non-PCはPCとは異なるニーズでのネットワークの利用シーンを創造していくことを世界中の人に確信させることになり,米国におけるPC上でのオンラインサービスとしてもっとも成功したであろうAOLも「AOL Anywhere」の合い言葉の元に,電話,携帯電話,PDA,TVの上でAOLのサービスを利用できることを目指しており,DoCoMoともiモードのノウハウを活用するため提携した。
ではNonPCが増え端末が遍在化するとどうなるのか?まずは個人と端末の切り離しが可能になる。これまでWSなどを除き,端末は基本的に特定個人にひも付いている場合が多く,誰の端末かで個人を特定することができた。実際ローカルに個人のデータがあればますますその部分は大きい。しかし,TVや車など家族で共用で利用するものも増える中,個人のデータや環境などはネットワーク上のどこかのサーバーに存在すれば,端末は必ずしも個人にひも付いている必要はない。誰の携帯を借りても,コンビニのMMKでも,友達の車のカーナビでも,ネットワーク上の自分の環境を利用できるようになれば,身の回りのどこかにネットワークに繋がった端末さえあれば多くのことは足りるようになる。ホテルに泊まった時でもテレビは自分の好みのチャンネルを中心に設定されるし,目の悪い高齢者であれば自動的にフォントを大きくすることもできる。
2つ目は端末同士の協調分散化である。我々(特に日本人)はこれまでも電子手帳,ウォークマンなどPC以外の小型デバイスを好む特性を持っていたが,それぞれはスタンドアローンであり,協調して動作することはなかった。しかし,IPベースでネットワーク化され,Bluetoothのような技術で端末同士がお互いに通信し,協調して動作するようになると,電子レンジやエアコンなどの家電も含めて我々がインタラクティブにイベントを発生させなくてもコンピューティング同士が勝手に仕事をするようになる。
特に携帯の可能性は大きい。例えば音楽ホールにコンピュータがあり,携帯電話が近づくと,携帯電話とホールコンピュータがお互いに通信し,ここは自動的にマナーモードにするべきと判断するようなことも可能になるし,電車の中の温度はその時乗車している人達の希望温度の多数決で自動的に調整されることもあるかもしれない。口説こうとしている彼女の携帯と自分の携帯が通信し,彼女の音楽の趣味に合わせた着メロに自動的に切り替わるなどという洒落たことまでをもしてくれるかもしれない。ナップスターやグヌーテラなどの登場で注目されているP2Pのアプリケーションを動かすこともできるだろう。
こうした時代になるとオンラインサービスもWeb上でのメニューを充実させる方向から利用者の時間と場所と使用端末とその時の状況に応じて提供するサービスやコンテンツやインターフェイスなどがダイナミックに変化するようなものに変わるのだろう。オンライントレーディングサービスなどは朝のTV,通勤途中の電車の中のPDA,会社のPC,営業中の車のカーナビなどを通じて24時間最適なサービスを提供できるかどうかが勝負になるかもしれない。当然ボスの端末が近づいてきたら自動的に各端末の画面が切り替わる「自動ボスが来たモード」は欲しい機能である。

2000年11月2日木曜日

「LookWest」韓国に学ぶべきIT政策。日本に求められる「ITビッグバン」

(2000年11月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

■日本を抜き去った韓国
アジアでもっともトラフィックの多いWebサイトをご存じだろうか?ある調査サイト(http://www.alexareseach.com/)の結果では韓国のdaum.netというポータルサイトである。日本のyahoo.co.jpは4位であり,韓国のyahoo.co.krが2位である。ちなみにTop10の中で8サイトが韓国であり,残りの1つは台湾のサイトである。全世界のTop10でも3つは韓国サイトである。ご存じの人もいると思うが,韓国のインターネットユーザーは1700万人を越えており,人口4500万人の国なのですでに40%近い普及率であり,日本を追い抜いている(普及率では台湾にも抜かれている)。インフラもADSLが急速に普及しており(現在220万加入を越えている),家庭になくてもPCルームというADSLに接続されたパソコンを利用できるインターネットカフェのようなものが全国に2万件有り,1時間200円ぐらいで利用できる。証券取引は70%近くがオンライントレーディングであり,インターネットゲームではプロリーグまで設立され,プロのゲーマーになった若者は大学に推薦で入ることまで可能であり,世界中からプロのゲーマーが韓国へ移住することまで始まっている。

