藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2004年12月10日金曜日

高まるブログ系コンテンツのマーケティングに対する影響力 −関心空間調査結果から-

(2004年12月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

日本でもSNSやブログが急速に普及している。もちろん書き込む人も増えている(三日坊主の数も膨大であるが)が,ブログを読む人の数が増えているのが興味深い。先頃の野球関連ではライブドアの堀江社長のブログサイトはもの凄いアクセスになった。YahooGoogleの検索エンジンを利用する人が増加した中で,ブログが上位にヒットすることが増え,知らず知らずのうちに閲覧するようになった人も多いだろう。こうした傾向は生活者が情報を収集する際に,企業HPやポータル系が提供しているコンテンツとは別にブログ系の個人が発信する様々なコンテンツが大きな影響力を持ってきていることが類推される。筆者らは先日「関心空間(http://www.kanshin.com/)」というブログ系のサイトを利用して一般のインターネット利用者とブログ系サイトを利用する人の比較調査を行った(20047-8月実施ユニークID社,電通総研,D4DRの3社共同調査)その結果を引用しながら考察してみたい。

一般インターネット利用者と関心空間ユーザーの違い
まず一般インターネット利用者と関心空間ユーザーの違いは大きく以下のようなものが見受けられた。
ブログ系利用者は一般的に言われるヘビーユーザーの傾向があり,一日の利用時間,インターネット利用歴の長さ,掲示板など書き込み系の利用などは関心空間ユーザーの方が高い数値が出た。
関心空間ユーザーは商品を購入する時に友人や知人のおしゃべりやメール,インターネット上の書き込み情報を信じる割合が高い。
一方でインターネット上のメーカーのHP,テレビや雑誌からの情報については大きな違いは見られない。
その傾向として日用品よりも車や家電など耐久消費財になるほど傾向が強くなる。
インターネット上の書き込み情報に対する信頼性は関心空間ユーザーは自己判断能力があると考えており,一般ネットユーザーの方が情報の内容に対する警戒度が高い。
関心空間ユーザーの方が情報感度やイノベーター度は高い。
関心空間ユーザーの方がややラジオを聞いている傾向がある。

関心空間ユーザーの特性
関心空間ユーザーの利用目的としては「自分の興味と人の興味がつながるが」ほぼ6割(ただしこの機能はブログのトラックバックよりも強化されており,関心空間固有の機能)でトップ。以下読み物として面白い,常に新しい情報にふれていたいが5割,暇つぶしや調べたい,自己表現などの利用目的は2割から3割ぐらいであり,コンテンツとしての価値が非常に高く評価されていることがうかがえる。
また関心空間を利用して実際に購入した商品であるが,利用者の半数近くが書籍やCDの購入で参考にしている。その他多くの商品の購買行動に大きな影響を与えるようになっている。

図表 関心空間の利用目的




図表 関心空間を参考にして購入した商品・サービス



















利用者のセグメント化
次にインターネット利用者,関心空間ユーザーそれぞれを以下の4つに分類して分析した。
Seg1:ブログなどは利用しないがインターネットを長時間利用する人
Seg2:ブログなどの操作系機能を多く利用し、かつインターネット利用時間も長いユーザー
Seg3ブログなどを利用せず、インターネット利用時間も短いユーザー
Seg4:ブログなど操作系機能を利用するが、インターネット利用時間がそれほど長くない人

分析の結果一般のインターネットユーザーはseg2のユーザー以外現段階ではそれほどインターネット上の書き込み情報を信頼していないことがわかった。自己判断能力など情報リテラシーの問題もあるのかも知れないが,メーカーのHPの情報を信頼するという値は高いので,ブログ系の情報の購買への影響度は特定セグメントにとどまっている状況が伺える。しかし,一方リアルな口コミなどで影響力を持つseg2のユーザーはブログ系の情報が購買に大きな影響を与え始めているので,seg2ユーザーが間接的にブログ系の情報をseg1seg3などのマスの生活者に影響を与えることが予想される。seg2seg4などブログ系の情報を活用する層とseg1seg3のそれ以外の層でマス広告の影響力や購買行動に大きな違いが生まれはじめていることが伺えるため,企業のマーケティング戦略もしばらくの間,2つの展開をしていく必要も出てくることも予想される。

