藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2000年6月12日月曜日

サイバーコリア

(2000年6月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

日米ともに一時のネットバブルの熱狂がやや冷め,ネット企業に対する選別の目は厳しい状況になってきている。その状況はアジア国々にも同様に波及しているようであり,日本のお隣韓国でも同様にハイテク関連の株価下落は起きている。しかし,韓国の状況は日本や米国とは異なる独自のサイバー化が進展しており,その状況は非常に興味深いものがある。筆者は5月末に韓国を訪問し調査してきたので,今回その状況を紹介したい。まず何よりも驚くのは街の看板に「ADSL」という言葉が普通に存在することである。ISDNが普及してしまった日本ではようやく一部の企業が実験を開始した状況であるが,韓国はISDNが無く,さらに市内電話網に競争環境が導入されていることから,ADSLが自然に普及し,高速な定額サービスが当たり前のように利用されている。このことは2年間で爆発的にインターネットを普及させた大きな要因としてあげられる。現在では利用者数も1200万人を越えており,絶対数では日本より少ないが,人口4500万人の国なので30%弱の普及率となっており,普及率では日本を越えている。国をあげてのベンチャー施策の影響もあり,コスダックという株式市場ではすでに500社を越える企業が上場しており,個人投資家ブームも起きているが,投資家の半分はすでにオンライントレーディングを利用しているという状況でもある。
また韓国は日本と異なり,プレイステーションに代表されるゲーム機がほとんど普及していない。そのため,流行しているゲームはほとんどが「スタークラフト」などのPCゲームであるが,その利用場所が凄い。ADSLのおかげでインターネット使い放題のPCを利用できる「PCルーム」という日本ではインターネットカフェのようなところがなんと全国で1万5千店にもなっており,そここそが主戦場である。子供達は学校の帰りなどに,友達とPCルームでオンラインゲームに熱中し,さらに驚くべきことはこうしたオンラインゲームは種類毎に地域別,年齢別にランキングされており,優秀なゲーマーはプロとしてスポンサーが付いてTVに出演したり,イベントに出たり,推薦で大学に入学できたりする状況があり,そうしたプロチームは次々と増えている。まさにゲーマーが親を養い,キャリアアップの道であるのも驚きである。
ネットが生活スタイルを変え,財閥中心からベンチャー主導への産業構造の転換を促した,要因としてはIMFの影響も大きい。1998年頭頃は韓国経済は最悪の状態に陥り,大手の銀行,財閥も倒産が続出した。失業者も増え,韓国にとって,構造改革はするものではなく,他に選択肢はなかったと言える。このことが,IT産業を育成していくことと,ベンチャーが新しい雇用を創出していく社会へと見事なまでに変身させた。日本は金融危機を乗り切りはしたが,痛みも制限したので,その分ドラスティックな社会変革は中途半端に終わったと言えるだろう。国家主導でIT化を進めたマレーシアなども必ずしも成功している状況ではないが,国家の危機の結果としてサイバーコリアが誕生したのも興味深い。もちろんあまりにも一度にインターネットブームとベンチャーブームが到来している,急すぎる変化の危うさも多数存在するが,ベンチャー企業も選別淘汰されるだけの絶対数が存在するところは日本とも異なる。社会がサイバー化していくモデルは多様であり,米国の道だけではないことを改めて感じた訪韓であった。