藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2001年1月16日火曜日

ユビキタスコンピューティングがもたらす無限の利用シーン 〜欲望喚起型サービスも可能になるeビジネス〜

(2001年1月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

マルチメディア狂想曲が吹き荒れていた90年代前半においては,マルチメディアの範囲が広く,夢のように様々なビジネスアイデアが議論されていたものであるが,現実的なインフラとしてのインターネットが登場してからは,まずインターネットで実現できる現実的なビジネスに人々の関心が移っていった。
現在提供されている多くのドットコムビジネスはまさに現実の環境そのものであり,家や会社のPCを利用した限られた利用シーンを前提にしているものばかりである。
例えば,現在のポピュラーな利用シーンとして,人々は会社の机の上でお昼休みに多少周りの人に気を遣いながら株を買っていたり,終業間際の夕方に週末の旅行を予約したりしている。また家庭では通信料金が安くなり,テレホーダイも始まる23時から夜中に一人自分の部屋の机の上でネットサーフィンしたりするような人々がメインである。
Yahoo!が現在成功している大きな要因は,何よりもこの現在の利用シーンにおいて,この「素早く自分の捜したい情報を見つける」という行為がもっともマッチしているからに他ならない。残念ながらこうした利用シーンにおいて一次流行したプッシュサービスはマッチしなかったと言えるだろう。誰も見ていないPCのスクリーンセーバー上で情報がむなしく提供されていたことも覚えている人も多いと思われる。
しかし,今日我々が迎えようとしているユビキタスコンピューティングの時代においては,人々はテレビや携帯やカーナビやMMKやPCなどあらゆる時間と場所から,その時もっとも使いやすい端末でネットワークにアクセスすることが可能になるわけで,これまでの限られた制約から解放されることになる。
実際,現在人気のiモードなどでも上位にくる利用サービスは電車の終電を調べるサービスや乗り換え案内をしてくれるサービスなどであり,これは電車に乗る直前や,帰りの居酒屋でこそ必要になる情報であり,その情報が必要な人にとっては,その瞬間,その場所では例えお金を払ってでも欲しい場合もある。しかし,同じ人が会社を退社する17時に机の上のパソコンでその情報を調べたとしても,その時点では必要性は低く,無料ならいいが有料では利用する気になれないだろう。これは利用シーンが異なると,同じコンテンツでも価値に違いが生じることを意味し,時間や場所などで生活者のニーズは異なり,ビジネスとして成立する場合もあれば,成立しない場合もあるということである。さらに,これまでeビジネスにおいて,PCを想定した場合,我々は一人で会社か家のPCで利用する人を多くの場合想定してきたはずである。この利用シーンにおいて,子供向けのプレゼントのECを考えた場合,きっと親がクリスマスや誕生日に買って上げるサービスを想定するだろう。今の子供が喜ぶおもちゃの紹介や,値頃感をアピールするに違いない。しかし,もし自宅のテレビでオンラインショッピングが普及したらどうなるだろう。あなたがあげようと思う,思わないに関係なく,欲望の固まりである子供達はテレビを見ている。そして,そこで販売される魅力的な商品に思わず声をあげるだろう「パパこれ買って!」しかもそれは限定商品であり,子供の目の前で在庫数を示す表示が減少していけば,さらに子供は叫ぶだろう「パパ早くしないとなくなっちゃうよ!」つまり,ECショップは子供達の欲望をあおることで,ビジネスチャンスを拡大することができるのである。同様にあなたの奥様や彼女が見ていることを想定した,宝石や旅行など欲望を喚起するサービスも出てくることは間違いない。これまでのECではニーズを持つ人と意志決定者はあくまで利用者本人であるために「One-To-One」がもてはやされている。しかし,世の中には欲望だけたくさん持っている人がたくさん存在し,その人達にプロモーションすることでニーズを喚起し,お金を持っている人に決定させるマーケティングもたくさん存在する。我々はこれまでPCモデルにおける非常に狭い範囲の利用シーンの中でドットコムビジネスを語ってきているが,これから我々が手に入れる環境ではまだまだ無限の利用シーンが待っている。これまではとてもビジネスにならなかったことが,場所と時間と重要度など利用シーンが変わるだけで大きなビジネスに繋がる可能性がでてきているのだ。そしてユビキタスコンピューティングがいち早く進むことが期待される日本市場においてこそ,こうしたきめ細かな利用シーンに対応した新しいe-ビジネスが多数登場してくることが期待できるのではないだろうか。