■IMF危機が韓国のITビッグバン
私は93年からの日本のインターネット商用化を見てきた中で,「いったい日本はこの7年間何をしていたのだろう?」と考えてしまう。ある意味では日本はIT化において完全に抜かれたわけであり,この現実をきちんと検証することは大事なことだと感じている。最近やっと我が国でも政府レベルで具体的なITへの対応の施策が次々と登場しているが,お隣韓国では3年前のIMF危機と呼ばれる金融恐慌で全てが変わった。財閥を中心に大企業が次々と倒産,レイオフを行い,優秀な人材が大量に失業者となって放出された。政府がITにかけた意気込みの違いは想像以上のものであったのだろう。国を救うためにIT・ベンチャー分野に次々と手が打たれた。通信会社は電力会社を参入させるなど,完全に競争環境が整備され,ADSLが競争原理の中で普及している。失業者の創業支援制度,ベンチャー認定されると税金が50%免除になる制度,ベンチャーを入居させると課税優遇されるベンチャービル制度,国の補助金による主婦インターネット教室や学校へのインフラ導入。家賃やネット代が無料で利用できる大量のインキュベーションセンターの整備。郵便積み立てを行うとパソコンを激安で購入できる制度。オンラインだけで証券取引を可能にする法改正など,とにかく国ができることは何でもすぐに行った。その結果が現在の状況である。もちろん韓国も世界的なネット系に対する厳しい評価は例外なく始まっており,株価は低迷している部分もあるが,KOSDAQには数百のベンチャーが上場しており,玉石混合の中でも切磋琢磨が行われている。これらはIMF危機がまさにビッグバンとなり,既得権益が吹っ飛んだ中だったからこそできた改革だったのかもしれないが,政府と民間が一体となってやる気を出せば3年できることを韓国は証明してくれた。

■日本に求められる「ITビッグバン」
橋本政権における金融ビッグバンは金融のメガコンペティションの中で危機感が生んだ政策であった。IT基本法などは評価できるものの,日本のIT政策はとてもゆっくりしており,まだまだ閉塞感の打破や次世代の産業育成のためという趣旨を抜け出していないような感がある。しかし,インターネットとMosaicが登場してすでに7年。7年前からこのネット時評のコラムニストの多くの有識者は「革命が来た!」と叫んでいたはずである。あと3年でAfterWeb10年(Web以前をBeforeWeb,以後をAfterWeb)であり,ドッグイヤーでない時代でも10年は一昔である。今から3年後までのタイムスケジュールの中で,NTT問題,通信放送融合,各種業法の見直し,ベンチャー政策を始めもはや政府の政策は危機意識を全面に出した「ITビッグバン」と命名し,民間の既得権益の退場を予告し,金融ビックバンの時のような国民全体でコンセンサスのとれるような推進力を持つべきだと考える。「LookEast」という言葉があったが,まさに今韓国は日本から見て「LookWest」となっている。

2000年10月12日木曜日

リアルとサイバーを繋ぐ位置情報

(2000年10月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

「i-mode」の成功により,世界に向けて挑戦をするDoCoMoの動きが活発である。AOLもDoCoMoをパートナーとして選んだことで,世界の中でのDoCoMoに対する期待も大きくなってきており,ある意味で世界がモバイルネットサービスの巨大なマーケットを確信したとも言えるだろう。これまで遅れ気味であったWAPをベースにしたモバイルアプリケーションも欧米やアジアなどの日本以外の国でも急激に立ち上がってきている。メールの利用やWebへのアクセスは普通に利用できるようになってきているが,PCでのインターネット利用と大きく異なる技術的特徴として筆者がもっとも注目しているのは「位置情報」である。現在日本ではPHS事業者が基地局のエリアが狭い特性を利用して,位置情報を特定し,場所を知らせたり,その場所の周辺の情報を提供するサービスがスタートしているが,来年か日本でもスタートするIMT-2000はその技術的特性から,携帯電話でもこれまでよりも狭い範囲で位置を特定することができるようになる。さらに,衛星を利用したGPSを組み合わせることも進んでおり,米国国防省が民間利用促進のため,これまでよりも精度を高めていることと,米連邦通信委員会(FCC)が2001年までに米国のすべての携帯電話がGPS機能を搭載することを義務づけた(911-緊急電話に電話があった際に、発信者の位置を迅速に特定するためとなっているが,犯罪等の防止など政府が情報監視をしやすくするためではないかという説もある)ことで,携帯電話は今自分のいる位置情報を発信できるツールになりつつある。こうした動きの中で米国でもアットモーション,フォン・ドットコムやエアフラッシュなどのベンチャーが位置情報をベースにしたサービスやプロダクトを準備しているし,日本でもNTTDoCoMoが三井物産等と共同で「株式会社ロケーション・エージェント」という会社を設立させており,来年にはサービスを開始する予定である。
では位置情報はどのような変化をもたらしてくれるのだろうか。これまでサイバースペース上では様々なビジネスモデルが登場し,自宅や会社の机の上で時間と距離の制約を超えたビジネスへの挑戦がすすんできた。さらにはクリック&モルタルということで実在店舗との連携なども模索されてきているが,携帯電話はリアルタイムで街の中を移動中に「現在の場所」という情報でサイバースペースと繋がることができる。当然自分の位置を知って,地図を表示するということは普通に考えられるが,第三者がこの情報を共有できることでビジネスモデルが多様に広がる。
例えばマクドナルドが周囲500mにいる人にこれから1時間だけ有効なクーポン券を携帯電話に配信する。街の魚屋さんが売れ残った魚を,周辺にいる人に対してオークションする。携帯上でしか場所を教えてない秘密クラブ,3時間前にそこにいた人から,3時間後にそこに来る人にメッセージをとばす,北北西へ向かっている人だけを抽出して「北北西へ進路をとれ」コミュニティを作る等等。当然ナンパも変わる,登録しておいたプロフィールにマッチした人が周囲1km以内に登場した場合に知らせることも可能になるだろう。位置情報の登場は確実に現実世界のビジネスを大きく変化させる第一歩となることは間違いないし,声をかける勇気の無いあなたでもサイバースペース経由で目の前の美女にナンパができるようになる第一歩にもなるのかもしれない。