○インターネット上の知識流通が変える企業マーケティング
現在関心空間におけるアフリエイトやキーワード広告の利用は急速に拡大しており,消費行動への影響は定量的にも把握されはじめている。従来コミュニティや口コミなどと言われ,捕捉不可能だった生活者の発信する情報の影響力はブログの普及などで目に見えるものになってきており,一方で情報発信をした個人にお金が還元される仕組みも普及が進み,こうした動きを加速させるビジネスのメカニズムも生まれ始めている。ブログ系コンテンツの拡大はこれまで広告宣伝と呼ばれていた世界を本質的な「知識流通ビジネス」の世界へ変貌させる最初の一歩になる可能性も秘めているのかも知れない。


※本調査についての問い合わせは筆者(fujimoto@d4dr.jp)まで

2004年10月27日水曜日

ITサービスの行方 情報システム部門とSIベンダーの失われた15年

(2004年10月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

デジタル家電を含めてIT分野の景気はITバブルから完全に立ち直ったように見えている。しかしITサービス会社の業績は依然として伸び悩んでいるのが実状である。ある調査では業績が回復した企業でも,IT投資はこれまでと同程度と回答している企業も多く,これまで景気がよければ必ず伸びてきたIT投資の神話は崩れ,その投資の質は大きく変化してきている。これまでのようにITサービス会社に仕事が山のように飛び込んでくる状況にはなく,そこにはITビジネスの中核にいるはずの情報システム部門とSIベンダーに大きな構造変化が起きていることが見えてくる。それを語るためにもまずこの15年の激動の歴史を振り返る必要もあるだろう。

○それはダウンサイジングの嵐から始まった
思えば90年代に入ってから情報システム部門の担当者はもの凄い波の中で忙殺され続けてきた。それまでのホスト至上主義からオープン化,ダウンサイジングのかけ声でまるで魔女狩りのようにホスト追放運動が始まるとUNIXWindowsでのシステムが次々と導入され,これまでと180度異なる技術とカルチャーを体験することになる。さらに,「一人一台PC!」「SIS(戦略情報システム)!」などのかけ声のもとで情報系と呼ばれる投資対効果が見えにくいアプリケーションを次から次へと作ることになる。そうかと思うとEUC(エンドユーザーコンピューティング)という言葉が流行るようになり,「現場で簡単にアプリケーションを作れるようになったから情報システム部門は重要なものだけでよいよ」と言われ,やっと楽になると思いきや,「ごめんやはり幻想で無理だった」とまた仕事がわんさか戻ってくることになった。そんな状況でインターネットが登場し,さらに事態は混迷の一途をたどる。その横ではCRMERPだと脅迫状のような企画書が各ベンダーから山のように届く。経営者もITという言葉を知らない振りはできないため,形だけのCIOなどが任命され,上からのプレッシャーと投資対効果に対する説明を求める声も強くなる一方となる。しかし気が付けば,オープン化で全部を知る人はいないぐらいに複雑化した社内の情報システムは,膨大な数のアプリケーションと端末のカオスになっており,効率化されたはずの業務の横で管理や運用コストが増大し,TCOはますます悪化することとなった。おまけに2000年問題では作った人は誰も残っていない亡霊システムのせいで年末年始を失うことになり,コンピュータウイルスなどという甚だ迷惑千万なものが次々と蔓延し対応に大わらわ,顧客情報が漏れると真っ先にシステム部門が犯人扱いされる始末。。。
こうした激動の時代を経て今ふと見渡せばCOBOLからXMLまでスキルも知識もそこそこ身に付いており,社内もとりあえずは事足りるだけのシステムはそろっている。社員のリテラシーも向上し,使いこなしている業務や利用されていない業務なども大分見えてきた。ベンダーの提案書のいい加減さがよく見えるようになってきた今日この頃であることに気が付く。

