藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2005年4月18日月曜日

eマーケティング概論2005 4大メディアからアクティビティへ

(2005年6月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

eマーケティングいよいよメジャーへ

インターネットの登場でマーケティングに革命が起きると多くのマーケッタは感じてきたし,実際大きく変わっているのであるが,Webやメールを活用したマーケティングは別世界の中でユニークな存在として,毎年少しずつ宣伝・広報・営業部の予算を確保しながら成長してきた。One-to-Oneマーケティング,バイラルマーケティング,パーミッションマーケティングなど企画書の中を通り過ぎていったキーワードも多数存在したがインターネットを積極的に利用するのはあくまで特別な人たちであり,マーケティング全体の中ではまだまだ一部の人たちに対するアプローチでしかなかった。一方でTVへの大量出稿と店頭での販促など従来アプローチは,脈々と流れてきたこれまでのノウハウを継承しながら続いてきており,TVURLが告知することや,キャンペーンの応募にメールが使えるようすることで,新しい技術に寛容であるかのように見せながらも従来のマーケティングアプローチの前提を崩すことはこれまではなかっただろう。
しかし2004年には日本のインターネットと携帯インターネットの普及率も60%を越え,そのうちの半分以上はブロードバンド化し,気がつくと自分の商品のユーザーの中に新聞もテレビも見ていないインターネットだけで情報を得ているセグメントが存在し始め,購買の意志決定にインターネットがメインに躍り出ている人々は急増している。筆者らが昨年行った調査でも最近3ヶ月の平均視聴時間でインターネット利用者のうち男性は2時間以上みている比率が地上波テレビは43%でインターネットは50%と逆転している(ちなみに女性はテレビが57.4%でインターネットが47.4%)。インターネット広告市場もラジオを越えたと言われており,少なくとも一部の大手企業のマーケティングにおいては本気にeマーケティングを主において予算のプランを立てる最初の年になるのかも知れない。

AIDMAからAIDSUASS

マーケティングという言葉は何気なくよく使われているが,ここでもう一度再確認しておこう。かの有名なマーケティングの大家フィリップ・コトラー教授は「マーケティングとは,価値を創造し,提供し,他の人々と交換することを通じて,個人やグループが必要とし欲求するものを獲得する社会的,経営的過程である。」と定義している。ここからも価値を創造したり,交換したり,欲求を理解したり,獲得する手段そのものが変化すればその過程も変わらざる追えないことがわかる。つまりマーケティングはコミュニケーションによるところが多く,そのコミュニケーションがデジタルネットワークとして変化することがそのままマーケティング自体の変化を促すのは定義からも明らかである。

マーケティングにおいてもっとも理解しやすい消費者の購買行動のプロセスは従来以下のようなAIDMA理論が一般的に使われてきていた。

従来のAIDMA理論
Attention(注意)
・テレビ広告などで注意を引かれる
Interest(興味)
 ・商品に興味を持つ
Desire(欲望)
 ・商品が欲しくなる
Memory(記憶)
・ブランドや商品を覚える
Action(行動)
 ・購買行動を起こす

確かにマスマーケティング時代においては人々は常に新しい商品やサービスを期待し,欲求を持ち続けている人であったため,新しい商品に便利さなどをアピールし,それが伝わりさえすれば商品は購入してもらえた。しかし,物で満たされた現代日本においては革新的な技術でメリットが生み出された商品や個人個人の生活の質を向上させるような商品・サービスでなければ人々が購入しなくなってきたため,売るだけでよい状況は終わりをつげた。消費者は消費するだけの人ではなく,自らマーケティングプロセスにも参画するプロシューマー化してきており,現代の購買行動プロセスは複雑化している,より詳細化すると以下のような拡張が必要になるだろう。

新しいAIDSUASS理論
Attention(注意)
・注意を引く
Interest(興味)
 ・商品に興味を持つ
Desire(欲望)
 ・商品が欲しくなる
Search(探索)
商品情報を調べる
Understand(理解)
・各種情報や友人などから学習し理解し,納得する
Action(行動)
購買行動を起こす
Satisfaction(満足)
利用を満足し,間違っていなかったことを確認する
Sympathy(共感)
・商品やサービスに共感し,他人にも勧めたり,自らの商品,サービスのために行動を起こすようになる

このプロセスにおいてインターネットを中心とするデジタルコミュニケーションの果たす役割は大きくなってきており,以下のように整理できる。

1. 興味や欲望を捕捉できる
SEM(サーチエンジンマーケティング)が最たるものであるが,デジタルコミュニケーション上ではその人が何に関心があるのかを捕捉することができる。
また今どこにいるのか,何をしているかまでわかるため,その興味にあわせて商品やサービスをリアルタイムで提供することが可能になった。

2. 探索と理解が安易になった
書籍で調べたり,友人に話しを聞いたり,店員と相談したり,これまでも可能ではあったが,デジタルコミュニケーションでは検索エンジンや比較サイトなどで瞬時に商品情報とそれを利用した人々の感想などの情報を入手することができるようになった。
さらに携帯などを利用することで店頭で商品を手に取りながらその商品の情報も入手可能になった。

