藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2003年10月30日木曜日

第二次ITバブルにしないための3つの視点

(2003年10月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

ここのところの株価の回復,ヤフーの一部上場などの中で再びIT・ネット系の企業の株価が高値をつけている。新規上場時の株価も高値がついており,ITバブルの再来かという声もではじめている。もちろん景気の回復と2000年頃のバブル破裂からの復活としてはとてもよいことであるが,再びITバブルの過ちを犯さないためにも,ITがもたらしている大きな産業構造全体の変化の中での市場参加者の学習効果と意識改革,制度の拡充が重要である。

ルールが未整備であることの再認識
ジャスダックから一部上場に鞍替えし,すでにエスタブリッシュな会社になりつつあるヤフーでさえ,そのビジネスモデルの変化は激しい。広告モデル中心からオークション手数料,BBの販売手数料などへの収益の配分変化は急激に進んでおり,今後の成長シナリオを正確に見通せるアナリストもいないだろうし,一般投資家においてはさらに難しい話である。楽天のビジネスモデルも従来の加盟店の出店料から従量制モデル中心になり,さらには買収した事業を統合したモデルへの変化が始まっている。同じ株式市場に参加していたとしても鉄鋼業界や外食産業のように,理解しやすいビジネスルールの下に機能している企業と同列に考える段階には無い。むしろ収益モデルであるビジネスモデルは変化し続け,その前提のメカニズムである市場のビジネスルールでさえ,定まっていない。だからこそ大化けの可能性に過剰な期待が集まるという側面もあるが,ネット系のビジネスにおいて上場しているからすでに安定・安心は存在しないことを投資家は再認識する必要がある。まだまだ部分最適での収益が多く,本質的な産業構造の全体最適化で生み出される果実による収益はこれからである。アナリストもいたずらに短期の収益期待をあおり,部分最適に邁進させるだけでなく,本質的な全体最適を業界全体に促すような提言を行うことを期待したい。

投資家と経営陣のコミュニケーションの必要性
近年はIRに対する認識の高まりでWebなどを活用した情報公開は非常に積極的に行われている。しかし,投資家側からのコミュニケーションチャネルは非常に少なく,一部の掲示板などでの望ましく無い発言などが目立つ状況でもある。しかし,投資家がどのようなスタンスで株を保有しているのかは経営者も知りたいはずである。「長期の成長」「短期の高配当」「ポートフォリオの一部で個別企業のビジョンに興味なし」「いわゆるディトレーダー」などがどんな割合なのか,それお共有できるだけで状況は大きく変わるだろう。マーケティングの世界では自社商品の利用目的や満足度などを把握することは当たり前であるが,株式の世界ではまだまだ立ち後れている。むしろ知らない方がよいという雰囲気すらある。そもそも自分が買おうとしている企業の株を保有している他の人たちがどんな意識で持っているのかという情報は,投資の際の重要な判断基準にもなるだろう。短期の高株価を期待していたところ,大多数が企業のビジョンや考え方に共感して投資をしているようないわゆるサポーターの長期保有者であることがわかれば,うかつにそういう買い方はしないだろう。また経営陣の戦略立案においても重要である。今や株主総会で何時間も質問を受け付けることで「我が社はシャンシャン総会ではない!」などと開かれた企業であるかのような発言を行うことは大いなる錯覚である。ITによるコミュニケーション革命の時代を牽引する企業達が率先して古い慣習を破壊するべきである。

非公開企業への資金提供手段の拡充

ベンチャー企業がIPOの道を選ぶ最大の理由は資金調達であることは明かである。信用や人材の確保など付随的なメリットは大きいが,適切なタイミングで資金を入手するために,まずはIPOのシナリオを書く経営者も多い。しかし,IPOすることは一方で持続的な高成長を求められるために,無理な戦略シナリオを書かざるをえない状況もある。心のどこかで「目論見書の通りになるわけは無いが,IPOしてから考えるか」という気持ちがある経営者も少ないないだろう。ある意味では投資家に対しても無責任であるし,不幸な状況である。無理な公開・上場企業を増やさないためにも未公開企業の資金調達の多様化の道を作ることが一方で重要である。グリーンシートや私募債,エンジェルファンドなどIPO以外に資金調達の方法論が広がるのであれば,IPOに適した企業が市場に登場することで,市場の信頼を失うような企業の登場を減らすことができる。そのためにも税制改正など非公開企業にも焦点をあてた制度の整備も一段と進めることを忘れてはいけない。