SIは先端分野?
一方SI会社も立ち止まる余裕はなかった。大型ホストのハードウェアのもの凄い利益率のおまけでソフトを売ったり,作ったりしていたかわいい時代が終わった途端に,お金になるのはよかったけど巨大なアプリケーションを山のように作らなければいけない時代が来た。しかも,利用する技術も日々変化する。当然人材は慢性的に不足し,教育もマネジメントもまともに整備できない中で,どんどん人を集め,気休めの研修の後は右も左もわからない人もすぐ現場。現場は現場でクライアントの担当者は知識もなくよくわかっていない。契約先のシステム子会社の責任者は出向の人でクライアントにこびへつらうためMTGするたびに仕様変更なんかもよく発生。その下のSI会社の下に孫請け,ひ孫請け,何重にも契約された会社からモチベーションの低い人が頭数だけ揃えられている。そんな状況で何度も奇跡的にシステムは作られていった。当然あとからトラブル発生は日常茶飯事。動かないコンピュータの記事にのらないかひやひやの日々。ドキュメント整備も適当でノウハウも完全に人の頭の中で人から人へと職人のように伝えられていくのが伝統。しかしビジョンも戦略も無い組織に定着する人も少なく,育った人材はすぐ転職していく。最先端の業界のはずが中身はほとんど古い体質のゼネコンと同じなのが実態であった。しかし,金融業界の再編に伴うシステム統合も一段落し,大型案件が減る中で,ERPは外資の得意分野で,流通業界のPOSECやイントラネット,ナレッジマネジメントなどの分野では新しいベンチャーが台頭し,インドや中国でのオフショア開発が難しいという神話も崩壊するなど,仕事の多さの中で見えていなかったものが見えるようになってきて,気が付けば環境は厳しいものになっている今日この頃。

○開発至上主義の終演
このようにこの15年ほどはそろばん・電卓と台帳しかなかった日本企業の机の上にコンピュータを次々と導入し,人間が行っていた業務をどんどんシステム化するという情報化を,適用技術がコロコロ変わりながら行ってきた激動の時代であった。
しかし,もはや「技術が進化した」という脅迫は通用しなくなり,冷静に判断,見極めができる企業側にとって,情報システムは開発するものから,運用・活用を最適化する段階に入っている。そして膨大な人と時間をかけることが当たり前のようであった開発についても,Javaの普及などで長年の果たせぬ夢かと思われたソフトウェアのコンポーネント化・部品化が現実のものになりつつあり,従来3ヶ月かかるアプリケーション開発を15日で実現できるという先進的なベンチャーも登場してきており,生産性が劇的に向上しつつある。
ある意味従来の仕様書作成とプログラミング,テストというところにとられていた膨大な開発人員はどんどん不要になりつつあり,SEやプログラマーに求められるものも大きく変わって来ている。SEITの知識だけでは意味がなく業務知識があることが前提になり,プログラマーは短期間でプロトタイプを作るこ役割へのウェイトが高まるだろう。また従来技術でも十分な中で新しい技術を適用することが必ずしも適切とは限らない中では新しい技術を適切に評価することができる技術アナリストの役割も高まり,作ることより運用の重要性が高まる中ではシステム全体の運用後の総合評価を行う評価コンサルタントも重要になる。かつてソフトの規模が小さかった頃スーパープログラマーは自分の求めるソフトを頭で描き,それをたちまちアプリケーション化することができた。気に入らなければすぐに修正し,どんどん最適化することができた。しかし,いつからか規模が大きくなる中で分業化が進み,誰も全体像が見えないシステムとなり,修正にも時間がかかり,最適化も難しくなっていった。しかし例えば高度な金融商品の世界ではディーラーとクォンツアナリストとシステムエンジニアの3人がセットでアプリケーションを常に最適化する作業を行っていたりする。これはあたかも現在自動車製造の現場でもかつてのベルトコンベアは減り,セル生産方式という少数ユニットでの組み立てが主流になりつつある構図に似ている。規模が大きくなり分業化が進めば進ほど,全体を理解するものはいなくなり,細かいニーズの素早い変化には対応できなくなる。
今日ようやく高度に部品化されたソフトウェアの組み立てでアプリケーションが作れるようになることで,日々変化する業務にシステムを常にリアルタイムで最適化するようアプローチが可能になる。作ることが大変だから重要に見えていただけであり,活用することが本当に重要であることがようやく見えるようになってきたと言えるだろう。