2001年1月15日月曜日

外資上陸とeビジネス

(2001年1月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)


幕張にフランスから世界第二位の小売り業カルフールが上陸した。電力業界では米国エンロン社が日本に上陸しようとしている。21世紀の黒船達は不景気になりそうというこの状況でもバブルの負債を抱えた国内企業を後目に日本市場を目指してくる。この市場というのは世界から見てとても美味しいマーケットに映っているようだ。それは国民が平均的に高い購買力を持ち,さらに同一人種であることから,購買行動が同質化されており,一度支持されれば一気に広がるマーケットであることも理由のひとつであろう。それは既存のサービスに必ずしも満足していない消費者がたくさんおり,決して保守的ではなく,いいものがあればすぐ新しいものに乗り換える特性を持っている。長い歴史を持つ衣料や小売り,外食産業でも絶えず,革新は起こり,既存プレーヤーは安泰ではない。
新しいプレーヤーの登場を促す要因として規制緩和と技術革新が大きな役割を果たすことはこれまでの歴史が証明している。大店法改正とともに上陸してきたトイざラスはたちまち既存玩具市場を破壊した。POSをベースにした単品管理はコンビニを小売りの覇者に押し上げた。自動車の登場とライフスタイルの変化が駅前商店街や百貨店から郊外型大型SCに顧客を移動させることを可能にした。
そして今再びチャンスは訪れようとしている。それはeビジネスという新しい武器である。カルフールの安さの源泉であるメーカーからの直接調達率は日本では卸業者の抵抗で現在は全体の約六割という状況である。これまでであればやはり日本の商慣習に屈するかと言われるところであるが,eマーケットプレイスの登場はこうした状況を激変させる可能性がある。すでにカルフールは世界の大手小売り7社が出資する電子市場「グローバルネットエクスチェンジ(GNX)」に参加しており,こうしたeマーケットプレイスの利用が広がることで,既存のノウハウをそのまま活かし,海外の市場でも調達を容易にした形での参入が可能になっていくだろう。
また電力分野における規制緩和とともに参入してきたエンロン社は発電所も建設を計画しているということでまさに今頃重厚長大産業の典型がというふうに見えるが,同時にエンロンジャパンはエンロンオンラインというエネルギーの含めた産業素材のeマーケットプレイスも併せて投入する。ここで電力需要の取引ができることで川上から川下までのバリューチェーンを握ることが可能になるわけであり,これもeビジネスがあることでより強力な参入を実現できることになる。
つまりある強いビジネスモデルを持ったプレーヤーが,新規参入する国の市場において足りない部分でeビジネスを活用できれば,これはまさに強力な参入チャンスになると言えるだろう。eビジネスの普及はこれまで流通慣行や商慣習に阻まれて参入できなかった外資にとってはまさにウェポンになろうとしているのだ。
もちろん,逆に考えれば,日本企業もeビジネスにより海外進出の機会を得ることができることも確かである。中国を始めとするアジアマーケットは何度も痛い目にあった企業も多いが,eビジネスが浸透すればいよいよ本当に上陸が実現できるかもしれない。eビジネスが特定の強いバリューをすぐに接続することを容易にしつつあるということで,強い企業はますますグローバルに展開できるチャンス増やすだろう。eビジネスの浸透は業界や業種を問わず,国際的な競争の障壁をますます低いものにすることだけは間違いない。