藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2001年5月13日日曜日

インフラの次,日本企業競争力の鍵コミュニケーション&ナレッジテクノロジー

(2001年5月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

インターネットがコミュニケーションに大革命を起こしていることは間違い無く,現在のブロードバンド&ユビキタスの流れにより,より一層「いつでもどこでもより広帯域で」という世界に向かっている。しかし,私が電子メールを使うようになってもう13年も経つがメールの使い方はそれほど進歩していない気がする。確かにPHSで外からでもアクセスできるようになったこと。携帯でも使えるようになったこと。メールソフトのフィルタの機能は強化されたので,整理だけはしやすくなったという進化は見られる。しかし一方でこの13年間でメールをやりとりする相手だけは劇的に増加し,日々メールの数も150通近くになっており,日々メールを読み,返事を返すことだけでも大変な状況である。
恐らくこの現象は私に限らず,同じような状況になっている人はとても多いのではないかと思う。特に経営者や管理職などはCc(カーボンコピー)の対象になりやすいので,必ずしも読む必要の無いメールも容赦なくどんどんやってくる。
確かに電子メールがなかったら,今頃どんな風に仕事をしていたのだろうと考えるととても恐ろしいが,端末とスピード以外の知識情報処理という意味でITがコミュニケーションを高度化する技術なのであれば10年間で「フィルタ」程度の進化しかしていないことがとても悲しくなる。
またコミュニケーションという意味でもメールのコミュニケーションルールが定まっていないことによる問題も多数起きている。メールやBBSでは議論が混乱し,感情的になり喧嘩しやすい,揚げ足取りになりやすいなどの問題が指摘されている。またメールだと個人が簡単に質問やクレームを大きい組織などに対して言えるので,企業などではこれまでよりも対応にコストがかかって困るため,メールアドレスは乗せたくないという本音を持っているところもある。電話ならお話中だったり,業務時間が設定できるためコストが読めるが,メールに対し,真摯に全部対応するのはコスト増の点から見ても確かに悩みが深いところである。
 これまでのコンピュータ技術は定型プロセスの処理という意味では劇的な生産性の向上を実現していると思うが,このように知識情報処理とコミュニケーションの高度化を扱う技術という意味ではまだまだ未成熟であり,インフラの整備が見えてきた状況の中で今後早急に取り組むべき次の重要テーマであると思われる。知識情報が社会やビジネスにおいて競争力や価値の源泉になることはもはや誰も疑いの無い状況になってきる現状で,いかに知識情報を集約し,付加価値を高めるか,コミュニケーションを効率化し,生産性と豊かさを向上できるかは,日本社会と日本企業の競争力という意味でもとても重要である。もはや低コストの生産は本格的に中国などに移転が進んでいる状況の中で,製造業が競争力を維持するためにも,かつて工場で行われていた,QC活動など生産性向上への多くの努力は,今や企画,戦略立案,営業,マーケティングなどホワイトカラーと顧客を巻き込んだ現場において「ナレッジ」と「コミュニケーション」を「技術」として取り組む必要がある。すでに企業によってはグループウェアなどを導入し,「ナレッジマネジメント」という形で取り組む企業も増えているが,まだまだ情報のデータベース化にとどまっている部分が多い。現在様々な研究が行われているが,例えばメールをXML対応にしていくことで,現在のアドレス以外に所属と目的についての基本情報を含めさせることが可能になり,それだけでも世界中のメール処理の生産性は劇的に高まると考えられる。また,エージェント技術による一定のルールの元で自動的に売買をしてくれるようなコミュニケーションそのものの自動処理の研究も進んでいる。もちろん我々は日本語という言語処理の問題を含む要素も確かに多いが,24時間という限られた時間の中で,世界中でも高い賃金水準を維持していくためにも,是非とも取り組まなければならない重要なテーマであると考えている。