藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2002年11月28日木曜日

靜から動へ,ユビキタス時代のダイナミックマーケティング

(2002年11月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました) 

 ITの活用がマーケティングに大きな影響を与えていることは今さら言うまでも無く、ダイレクトマーケティング、CRM(顧客情報管理)、One-To-Oneなど、よりきめ細かいマーケティングへとマーケティングのコンセプトも次々進化している。筆者はこうした一連の動きとユビキタス時代のテクノロジーが,マーケティング自体を従来の対象を『静的』にとらえるアプローチから『動的』に捉えるアプローチへと大きく転換する時期に来ていると感じており、『ダイナミックマーケティング = 連続的な時間・場所変移におけるビジネスパラメーターの変化に着目し、新たなビジネス機会を発見すること』と定義してみた。
(すみません、この部分「から」が重なっているうえ、文章が長いためわかりにくくなっています。この部分少し手直ししていただけないでしょうか。とくに、「ユビキタス時代のテクノロジーから」の部分が具体的に何を指しているのかがわかりにくいのですが。)

 これまでのマーケティングの世界では顧客は極めて静的な存在でしかとらえられなかった。例えば男性、35歳、,東京在住、コンサルタントなどというデモグラフィックと呼ばれる属性で、その人のライフスタイルや興味などを予測し、広告や販促活動などを行ってきているが、その場合はこの人物を平均化したひとつの人物像、もしくは会社人と家庭人という2つの人物としてとらえることが多かった。しかし人間というものは実際には周囲の状況の変化で金銭感覚や欲望の大きさなど消費に関わるパラメーターも変わる生き物である。ランチ時の定食で800円と1200円があればもの1200円はすごく高く感じるわけであるが、夜の居酒屋で400円の差はほとんど気にしないで払ってしまう。これは同じ人間でも昼と夜で金銭感覚が大きく変わることを意味している。また、自宅のPC300円の音楽のダウンロードの躊躇している20歳の大学生が自動車で助手席に気になる女の子を乗せている時に、『○○の曲聴きたい!』とリクエストされたとしたら、そのままネットに接続されたカーオディオで1800円でも迷わず購入することだろう。旅行の行きと帰りでも同じ電車に乗っていても気持ちはまったく違う。
 このように人間のニーズの変化は状況に応じて極めて動的に変化するものであり,ニーズの発生する瞬間や,その変化の推移をとらえることが極めて重要である。例えば車や人がどの方面にどのくらいの速度で移動しているかによって、どの方面に向かっているかがわかることでビジネスが変わる。ロードサイドのファミレスからすると店に向かっているポテンシャル顧客が把握できるということになる。すでにオムロンは自動改札機を通過する際に定期券のデータを読み込み、携帯電話にタウン情報をメールで配信するという『グーパス』というサービスを行っている。朝と夜では当然ニーズも違うし,通過した駅によって必要な情報も変化する。グーパスは駅を通過するというタイミングを適切にとらえることで新しいマーケティングサービスを提供しようとしている。すでにサンプル配布やクーポン利用などで効果があがっているという。

 このように生活者側のニーズの変化だけでなく,事業者側にもニーズが連続的に変化するシーンは多い。(すみません、何のニーズでしょう?)町中の飲食店の座席や大量に用意した作りたての食品など商品の供給ニーズ(消費者ニーズとは違うのですか?)もまた動的に変化しているものである。こうした時間と場所に規定された多くの在庫(具体的に何を指しているかがわかりにくいのですが)は街中にあふれている。例えば映画館のマネジャーはがらがらの客席をただ悔しい思いをして眺めるしかできていなかった。しかし、移動している映画ファンの中には確実に自分の映画館に近づいている人もいるのである。客席の稼働状況と価格をダイナミックに変化させ、例えばがらがらの映画は開演30分前から半額にすることなどが可能になれば、今までの無駄な空席はまるで航空機やホテルのごとく、,埋めていくことが可能になるのである。

 もちろんこうしたマーケティングの世界はプライバシーの問題をさらに難しくしていくことにもなるため,一方では新しいタイプの個人情報に対する考え方も必要になるであろう。 かつてデジタルと言えば01の世界であり、アナログが極めて動的な変化をとらえる技術であったが、近年のデジタル技術の革新が音楽や映像などのアナログ情報をほぼデジタル化できているごとく、マーケティングの世界も同様に極めてアナログ的であったものが、デジタル情報として補足できる。人々や物の動きの変化や状況の変化情報は位置情報や ICチップなどで詳細にとらえられるようになってきており、人々が品物を手にとってから、ためらって棚に戻す行為までデジタル情報として補足することが可能になっており,これまでの結果データのみならずダイナミックな過程データまで補足することが可能になっている。
 このことが欲望の高まりという極めてアナログ的な現象を販売や価格の変動とマッチングする世界へいよいよ近づこうとしている。ユビキタス時代のマーケッターはますます見えてくるものが増えることで,やりがいに満ちあふれ嫌というぐらいの仕事が待っていることだろう。