藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2002年4月8日月曜日

チャイナパワーをチャンスにする「ジャパンスタイル戦略」

(2002年4月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

中国の台頭が製造業の空洞化と日本の産業力の地位低下をもたらすという脅威論が日本中を席巻している。確かに技術水準が高度化し,WTO加盟を果たした中国は確実に世界の製造業において重要なポジションを占めることは間違いないだろう。しかも,沿岸部を中心とした消費市場の急速な立ち上がりも,大消費地としての魅力をますます高めている。しかし,筆者はいよいよ日本がITを活用した文化としての「ジャパンスタイル」を産業の基本戦略としてアジア市場に対して展開していく時期が来たと考える。
 例えば東京と今や中国成長のシンボルである上海との関係をかつて米国が急速に成長してきた頃の大英帝国におけるロンドンとニューヨークの関係になぞらえることができるかもしれない。当時すでに成熟化した社会であったイギリスのロンドンは文化と常に新しいカルチャーの発信拠点であった。一方ニューヨークは巨大に成長する米国市場を代表する成長都市であり,ヨーロッパの文化は消費対象であり,貪欲に吸収していった。確かにニューヨークは巨大になったが,ロンドンは常に先端的なカルチャー都市として尊敬される都市であり続けた。例えば音楽産業の世界でも米国市場は産業としては巨大であるが,ロンドンチャートは常にアーティストとには尊敬される市場で有り続けた。ロンドンで認められ,米国に移住するのがアーティストのサクセスストーリーでもあった。今後は東京で認められ,上海で巨万の富を築く,ミュージシャン,デザイナーなどが出てくることを予感させる。
ファッション,料理,J-POP,ジャパニメーションなどアジア圏における常に先端的なカルチャーを発信し,コンテンツとしての工業製品の上にスタイルとしてのコンテキストを付加することで真の「付加価値」を作ることがとても重要である。

日本は残念ながら豊かに人生を楽しむことに関しては下手な国であるが,ITを活用して楽しむ文化に関しては世界でのトップクラスの国である。ウォークマンに代表されるAVGショックなどハイテク時計も世界中を魅了した。ビデオゲーム,携帯ゲームに関してはあらためて言うまでも無い。今またロボットを生活の中で楽しむ文化が生まれようともしている。このように特に大事なのはITをコスト削減や効率化のツールとして捉えるのではなく,「楽しみ」や「幸せ」「豊かさ」を創造するツールとして,ITカルチャーによる豊かな社会「ジャパンスタイル」を作りだすことである。具体的に今おこなうべきことはまず音楽,ファッション,空間デザイン,ゲーム,アニメなどジャパンカルチャーのアジアに対する積極的なブランド化と,次にそれらにナレッジとITを積極的に活用することでの産業化を進めることである。そうすることでジャパンスタイルは尊敬され,憧れになり,質のよい工業製品を大量に供給する国からアジアを中心とした世界中の人々に対してきちんと付加価値をとりながら笑顔を供給することを目指す国になれるはずである。