2000年9月11日月曜日

第四次産業

(2000年9月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

Amazon.comの株価低落に代表されるように,BtoCに対する見直し機運は世界的な傾向として顕著になってきている。単純に販売チャネルとしてリアルなものをオンラインに置き換えた「e-somthing系」はのきなみ市場の評価も厳しいようである。これらは既存の小売り業のひとつの形態に過ぎず,既存の小売り業よりもはるかに高い利益率を生み出すことは難しいという評価が一般的である。
しかし,こうした状況の中でも「eBay」やBtoBにおける「e-Steel」などのeMarketplaceマッチング系サービスなどは高い評価を得ている。これらのサービスの特徴としては物流など,固定費としてかかる部分を抱えておらず,いわゆる「情報流」に付加価値をつけることでビジネスをしている。例えばオークションサイトはそもそもニーズとニーズのマッチングをしていたり,価格を形成したり,信用を作るために過去の取引履歴をレイティングすることで格付けなどを行ったり,情報の付加価値を生み出す仕組みである。
しかも情報流だけでビジネスを行うことができれば,地理的要因など物理的な制約がなく,ビジネスを拡大していくことも可能である。こうした情報流のビジネスは今後さらに様々なものが考えられる。現在急速に増えているASP(アプリケーションサービスプロバイダー)もプログラムという情報流の付加価値を提供することで対価を得るビジネスモデルである。ASPはパッケージソフトをネットワークを介して利用するものもあるが,これはリアルタイムで利用者に個別の付加価値を提供することで対価を得やすくなったとも言える。つまり,身の回りでさらにつきつめていくと様々な世界が描ける。
例えば炊飯器メーカーはこれまで炊飯器の付加価値を高めるために,お米を美味しく炊くためのノウハウを研究し,炊飯器にマイコンとして内蔵させてきた,しかし,消費者は購入する時に炊飯器としてしか判断しないため,どんなに付加価値の高いソフトウェアを内臓させても倍や3倍の価格で販売することは難しかった。
しかし,もしネットワーク対応の炊飯器になり,その日その時その人がもっとも美味しくお米を炊くためのパラメーター(味覚,湿度,気圧,お米の成分,水分含有量など)から,プログラムを生成し,炊飯器にネットワークを利用して送り込むことが可能になったとしよう,この場合消費者は美味しくお米を炊いてくれるプログラムに価値を見いだしてくれるため,プログラムだけを毎月か一回毎かで有料で販売することが可能になる。すでに価値は炊飯器というハードにあるのではなく,自分自身のために価値を与えてくれるプログラムというコンテクストに価値があると言えるだろう。これは前回も少し触れた個人個人の曲を選曲してくれる「パーソナルDJ」サービスもそうである。こうしたネットワークを介して情報流の付加価値を創出することは,従来パッケージなどハードウェアと一緒になっていたり,対面で人が直接サービスするなどで物や時間の制約で埋もれていた価値を外にアンバンドルすることで,大きなビジネスを生み出すことを予感させる。それは製造業の2次産業やサービス業の3次産業とは異なり,まったく異なるビジネス特性を持つことから,知識集約型の新しい産業「第四次産業」として,違う概念で捉えてもいいのではないか。そしてIT立国が目指す産業モデルとして日本も積極的に新興していくべきものであると考える。

2000年8月11日金曜日

著作権ビジネスモデル=護送船団方式?