コアコンピタンスとアウトソーシング
このように開発がもの凄く大変な時代は人を集めるのも,膨大な知識を集めることも自社では不可能に思えて当然である。結果としてアウトソーシングというシステムの開発,運用(設計までも!)全部まる投げするという発想も生まれた。しかし,開発の効率化が進み,ユビキタス環境も進展する中で,ビジネスプロセスそのものが次々とネットワークの中で提供されるようになるとITと業務の境界線は非常にあいまいになる。米国では今年の春にJPモルガン・チェースという銀行がIBMと結んでいた7年間総額50億ドルと呼ばれるアウトソーシング契約を解除した。この最大の理由はIBMのサービスに問題があるわけではなく,データを処理して,管理する行為そのものが今や銀行業そのものであり,「自社の長期的な成長や成功、そして株主のためには、社内技術インフラは自分たちで管理するのが最適だと考えている。」というコメントから見られるようにITは銀行のコアコンピタンスそのものであるという認識に至ったからである。日本でも大手のSI会社のCSKは証券会社を買収したが,その理由は証券会社は情報処理業そのものであり,今後証券業務のITを提案していくのに,業務そのものを知っていることが何よりも重要と考えるからであると幹部が語っている。Eビジネスが進み,オンライントレードやオンライン販売を始め,多くのビジネスがITの上で実現される今日では,ITだからアウトソーシングするという発想は減っていくだろう。むしろコアコンピタンスがITになっていけばITを本業とする会社が増えることになる。それはオンライン証券会社がITに関わる業務を丸投げすると本体に一体何が残るのだろう?と考えいただければ理解も早いだろう。

ITサービスの行方
コンピュータが登場した頃はハードと共通の処理の価値が強く大変高く貴重なものであった。そこでコンピュータを自社で導入できない企業は電話回線を経由して,時間で処理を買って利用していた時代がある。ある意味では必要な時だけ処理量に応じた費用を払っており非常にわかりやすい時代であった。ITサービスはこうした時代に戻る可能性も秘めている。現在BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)が注目されているが,企業はコアコンピタンスに特化し,後は必要な業務を必要な時にITを利用して容易に調達することが可能になろうとしている。ITバブルの頃は一度ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)が注目されたが,ブロードバンドの普及,ユビキタス化の進展,ソフトウェアの部品化,Webサービスの実用化などで再度リアリティは急激に高まっている。そうした背景からシステム開発という巨大な重しを捨てたITサービス業界は以下の4つの企業タイプに分化していくと推測できる。

1. 部品提供企業・・・アプリケーションに必要な部品群をそろえ,提供していく企業
2. ASP/BPO・・・・部品を組み合わせ,アプリケーションや業務をサービスとして企業に対して提供していく企業
3. プラットフォーム・・・異なる企業間や顧客間などが行う様々なコミュニケーションを仲介し,処理するプラットフォームを提供する企業
4. BTプロバイダー・・・企業が抱えるビジネス上の課題に対してトータルなソリューションを提供する企業


