藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2000年7月10日月曜日

NTT再国営化論!

(2000年7月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

前回韓国の事例を紹介したが,アジアも通信インフラの高度化が急速に進展している状況の中,足踏みをしている日本でもNTTのあり方を含めて,通信インフラの問題が改めて議論されている。例えて言うならば使い勝手の良い道路整備がされていないまま,ファミレスやショッピングセンターなどのロードサイドビジネスが産業として立ち上げりつつある状況が今のECの置かれている状況であり,ロードサイドビジネスが「道路整備と車の普及によって生まれた新しいライフスタイル」を捉え,成長したビジネスであったならば「ネットの普及によって生まれる新しいライフスタイル」は新のデジタルインフラ無しでは進化しないわけである。
これまで米国のAT&T分割などをお手本にしてきているが,もはやデジタル時代は状況が異なるし,通信と放送両方の視点も必要になる。そこで現在議論されているNTT,NHKを含めて今回は私の大胆な私案を紹介したい。
まず日本の特殊事情として,これまでの通信インフラはNTTが税金と加入者権という特殊な債券を国民から集めて,整備してきたものである。またNHKも特殊会社ということで,受信料という絶対的な徴収メカニズムを持って,放送インフラの整備に当ててきた。つまり,この両者をただ民営化してもゼロに近い状態からスタートする企業がまともな競争にならないのは当たり前の話しであり,NTTの企業努力だけにするのも難しい話しである。一番重要なのはデジタル時代にふさわしい競争構造にすることであり,本当の基盤インフラとデジタルネットワークのプラットフォームとその上のコンテンツ・サービスの3層は異なるものであるという認識が必要である。そこで時代に逆行するという人もいるかも知れないが,NTTの再分割はダークファイバーと呼ばれる光ファイバーとメタリックの線そのものや電柱,交換局設備などハードウェアを所有する基盤インフラ部分を日本通信公団として,期限を定め一定のインフラが整備されるまでの時限特殊法人とし,税金を財源とすることを提案したい。各自治体の所有する下水道の光ファイバー,第三セクターの赤字CATVなどの公的インフラも吸収可能なものは一緒にするのもいいだろう。
そうした上でNTTの東,西含めて他の市内通信事業に参入する通信事業者は公団から設備を同一の条件で借り受けて,プラットフォームとしてのデジタル通信サービス事業を展開する。これにより,外資系の通信事業者も同一の条件での参入が可能であるし,大規模な設備投資が必要なければADSLなどのベンチャー通信会社も簡単に参入できる環境が整うことになり,設備を借りてケーブルテレビ会社までもスタートできる。また懸案のユニバールサービスとして過疎地域へのサービスも含めて補正予算等で国が通信インフラを支援することも容易になる。
税金は道路の財源と同様に目的税化し,通信料金の一部と通信ハードウェアに課税する。そもそも高い通信料金をNTTに吸収され使い道がよくわからなくなるよりは,一部がきちんと税金化されることで,きちんとデジタル社会のインフラになることが明確になる方がよいだろう。ADSLも過渡的なものであり,やはり長期的には安い光ファイバーが日本全国に行き渡ることを今のうちに行うことは重要である。
そしてもうひとつ重要なのはNHKの受信料である。これもインフラ整備とコンテンツ制作の費用は分離し,少なくともインフラ部分は税金とし,放送設備整備のための財源とし,広く民間企業に解放することが望ましい。(コンテンツ部分もあいまいな受信料制度は改定されるべきだが)
税金の一部はデジタルデバイド解消や,セキュリティ開発などデジタル社会で公的な費用として必要な財源にするのもいいだろう。
そして10年後にはまた新しい枠組みを考えればよいと考える。
あくまで大胆な仮説ではあるが,みなさんのご意見を是非聞きたいところである。