(2000年8月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

米国で19歳の若者が開発した「Napster」の登場は多くのインパクトを各方面に与えている。音楽データが無料で交換されることで,多くの損害が出るということで,全米レコード協会は徹底抗戦の構えを見せている。さらに最近では「Gnutella」など制御する中心サーバーをもたないアプリケーションの登場がさらに音楽業界の危機意識をあおっている。
パッケージビジネスの前提が崩れつつある中,デジタルコンテンツビジネスは既存のビジネスモデルを活かした形で緩やかな変化を望む既得権益の人達の希望をことごとくうち砕く方向に行っていると言えるかもしれない。
そもそも,現在のCDなどのパッケージはふたつ3つの価値の集合体である。一つ目は音楽そのものの価値,二つ目は選曲,編集の価値,三つ目はデザインなど物体としての価値である。デジタル化によって3つ目の価値が喪失したが,一つ目の音楽そのものつまり,コンテンツとしての価値が自由に流通できるようになったわけだが,忘れてならないのが,二つ目の選曲の価値である。例えばあなたが,1000曲ハードディスクに音楽データを持っていたとしても,毎日その中から聞く曲を選ぶのは結構大変なことだろう。何しろ,CDと違って選曲されていないため,色んなジャンルがあればランダムに聞くのもたぶんクールにはならない。そこに例えば,あなたの好みや過去の試聴履歴,季節や話題などを考慮して,今日聞くべき曲のリストだけ送って来てくれる「パーソナルDJ」サービスがあったとしたら,どうだろう。この場合の価値はあなたのハードディスクの中の音楽にあるのではなく,選曲してくれるパーソナルDJの人の選曲という「コンテクスト」にあることになる。この価値の対価を有料でビジネスにすれば,コンテクストの収入を音楽にまわすビジネスモデルを考えることもできるかもしれない。
つまり,パッケージからデジタルの流れは,パッケージ課金からコンテンツ課金というだけではない様々な多様なビジネスモデルの登場をもたらす可能性を秘めている。現在のノンパッケージディストリビューションの議論は違法コピー防止と課金手法の多様化のところで白熱しているが,ネットの普及がアーティストとオーディエンスの関係を変えてしまう以上,既存のビジネスモデル以外の選択肢の開拓は必要不可欠な段階に来ている。
振り返れば中世の時代は多くの芸術家は,特定の王侯貴族などのパトロンから活動費用を得ていたわけであり,近代の著作権の考え方はレコードなどの大量生産の流れの中で確立していったモデルである。しかし,工業社会から知識情報社会の変化の中で金融商品の発達している英国ではデビットボーイなどがアルバムを制作するために債券を発行するなど,新しいモデルも登場してきている。ファンというコミュニティが小口のファンドを出資して,活動を支え,産み出される作品や活動収益を配当するという金融モデルとの組み合わせも一部始まっており,インターネットのコミュニティが多数でてきている中では今後も広がっていく可能性があるだろう。つまり,IT革命とサイバースペースの登場はアーティストが活動費用を多様なビジネスモデルに委ねることを可能にするわけで,「Napster」の登場は,違法コピーしほうだい!「Gnutella」は足がつかない!という側面で見るのではなく,多様なビジネスモデルの可能性が目の前に登場してきたと捉えるべきだろう。そのため,「著作権ビジネスモデル=護送船団方式」のように守るよりは既存のアーティストやオーディエンスが挑戦する環境を整え,既存著作権の仕組みの中での不利益を最小限にとどめる保険の仕組みなど,まさに金融業界が変化せざる負えないと同様に新しい仕組みを整えることを考えるべき時期に来ているのではないだろうか。

2000年7月10日月曜日

NTT再国営化論!

(2000年7月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

前回韓国の事例を紹介したが,アジアも通信インフラの高度化が急速に進展している状況の中,足踏みをしている日本でもNTTのあり方を含めて,通信インフラの問題が改めて議論されている。例えて言うならば使い勝手の良い道路整備がされていないまま,ファミレスやショッピングセンターなどのロードサイドビジネスが産業として立ち上げりつつある状況が今のECの置かれている状況であり,ロードサイドビジネスが「道路整備と車の普及によって生まれた新しいライフスタイル」を捉え,成長したビジネスであったならば「ネットの普及によって生まれる新しいライフスタイル」は新のデジタルインフラ無しでは進化しないわけである。
これまで米国のAT&T分割などをお手本にしてきているが,もはやデジタル時代は状況が異なるし,通信と放送両方の視点も必要になる。そこで現在議論されているNTT,NHKを含めて今回は私の大胆な私案を紹介したい。
まず日本の特殊事情として,これまでの通信インフラはNTTが税金と加入者権という特殊な債券を国民から集めて,整備してきたものである。またNHKも特殊会社ということで,受信料という絶対的な徴収メカニズムを持って,放送インフラの整備に当ててきた。つまり,この両者をただ民営化してもゼロに近い状態からスタートする企業がまともな競争にならないのは当たり前の話しであり,NTTの企業努力だけにするのも難しい話しである。一番重要なのはデジタル時代にふさわしい競争構造にすることであり,本当の基盤インフラとデジタルネットワークのプラットフォームとその上のコンテンツ・サービスの3層は異なるものであるという認識が必要である。そこで時代に逆行するという人もいるかも知れないが,NTTの再分割はダークファイバーと呼ばれる光ファイバーとメタリックの線そのものや電柱,交換局設備などハードウェアを所有する基盤インフラ部分を日本通信公団として,期限を定め一定のインフラが整備されるまでの時限特殊法人とし,税金を財源とすることを提案したい。各自治体の所有する下水道の光ファイバー,第三セクターの赤字CATVなどの公的インフラも吸収可能なものは一緒にするのもいいだろう。
そうした上でNTTの東,西含めて他の市内通信事業に参入する通信事業者は公団から設備を同一の条件で借り受けて,プラットフォームとしてのデジタル通信サービス事業を展開する。これにより,外資系の通信事業者も同一の条件での参入が可能であるし,大規模な設備投資が必要なければADSLなどのベンチャー通信会社も簡単に参入できる環境が整うことになり,設備を借りてケーブルテレビ会社までもスタートできる。また懸案のユニバールサービスとして過疎地域へのサービスも含めて補正予算等で国が通信インフラを支援することも容易になる。
税金は道路の財源と同様に目的税化し,通信料金の一部と通信ハードウェアに課税する。そもそも高い通信料金をNTTに吸収され使い道がよくわからなくなるよりは,一部がきちんと税金化されることで,きちんとデジタル社会のインフラになることが明確になる方がよいだろう。ADSLも過渡的なものであり,やはり長期的には安い光ファイバーが日本全国に行き渡ることを今のうちに行うことは重要である。
そしてもうひとつ重要なのはNHKの受信料である。これもインフラ整備とコンテンツ制作の費用は分離し,少なくともインフラ部分は税金とし,放送設備整備のための財源とし,広く民間企業に解放することが望ましい。(コンテンツ部分もあいまいな受信料制度は改定されるべきだが)
税金の一部はデジタルデバイド解消や,セキュリティ開発などデジタル社会で公的な費用として必要な財源にするのもいいだろう。
そして10年後にはまた新しい枠組みを考えればよいと考える。
あくまで大胆な仮説ではあるが,みなさんのご意見を是非聞きたいところである。