BT(ビジネステクノロジー)IT(インフォメーションテクノロジー:情報技術)に加えてFT(フィナンシャルテクノロジー:金融技術)とMT(マネジメントテクノロジー:経営技術)を加えたビジネス推進上必要不可欠な技術で,これまでITサービス企業がみな標榜していた「ソリューションカンパニー」の真の姿である。企業側が求めているのはもはやITではなくBTによるソリューションである。多くの大手SI会社はコンサルティング機能を内包することで少しずつ近づいてはいるのであろうが,実現できなければ2や3に特化した業態に転換する必要があるだろう。もっともITサービスの看板をおろし,高度化したユーザー企業の情報システム部門に人材を派遣する人材派遣ビジネスであれば,仕事がなくなることはないだろうが。

2004年7月28日水曜日

やっぱりeコマース?まだまだeコマース! -アントレプレナーにとって今こそ再認識すべきフィールド-

(2004年7月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)
ECは成長産業?
インターネットのビジネスを展開する上である意味最大の弱点は,その利用がどんなに盛り上がってもそれを世の中に実感させることが非常に困難なところであろう。どんなに大繁盛して急拡大しているネットショップでも,利用者がそれを実感することは現段階では難しい。一方,リアルな世界では街を歩いていれば,その店を利用するしないに関わらず,やたらに増えたシアトル系カフェを目にしたり,流行のデパ地下の買い物袋を下げている人を見たり,行列ができているラーメン屋を見ていればそれだけで伝わるものはある。しかしインターネット上ではどんなに繁盛しているお店があっても,扱っている商品や名前もURLも知らなければたどり着くのは難しく,ページを見てもそれだけではお客さんがたくさんいるのかどうかはわからない。
だからECが成長産業だと言われてもピンと来ない人の方がまだまだ多いだろう。しかし経産省などの調査結果では2003年は44300億円のB2C市場が存在し,前年から65%も増加しており,市場規模だけではカタログ通販市場を越える立派な成長産業である。しかし,それにも関わらずEC市場の実態は以前よりも見えにくくなっている。ITバブルの頃は様々な大企業のEC参入も話題になり,マスコミを賑わしていたが,最近はマスコミも楽天など一部の大手の派手な動きしか報道しない。ECの店舗を表彰する賞などもITバブルの崩壊で大手メディアのものは廃止され,草の根で行っているものがいくつか残っているような状況であり,成長マーケットにしては一時もてはやしすぎた反動のせいか,扱いは冷たいと言える。ドッグイヤーと言われるITビジネスの中で話題性や新鮮さもドッグイヤーな扱いなのであろう。