3. どこでも購入できるようになった
ECの普及で欲しい商品はかなりのものがいつでもどこでもその場で予約・購入できるようになった。

4. 利用者同士の交流や商品開発への参加が可能になった
自分の商品を利用している人同士でコミュニケーションすることが容易になり,使い方などの知識の交換も可能になった。
メーカーとの直接コミュニケーションが可能になり,商品の課題などを直接伝えることが容易になった。

5.販売協力ができるようになった
 ・アフリエイトプログラムなどで自分が商品を販売することに直接協力できるようになった。

このようにこれまでは,理論はあっても適切なコストで実行可能な手段がなかったために,広告・宣伝と値引きぐらいしかできなかったマーケティングの世界は多様なシナリオをマーケッタが用意することができるようになり,その土壌もできあがりつつあると言える。

アクティビティを握れ!

こうした時代において主役になるのは生活者のアクティビティ(行動)を握っているプレーヤーになる。これまでは「テレビを見る」「ラジオを聴く」「新聞を読む」という行動そのものが大きなアクティビティであり,そうしたメディアを握ることで伝える手段を抑えることが可能になり,注意や興味を持ってもらう情報を提供することで大きな力を持つことができた。あとは店頭という重要なアクティビティの上で直接目立つところに商品をおいたり,安売りしていることを伝えたり,店員の力で買いたくさせるということが可能な方法論であった。つまりメディアと店頭しかコミュニケーションできる手段は存在しなかったのである。しかし,「韓国のドラマに興味を持っているPCの前に座っている人」や「渋谷駅を18時に降りたばかりのOL」や「コンビニでお弁当を電子マネーで購入した直後の人」などがリアルタイムに捕捉できるようにな状況の中では,こうしたアクティビティにひも付いた商品情報の提供がPC,携帯,店頭・街頭ディスプレイ,レジなどのデバイスで可能になり,決済や購入段階での値引きもリアルタイムに自由自在になる。過程の情報も補足できるため効果測定も確実になり,投資対効果を明確になる。このことは以下のようにADを伝達するのにメディア主導でバリューチェーンを想定していたものをアクティビティ主導にすることが可能であるということであり,インターネット広告もこれまではどちらか言うとメディア化したポータルサイトを中心にメディア主導の発想であったが,キーワード連動型広告のように本来のデジタルコミュニケーションが得意なアクティビティ主導の流れに移行することになるであろう。その際には人々のニーズがどのように生まれ,何が意志決定の要因になるのか,共感した知識情報をどのように伝達するのかという前述のAIDSUASSに基づいたシナリオとアクティビティとどう連動するかが重要になると言え,企業は多くの人々にリーチするという行動から自社の商品・サービスにおいて重要なアクティビティを握るという行動原理に変わることになるだろう。

○メディア主導のバリューチェーン
AD+コンテンツ+デリバリー手段(4大メディア(TV,ラジオ,新聞,雑誌),チラシ,ポスター等)+行動(読む,見る,聴く)

○アクティビティ主導のバリューチェーン
AD(もしくはAD+コンテンツ)+デリバリー手段(4大メディア,PC,携帯,店頭・街頭ディスプレイ,レジ等)+行動(移動,探索,学習,買い物,談笑等)

マーケティングコストの新しい考え方

商品やサービスには原価と販売マージン以外に以下のマーケティングコストがかかるものである。

マスマーケティングコスト(4大メディア):認知させ,興味をもたせるコスト
販促コスト(チラシ,店頭POP):店頭への誘因と購買の後押しコスト
値引きコスト(クーポン,値引き原資):後押しコスト
在庫コスト:売れ残り

これらのコストはアクティビティが重要になる時代においては販促コストと値引きコストがアクティビティコスト(最適なタイミングで最適な商品情報を最適な価格で提示するコスト)に移行し,マスマーケティングの比率は下がり,在庫コストも最適化されるため減少し,相対的にはマーケティングコスト全体は以下のような形に配分が変化していくことになると予想される。

図表 マーケティングコストの配分変化


これまでもブランド別のメディアの最適配分などの方法論が話題になり,マーケティングコスト全体の最適化は多くの企業の関心事ではあるが,今後eマーケティングの世界では商品・サービス別のAIDSUASSのシナリオを描き,それに基づいてマスマーケティングとアクティビティに最適に配分することがマーケッタの需要な役割になる。あわせて従来絶対的なメディアとして君臨してきたテレビ局や新聞社,雑誌社も新しいアクティビティのどこかを握るための戦略的アライアンスが必要になるだろう。逆に生活者の様々な行動を握っているプレーヤー(鉄道会社,コンビニ,検索エンジンサイト,携帯電話会社等)にとっては新しいビジネスチャンスが生まれると言える。広告代理店もこうしたアクティビティプレーヤーとの関わりは必須になり,巨大メディアを握ることから,多様なアクティビティを握ることと,それを最適にマッチングできる能力がマーケッタ達から期待されることになるだろう。2005年はいくつの企業がこうしたeマーケティングのスタイルを実践するかが楽しみである。。