2000年6月12日月曜日

サイバーコリア

(2000年6月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

日米ともに一時のネットバブルの熱狂がやや冷め,ネット企業に対する選別の目は厳しい状況になってきている。その状況はアジア国々にも同様に波及しているようであり,日本のお隣韓国でも同様にハイテク関連の株価下落は起きている。しかし,韓国の状況は日本や米国とは異なる独自のサイバー化が進展しており,その状況は非常に興味深いものがある。筆者は5月末に韓国を訪問し調査してきたので,今回その状況を紹介したい。まず何よりも驚くのは街の看板に「ADSL」という言葉が普通に存在することである。ISDNが普及してしまった日本ではようやく一部の企業が実験を開始した状況であるが,韓国はISDNが無く,さらに市内電話網に競争環境が導入されていることから,ADSLが自然に普及し,高速な定額サービスが当たり前のように利用されている。このことは2年間で爆発的にインターネットを普及させた大きな要因としてあげられる。現在では利用者数も1200万人を越えており,絶対数では日本より少ないが,人口4500万人の国なので30%弱の普及率となっており,普及率では日本を越えている。国をあげてのベンチャー施策の影響もあり,コスダックという株式市場ではすでに500社を越える企業が上場しており,個人投資家ブームも起きているが,投資家の半分はすでにオンライントレーディングを利用しているという状況でもある。
また韓国は日本と異なり,プレイステーションに代表されるゲーム機がほとんど普及していない。そのため,流行しているゲームはほとんどが「スタークラフト」などのPCゲームであるが,その利用場所が凄い。ADSLのおかげでインターネット使い放題のPCを利用できる「PCルーム」という日本ではインターネットカフェのようなところがなんと全国で1万5千店にもなっており,そここそが主戦場である。子供達は学校の帰りなどに,友達とPCルームでオンラインゲームに熱中し,さらに驚くべきことはこうしたオンラインゲームは種類毎に地域別,年齢別にランキングされており,優秀なゲーマーはプロとしてスポンサーが付いてTVに出演したり,イベントに出たり,推薦で大学に入学できたりする状況があり,そうしたプロチームは次々と増えている。まさにゲーマーが親を養い,キャリアアップの道であるのも驚きである。
ネットが生活スタイルを変え,財閥中心からベンチャー主導への産業構造の転換を促した,要因としてはIMFの影響も大きい。1998年頭頃は韓国経済は最悪の状態に陥り,大手の銀行,財閥も倒産が続出した。失業者も増え,韓国にとって,構造改革はするものではなく,他に選択肢はなかったと言える。このことが,IT産業を育成していくことと,ベンチャーが新しい雇用を創出していく社会へと見事なまでに変身させた。日本は金融危機を乗り切りはしたが,痛みも制限したので,その分ドラスティックな社会変革は中途半端に終わったと言えるだろう。国家主導でIT化を進めたマレーシアなども必ずしも成功している状況ではないが,国家の危機の結果としてサイバーコリアが誕生したのも興味深い。もちろんあまりにも一度にインターネットブームとベンチャーブームが到来している,急すぎる変化の危うさも多数存在するが,ベンチャー企業も選別淘汰されるだけの絶対数が存在するところは日本とも異なる。社会がサイバー化していくモデルは多様であり,米国の道だけではないことを改めて感じた訪韓であった。

2000年5月8日月曜日

あなたのハードディスクはどこですか?