可視化と業態分けが必要なEC
さらに問題なのは実態を把握する統計データも非常に少ないところである。先ほどの経済産業省系の市場規模も推測データであり,これだけあらゆる動きがデジタル情報で存在しているにも関わらず,実は誰もその実態を正確に把握できていないというのも問題がある。確かにこれまでの産業のように監督官庁に護送船団方式で育成され,旧来のように業界団体を作ればすぐに統計データも整備されるが,自由競争の中で誰もが自由に創意工夫でやっているという意味でデータが把握しづらいということもあるだろう。しかし,各店舗の経営者からしてみると,自分のポジションが見えないのも辛い。例えばリアルな小売りでコンビニの店長さんであれば日販40万を売ればだいたい全国平均である。もちろん立地や店舗面積などで異なる部分はあるが80万も売ればかなりよい店舗ということになる。しかし一日300万売ろうとしたらコンビニという業態では難しく,スーパーなりもっと客単価が高い業態に変える必要がある。そうなると商圏も変わる。コンビニは半径300から400mの顧客をがっちり握るのが重要であるが,郊外型のGSMであれば商圏は数10Kmであり,隣の県からも車で買いに来る人はいるだろう。リアルな小売りの世界では自分の業態と立地で商圏が定まるため店長さんはだいたい自分達がどこを目指せばよいかがわかる。しかしECショップの店長さんは今の売上が自分の力として適正なのか,まだまだ足りないのか,実は大成功しているのか,自分がいくら売れば平均なのかもわからない。理論上はサイトをオープンした瞬間から全世界の人がアクセスしてくれるわけで,アマゾンコムと戦うぞ!という目標を立てたとしても確かに可能性は0%ではない。つまりそれはアマゾンコムと業態が同じだと認識しているところに問題があると言える。現実には売る商品や,仕入れ形態,利用しているシステム,マーケティングコストが異なれば当然,それに見合った「サイバー商圏」が存在するわけで,目には見えない商圏であるが,それを自ら設定する必要がある。現在の日本のECであれば月商で200万以下のマイクロショップ(だいたい全体の半数近くがこのぐらいのサイズ:インプレスのインターネット白書2004の調査結果より),200万から1000万の中規模ショップ(30-40%ぐらい),1000万から1億までの大規模ショップ(6-7%程度),月商1億以上のメガショップ(1%程度)などの段階で業態が異なると言えるだろう。マイクロショップは1人か2人で運営しているところが多く,楽天などの加盟店としてマーケティングコストもほとんどかけずに頑張っており,赤字の店舗も多い。リアルで言えば商店街のママパパストアの感じである。中規模ショップになればリピーターを大事にしながらもそれなりに新規の顧客を獲得していく必要があるので結構マーケティングも大変である。この段階からさらに商圏を拡大させるためにはそれなりに投資が必要なのでここを突破するのが一番難しい段階の壁と言えるだろう。大規模ショップになると複数のモールに出店して,広告費もそれなりにかけるようになり,顧客管理も重要になる。コンタクトセンターのようなものも必要になるだろう。そして,メガストアまで行くと大資本のブランドがすでに存在しているショップだったり,リアルでカタログやテレビ通販のビジネスを行っているプレーヤーのインターネットチャネルサイトなどであるので,設備含めて逆に既存のインフラを有効に使えるようになる。これらはまったく違うビジネスと言ってよく,コンビニと百貨店を同じに考えないように,ECの世界でもそろそろ別のものとして業態を分けて議論するようにするべきだろう。

○マイクロビジネスの集積としてのEC

2000年頃のインターネットブームが人々をけしかけた結果,多くのITベンチャーが死し累々になったのも事実であるが,一方で1万近いECショップが日本全国で多数生み出されたことは評価できるところではないだろうか。多くのECショップは事業規模がとても小さいマイクロビジネスであるが,今後日本の産業構造を考えた時に,多くの地方の駅前商店街が荒廃し,ロードサイドも大資本型のサービス業やFCなどに次々と置き換わり代わり映えのしない景色になっていく中で,新しい起業家精神の受け皿としてECというマイクロビジネスが生み出されたことの意味は大きい。多数の地方自治体もベンチャー育成を旗印にあげているが,急成長を求められるベンチャーはリスクの固まりであり,むしろ堅実なマイクロビジネスが多数出てくることもバランス的には重要なことである。中にはじり貧な家業を2代目がECとして業態転換しているような例も多く見られる。地域経済だけでなく,インターネットならではのモデルへの挑戦も立ち上げから数年を経て現実的なものとなってきている。産直モデルなども定着した感はあるが,フェアトレード運動(発展途上国の商品を適正な価格で取引する国際援助運動)などもECで展開されはじめており,こうした小さなマイクロビジネスが日本全国で多数集積されることで新しい産業としての固まりになっていく。そういう意味では集積を促した楽天などのモールの存在意義も大きかったのであろう。

