藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2004年4月12日月曜日

食玩CDに見るデジタルコンテンツビジネス成長の鍵

(2004年4月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

タイムスリップグリコといういわゆる「食玩商品」が昨年ヒットした。チョコレートになつかしのLPレコードを再現させたCDシングルがおまけで着いているもので,買い占める人もたくさん出たと言われているが,その第二弾が最近発売された。今年はすでに多くの会社が類似商品で参入しており,中には入浴剤にCDを付けたものまで発売されている。そのためここ数年生産数量が毎年低下していたCDシングルも,昨年から一気に生産数量は増加に転じる影響が出ている。
一方,着メロの普及はJASRACの昨年度の著作権使用料において,レコード販売の減少分を着メロを中心としたインタラクティブ配信が全て補う形になり,ちょうど前年並みとなった。今年はさらに着メロから着うたが主流になりつつあるが,おかげで今度は歌手や演奏者にも収入が発生することになり,音楽業界の救世主になっている。
ここで注目するべきは,こうした動きは音楽業界主導で生まれたわけではなく,周辺の業界が生活者のニーズや驚きや感動をどのように作るかを必死に考える中から生まれたビジネスモデルである点である。他の多くの商品がそうであるように,すでに成熟化した日本の市場においては,商品そのものへの欲求よりは,それを利用する利用シーン(時,場所,一緒にいる人達,心理的状態等)などによって,商品の価値は大きく代わり,欲求や価格なども変化することになる。音楽も例外ではなく,カラオケではコミュニケーション媒体になったり,着うたはわざと人に聞かせたいという自己主張の手段でもあるため,家の中だけでじっくり音楽を聴く市場は小さくなっている。
現在音楽業界では,WinnyなどP2P型のファイル共有ソフトによる違法コピーの蔓延でCDの売上が低下することを恐れている。確かに今のままではその傾向も増えるかも知れない。しかし,それはCDを中心としたビジネスモデルしか利用者に提供しない場合は当然その方向に向かい防ぐことは不可能であるだろう。現在の音楽業界関係者の中で友達から借りたレコードをカセットテープにダビングしたことは一度も無いなどという人はほぼいないだろう。音楽大好きな少年達にとって,それは重要な音楽を聴くための手段であり,FMラジオをエアチェックすることはオーディオ業界含めた大事なライフスタイルであったはずである。そうしたニーズは永遠であり,少しでも音楽を楽しむために,ファイル交換を行うニーズは止めることはできないだろう。大事なことは,常に新しい音楽を楽しむ手段とビジネスモデルを創造し続けることである。米国でもアップルが99セントで音楽を販売し,かつてのウォークマンのようにiPodでそれを楽しむというライフスタイルを提案し,一定の成功を収めた。日本でそのモデルが成功するかどうかは日本の文化的にも未知数だと考えられるが,これだけデジタル技術が大いなる未来を見せている中で,短期的な収入源を恐れるだけでは,既得権益を必死に守ることしか考えない衰退産業そのものである。

音楽がチョコレートや入浴剤と一緒になって売れるように,エステやレストランで音楽を販売することもあるだろう。自由な発想の中で流通の権利を守るためのビジネスモデルから,利用者が音楽でどれだけ楽しめるかをベースとした提案型の発想でコンテクストを作りビジネスを展開することが,デジタルコンテンツビジネス市場を成長させるひとつの鍵である鍵ではないだろうか