(2000年5月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

米国でハードディスクをレンタルするビジネスが続々と登場している。その中のひとつ「XDRIVE」は100Mまでのディスクスペースをなんと無料で貸してくれる(ただし今回はビジネスモデルとして無料であることは問題ではない)。といってもお店に行ってハードディスクを借りてくるわけではない。ネットワーク上のサーバーのディスクスペースを個人に貸すサービスである。そういう意味ではこれまでもホームページ用にISPが数M貸してくれることは普通だったので,何を今さらと思う人もいるだろう。このビジネスのユニークなところは個人が自分のハードディスクの代わりにこのサービスを利用するところであり,そのハードディスクを友達や家族で共有することもできる。宣伝文句にも「MP3や音楽,映像,写真やドキュメントを共有しながら楽しんで下さい」と書いてある。確かにネットワークの広帯域化が進み,大容量のデータを利用することが増えてくると,いちいち自分のローカルにダウンロードしておかなくても,サーバー上のファイルを利用したい時に利用すればよくなる。さらに,「ユビキタスコンピューティング」と言われるように,携帯電話,カーナビ,テレビ,ゲーム機,会社,家,友達の家・・・などコンピュータがどこにでも遍在していると,どんな場所でもどんな端末からでも自分の環境で利用したくなるし,住所録とかカレンダーデータなどはいちいち移したりしなくても,同じデータを利用したくなる,さらには購入した音楽データを異なる端末でも楽しみたいなど,ますます自分のパソコンのローカルのハードディスクに入っていては困る状況になりつつある。いつでも,どこでも,どんな端末からでも自分の好きなコンテンツにアクセスできることが理想になる。
一方で個人の所有範囲の境目はどんどん難しくなる。先日「MP3.com」が個人の購入したCDの音楽データをMP3化して,それを聴くことができるようにしたサービスが著作権を侵害するとして全米レコード協会(RIAA)から提訴された。この問題は奥が深い。現在,個人が自分のCDを自分のパソコンでMP3化して,ハードディスクに保存し,聴くことは問題無い。これが家庭内サーバーの中に蓄積されて,家族で楽しんでいるとややグレーになるだろう(よくCDなどに書いてある個人の楽しみの範囲というのは家族など数人で同時に聴くことは許されているらしいが)。さらに,これがマンションの共用サーバーにあって,住人みんなで楽しんでいたら明かに違法であろう。しかし,もしこの共用サーバーのハードディスクが厳しいセキュリティシステムで管理されていて,特定個人しかアクセスを許されていないとしたらどうなるだろう?この場合はあくまで自分のハードディスクの延長線上にあるわけである。これまで著作権の議論は所有を前提に議論されていたため,違法な「複製」に焦点があたっていた。電子透かし技術などもそこから発達している。しかし,我々のデジタルコンテンツに対する「所有」の概念は薄れていくことになるだろう。個人の本棚がなくても,誰もの家の隣に巨大な図書館が出来つつある。だとすれば我々は本棚と本を購入する必要は無い。図書館に入館し,本を読める「アクセス権」さえ手に入ればよくなるのではないだろうか。

2000年4月4日火曜日

ECと物づくり

(2000年4月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

米国に「mobshop」というサイトがある。旧Accompany .comと言った方がわかる人もいるかもしれないが,このサイトのユニークなところは,大口注文同士を仲介するという仕組みであり,注文する人数が増えれば増えるほど価格がどんどん安くなる仕組みになっている。例えばあるデジタルカメラを最初は$899からスタートして,25人までは$689.95で販売し,200人までは$679.95で販売する。最終的に500人以上集まるとなんと$649.95まで値下げするという仕組みだ。メーカーは当然のことながら大量生産,大量販売を前提にしているので,大口で掃けることがとても嬉しい。利用者も安ければ嬉しいため,この双方の望みをマッチングしてあげようという仕組みであり,メーカーも喜ぶし,利用者もHappyになるという,まさにWin-Winのモデルである。元々日本でも生活協同組合などもこうした発想でサービスをしているが,双方のニーズをリアルタイムでマッチングする方法がなかった。しかし,インターネットの登場がこうしたことを可能にしており,このサイトでも購入希望者が少しでも安くするために,インターネットを利用して仲間を集めたりしているらしく,ネットの恩恵を受けたサービスと言えるだろう。私がこのサービスを紹介したのは,この仕組みがECの本来の魅力を産み出す可能性を示唆していると考えているからである。
現在のECはマスプロダクトとして産み出した商品をリアルな流通で売るよりもネットを活用することで低コストでかつスピーディーでニーズ見合ったものが入手できることを競っているが,本来ECはメーカーとダイレクトに結ばれるので,「欲しい商品を欲しがる人々に作る」という物づくりの原点に戻ることができる。
例えば,これまでマンションのような高額商品はリスクも大きいため,冒険しにくかった。メーカーは立地に合わせて手頃な価格と手ごろな間取りを想定し,購入者もだいたい周辺を比較してこんなものかと購入する。しかし,これは両者の妥協の産物であり,先ほどのWin-Winの関係からはほど遠い。しかしもし,「ペットが好きで一緒に共同生活したいと思っているコミュニティ」がいたとして,彼らがネットでコミュニティを構築し,入居を予約したとしたら,メーカーも安心して,彼らのために様々な工夫を凝らすことだろう。ペットと戯れるための中庭を配置したり,壁には脱臭剤を入れたりなど,仮に価格が多少高くなろうと満足度は非常に高いものになると考えられる。もちろん,完全なインターネットを利用して個別対応する仕組みは現在でも多く存在するが,大量生産できなかったり,高価格になるなど双方割に合わない場合が多いが,あるコミュニティなどのまとまりが存在することによって,メーカーもスケールメリットを出せることになり,利用者側も手頃な価格で購入できることになる。左利きの人向けのインターフェイス,日本在住のアラビア語圏人向けカレンダー,工事現場で使うノートパソコンなど,最大公約数にはかからないが,ニーズが確実に存在することが予想される商品はたくさん想定できる。これらがコミュニティとしてネット上で存在した時にこれまでは冒険であった物づくりが,感謝に変わる瞬間がECによって実現されるのではないだろうか。