期待される周辺ビジネスの登場
このように集積が進むとビジネスチャンスも広がる。これらのECショップを支援する新しい技術や周辺ビジネスも成り立つようになるからである。現在一番ホットなのはアフリエイトの仕組みである。ブログが流行していることもあり,お店のロイヤルカスタマーや,その商品分野のプチカリスマな人などに商品を薦めてもらい,そのまま販売代理をしてもらうモデルである。商品を購入した人の意見は購入を検討している人にも貴重な情報であるので,購入経験者の情報は価値になる。また販売代理をする人にとっても,自分の買い物自慢という自己表現ができた上でさらに,やり方次第で小銭稼ぎや本格的なビジネスにもなるので様々な販売代理のモデルや技術はこれからも登場するであろう。また今後必要なのは欲望を喚起する技術である。これまでのWebでの販売はある意味自動販売機のようなものであり,すでに欲しいという商品を決めている人にとっては便利なものであるが,まだまだデパ地下やウィンドウショッピングや,テレビショッピングのように思わず欲しくなってしまう仕掛けは弱い。タイムセールや,米国ではすでにチャットをしながら商品説明をするようなモデルなども少しずつ登場はしているが,インターネットならではのインタラクティブで臨場感のある技術の応用もっと期待される。同様にショッピングのエンターティメント性の追求もまだまだ足りていないだろう。米国で生まれたギャザリング(共同購買)も携帯のネットプライスなどで人気になっているが,買い物自体が楽しくゲーム感覚になる仕掛けもまだまだ開発の余地がある。ネットゲームとECの融合も興味深い分野であろう。

また消費者からのニーズとしては購買代理をしてくれるプレーヤーももっと出てきて欲しいところである。自分のことを理解してくれた上で,最適な商品や一番安い商品を探してくれたり,交渉してくれたり,安心感を与えてくれるなどの機能を果たしてくれれば,付加価値は高いはずである。現在のECではついつい生産者と消費者のダイレクトな感覚が新鮮でもあり,そちらが主流に見えてしまう部分もあるが,顧客ニーズとしては,インターネットだからこそ新しい価値のある中間サービス事業者が多数でてくることがさらに消費全体が活性化されると思われる。そういう意味では現在のショッピングモールというプラットフォームがそれらを用意するだけでなく,新しいプレーヤーがどんどんサービス化することが望ましい。楽天やYahooなどを見てしまうと,もはやモール主導でECはすでに寡占状態になっていると錯覚してしまう人も多いと思うが,彼らはプラットフォームビジネスのひとつの形態を提供しているだけであり,ECのモデルを全て握ってしまっているわけではない。まだまだ顧客の心をつかむ魅力的な店舗の参入チャンスは大きく,日本の起業家にとっては大きなフィールドであることは間違いない。リアルな世界で様々なカテゴリーキラーと呼ばれる新規参入者が既存のプレーヤーを脅かしたように,ECのビジネスはまだ赤ちゃんから子供になったばかりである。決して顧客ニーズが満たされているとは思えない現在のECではやるべきことはたくさんある。目の前に広がっている開拓されたばかりの市場が多くのアントレプレナーの挑戦を待っている。

2004年7月14日水曜日

コンテンツ産業的に見るプロ野球再生の考え方

(2004年7月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

ITベンチャーライブドアによる近鉄球団買収提案が話題になっている。ライブドアもITを活用した球団の立て直しを提案しているようでありプロ野球ビジネスに一石を投じている。人気が衰えているとはいえ日本のプロ野球は依然としてキラーコンテンツである。マスメディアの取り上げ方もJリーグよりはまだはるかに大きいし,選手の知名度も大きい。コンテンツとして捉えた時にはまだまだ大きな可能性を持っているだろう。発足当時の鉄道,新聞などの業種が中心的なスポンサーだった頃に作られたビジネスモデル(沿線開発やメディア販売の価値付け)の転換点に来ている現在,コンテンツビジネスの現在の潮流から見た再生の考え方を提案したい。