2000年3月6日月曜日

オークションサイト

(2000年3月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

日本でもオークションサイトが盛り上がってきている。日本で一番大きい楽天市場でも最近はオークションが人気であり発売直後に人気のPlaystation2が出品されたり,結婚まで有効の結構情報サービス会員資格などまでが取引されている。So-netやリクルートなどが支援しているビッダーズでも「大前研一に15分罵倒される券」が7万円で落札され,実際に大前さんにビジネスを相談する様子などがホームページでも公開されている。こうした様子はオークションに参加しなくても見ているだけでも楽しいという意味では「電子商取引」という堅くて無味乾燥なビジネスとは違いエンタティメント性は高い仕組みである。

すでに米国の代表的サイトのeBay(最近は日本版もスタートしている)ではすでに1000万人の人が300万以上のアイテムを取引しあっており,個人から事業者まで入り乱れており,中にはeBayでオークションをするうちに儲けるコツをつかみ,セミプロになっている人も多数出てきているようだ。
元々は1995年に超ペッツ容器コレクターの奥さんと旦那さんが「ペッツのキャンディ容器をインターネットで集めたり、他のコレクターと話せたら、楽しいだろう」という単純な動機でスタートしたらしいが,確かに世の中にはお店でも買えないものは多数存在する。小売りの世界は新製品を中心に,なるべく大量に効率よく売りさばくことで発達してきた,しかし少しでも不良在庫になるものは市場から消えていく運命であり,個人個人の本当の微妙なニーズは半分も満たされていないかもしれない。インターネットのオークションはそうした世の中の細かいニーズとニーズを今まで考えられなかった規模とスピードでマッチングすることを可能にしてきている。
また,オークションはそもそも価格は非常の透明性の高いメカニズムで決まるため,誰かがぼろもうけしているという不信感は存在しない。むしろeBayのように1000万人も集まるとまさに「市場」そのものなので,お店よりもeBayの価格の方が信頼性が高まるということもあるだろう。
また所有の概念も変化するので可処分所得の概念も変わるかもしれない。
中古で取引できるものが増えれば,これまで車や住宅などの高級品が中心だったリサイクルマーケットも広がり「これはeBayでα円で売れるから,高く買ってもいいや」という買い方も増えるだろう。リサイクル社会の推進にはプラスであるが,税金はとりにくい取引が増えることになるかもしれない。

オークションは中古品や,個人間の取引も多いので信用を担保するところも重要になるが,現在のオークションサイトは取引した人が相互に評価しあうという仕組みを導入している。保険を用意しているところもあり,eBayは最高 20,000 円までの保険を用意している。

今後このビジネスが拡大していくと個人のニーズに応じて買い付け代行するパーソナルエージェントサービスやコミュニティを集めて組織的に買い付けに
走る「コミュニティシンジケート」なども多数出てくるでかもしれない。アーティストのお宝などはファン倶楽部がシンジケート組んでビットしたり,貴重な絵画なども一部の金持ちが所有するのを防ぐため,ネットワーク上でコミュニティ組んで落札するということもあるかもしれない。

2000年2月7日月曜日

日米格差

(2000年2月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

これまで米国のビジネス雑誌のネット系の記事は我々にとっては最新情報の宝庫であり,WIREDも「米国は進んでいるなあ」と読む人が多いのも事実であろう。
しかしビジネスウィークの1/17号では面白い記事が載っていた。それはDoCoMoを特集で取り上げており,タイトルのバックには「ガングロ」「チャパツ」でたばこを吸いながら携帯をかける女の子の写真が使用されており,若年層がボタンひとつでネットを利用しているシーンは「AMAZING DoCoMo」に見えると書いている。すでに言われていることであるが,この6000万人が携帯・PHSを利用している状況は世界の中でも恐るべき状況であり(北欧や中国も凄いようであるが,中国はすでに7000万人普及という情報があり,さすが母数が違うという感じ・・・)何よりその普及もさることながら,買い換えサイクルの短さは突出している。確かにウォークマンもそうであったが,最新機種が出ると,壊れていないのにデザイン的に新しくしたくなったり,友達に自慢したかったりなどで買い換えてしまう。それがこの「imode」300万人突破というNIFTYが苦節10数年かけて集めた数をわずか一年で抜き去るという現象を起こしている。
まだ「マルチメディア」という言葉がちまたに溢れていた1993年頃は日本は米国に10年遅れていると言われていた。パソコンの普及率は恐ろしく格差があり,以下の図を見ていただければわかるが軒並み日本は10年遅れていると言われていた。そしてあれから5年以上経ち今ようやく状況に変化が見えてきている。98年に関して言えば以下のようなデータがある。すでに現在は2000年であり,この差はさらに縮まっているであろうが,パソコンはもはや出荷台数でテレビを追い抜き,完全に家電の領域に突入している。携帯電話は家庭用電話回線を追い抜きもっとも身近な電話となっている。

93年情報化比較      日本 米国
パソコン普及率      9.9% 41.7%
パソコン通信加入者数  195万人 420万人
携帯電話普及率      1.4% 4.4%

98年情報化比較      日本 米国
パソコン世帯普及率    32.6% 50%
インターネット人口普及率 13.4% 30%
携帯電話普及率      41.5% 29.6%
(出所)日本経済新聞

我々はもっと自信を持って良いと思う。まずゲームの分野だって日本の一人がちである。ソニックやマリオやクラッシュバンデグーが案内してくれるブラウザなんてわくわくする。たぶんそのブラウザは「セキュリティで保護されていないフォームを送信しようとしています。」なんて不安いっぱいのメッセージを出さないで「大丈夫かな?ちょっと確認してから出そうね!」ぐらいの気の利いたメッセージを出してくれることだろう。ゲームボーイやワンダースワンもネットに繋がるし,カーナビゲーションもデジタルテレビも日本が強い分野だ。
ビジネスモデルや社会システムとして見習うべきところがまだまだ多いのは事実であるが,日本から世界へ上陸していくネットビジネスがこれからたくさん出てきても不思議ではない状況はできていると考えられる。
そういえば私の会社は「.JP」とついている。そのうちシリコンバレーで「.JP」と書いたTシャツ流行るかも??

2000年1月7日金曜日

21世紀のインターフェイス

(2000年1月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

新千年紀を迎えて早くもイギリスは21世紀宣言をしているようであり,21世紀が来てしまった。しかしちょっと待ってくれというのが率直な意見である。これだけ技術革新が凄いと普段言いながらも,高度経済成長期に生まれた我々の世代にとって,これが21世紀では困る。何しろSFの世界で21世紀というのはもっとすごかった。だから21世紀はもっと技術革新が進んでなければ行けないはずなのである。自動車は宙に浮いていて環境問題とは無縁でなければいけないし,そして何よりもコンピュータは言葉を理解し,しゃべりとても使いやすいのである・・・。何故こんなことをわざわざ言うのかというと我々は,1968年にアラン・ケイが理想のイメージに近いパーソナルコンピュータとしての「ダイナブック」を提唱してから,その理想のパソコンを求めてきた。そして,今日までの進歩の中で,ひと昔前のスーパーコンピュータ並のパフォーマンスと,0.1mmを争う大きさや薄さや重さの競争の中で生まれた恐るべき小型化を手に入れているにも関わらず,インターフェイスだけは1973年にゼロックスのパロアルトで生まれた「アルト」というモデルマシン(すでにキーボードと3つボタンのマウスがついていた)から驚くべきほど進化していないからである。
さらにインターフェイスは新しい悩みも抱えている。ユビキタス(Ubiquitous:偏在化する)コンピューティングと言われ,コンピュータは我々の生活の周りのあらゆるところに進出している。そしてその代表選手である携帯電話でも現在爆発的に普及が進んでいるiモードはすでに300万台を越える普及を見せており(NIFTYが十数年かかった加入者をたったの1年で達成している!)世界でもっとも普及したネットワークにアクセスできる携帯端末になっている。しかし,問題はインターフェイスである。我々キーボード世代にとってはあの小さなボタンはとても文章を入力するのには使いたいと思えないインターフェイスである。しかし,さらに驚くのは10代の世代にとってはポケベルで鍛えた直接番号入力術も持っており,あのインターフェイスで次々と文章を入力しており,特に違和感を感じていないことである。ある意味で我々は愕然とする。昔パソコンのキーボードアレルギーで利用をためらっていた中高年を馬鹿にしていたのと同じことが,まさに今携帯電話の入力で起きているのだ。では我々もポケベル入力を覚えなくてはいけないか!?いやまて。期待がもてるのは音声インターフェイスである。すでに番号の検索を言葉をしゃべって行う技術は導入されており,もうすぐ簡単なメール文章であれば音声入力が可能になるだろう。でも待て。それではせっかくデータ通信が普及を始めて周囲に迷惑をかけるしゃべり声が減るのかと思いきや,またうるさい声が復活してしまうかもしれない・・・。営業マンの営業報告などを電車の中で聞かされた日には・・・ああ悩ましい問題である。やがて体に身につけるウェラブルコンピュータも実用化されるのだろうが,インターフェイスが一番の壁なのではないかと思う。
一方で面白い動きもある。それは電子おもちゃの世界である。最近話題になっている電子犬AIBOやファービーなどのおもちゃは話しかける,なでる,たたくなどでコンピュータとコミュニケーションとっているのである。これはこれまでのインターフェイスからすると画期的なことかもしれない。スイッチやキーボードがついていないコンピュータと慣れ親しんだ子供達はどんなインターフェイスを考え出すのだろうか?ここは楽しみである。
というわけでインターフェイスが進化することは現在進行中の社会のIT革命の進展において大きなブレークスルーになるのではと考える。21世紀は是非インターフェイスに気を使わないでコンピュータが真の「思考のための道具」になることを期待したい。