コンテンツとしての緻密な評価
プロ野球も昔は大映や東映など映画会社もオーナー会社であった時代があったようだが,ある意味そのころの方がコンテンツという意識があったのかも知れない。現在は興行として球場の入場者数とテレビの視聴率という指標でしかビジネス的には判断されていないのではと筆者は考える。もっとコンテンツとしての評価を多様に行うところから球団経営は始めるべきではないだろうか。ハリウッドの映画も現在はかなり細かい調査の上で作られている。どの場面がよかったのか?どの選手のどんなプレーに感動したのか?どこがつまらなかったのか?それはどんなターゲットのファンに響くのか?毎試合ごとにリサーチを行うべきである。ライブドアが提案しているようにブログのようなツールで選手や監督のコメントに対する反応からも貴重なデータはとれるであろう。現在はインターネットによりリサーチはとても簡単になっている。監督は面白い試合よりは勝つために集中しているのだろうから,この役目は球団経営幹部である。ファンが望む試合をするために球団の運営ビジョンを明確にし,それにのっとった監督や選手を集めプレーさせるべきである。面白くするための努力は球場での奇抜なイベントではない。緻密な分析の上での細かい改善努力を行いコンテンツとしての魅力の確認をまず行うべきであろう。

コンテンツファンド手法の適用
コンテンツビジネスの大きな動きはファイナンスの多様化である。リスクを分散化するためにも運営資金を特定の事業会社の広告宣伝費に依存するのも時代遅れではないだろうか。何よりもファンという人々が存在しているのであるから,そのファンに投資してもらうファンドを作ることも可能ではないだろうか。何よりもファンはチームの発展を願っており,利回り額よりもチームがよい試合をし,結果的に成績がよくなることが嬉しいはずである。成績があがれば放映権,球場収入,関連グッズの売上が大きくなり配当額も期待でき,投資のメリットも倍増する。さらに権利として無料招待や選手とのイベント参加,インターネットでのコミュニケーションなどがあれば,それだけで満足するファンもいるはずである。そうしたファンからのファンドで球団運営の一部をまかなうことで,一部のオーナーが個人の所有物であるかのごとく振る舞う行為も無くなるだろう。ファンから球団の運営資金を募る考え方はプロ野球には適しているはずである。何よりも投資していればファンなのについつい球場から足が遠のいているファンも球場へ行く回数は増えるはずである。投資家と事業者との関係が利回りのことだけ考えることで,現在の資本市場が忘れかけている投資の本質がここにはあり,金儲けだけ考えるディトレーダーではない,本当の意味での投資対象に共感を持ち,現在のIRのような片方向ではない,コミュニケーションを行う個人投資家を育てるための,とてもいい土台にプロ野球がなる可能性を秘めているとも言えないだろうか。

アジア市場へのキラーコンテンツ

現在のオーナー会社の新聞,鉄道は国内産業であり,日本市場を中心にしか見ていない。しかし今後の日本の産業構造からすれば現在のアニメやJ-POPのようにアジア市場での付加価値の高いブランディングができるコンテンツはとても重要にある。例えば韓国,中国,台湾などとのアジアリーグが可能になり,日本選手が活躍すればその価値はとても大きいものがある。例えばSHINJOがアジアのスターになり,中国で10人に1人が知っている選手になったとしたらその価値はとてつもないものだろう。そうなれば家電メーカーや食料品メーカーはこぞって日本球団のスポンサーになりたがるだろうし,プロ野球の価値は大きなものになる。すでに大リーグのアジア選手増加やサッカーのレアルマドリードなどの戦略はそうしたアジア市場を見据えてのものだと言われている。
何よりも東京ドームの中継が中国に衛星もしくはインターネット中継されるようになれば,そのスポンサー枠の魅力は現在の巨人戦の比ではない。


内向きに既得権益を守ろうとする現在のプロ野球の球団関係者の姿は,まさに護送船団方式で来た多くの日本産業界そのものを見ているようである。現在の収益を守ることを考えていてもイノベーションは起きない。2倍,10倍にすることを発想した時,始めてイノベーションは起きる。プロ野球界に必要なのは,そうした外部の発想力に今こそ耳をかたむけることだろう。