藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2000年4月4日火曜日

ECと物づくり

(2000年4月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)

米国に「mobshop」というサイトがある。旧Accompany .comと言った方がわかる人もいるかもしれないが,このサイトのユニークなところは,大口注文同士を仲介するという仕組みであり,注文する人数が増えれば増えるほど価格がどんどん安くなる仕組みになっている。例えばあるデジタルカメラを最初は$899からスタートして,25人までは$689.95で販売し,200人までは$679.95で販売する。最終的に500人以上集まるとなんと$649.95まで値下げするという仕組みだ。メーカーは当然のことながら大量生産,大量販売を前提にしているので,大口で掃けることがとても嬉しい。利用者も安ければ嬉しいため,この双方の望みをマッチングしてあげようという仕組みであり,メーカーも喜ぶし,利用者もHappyになるという,まさにWin-Winのモデルである。元々日本でも生活協同組合などもこうした発想でサービスをしているが,双方のニーズをリアルタイムでマッチングする方法がなかった。しかし,インターネットの登場がこうしたことを可能にしており,このサイトでも購入希望者が少しでも安くするために,インターネットを利用して仲間を集めたりしているらしく,ネットの恩恵を受けたサービスと言えるだろう。私がこのサービスを紹介したのは,この仕組みがECの本来の魅力を産み出す可能性を示唆していると考えているからである。
現在のECはマスプロダクトとして産み出した商品をリアルな流通で売るよりもネットを活用することで低コストでかつスピーディーでニーズ見合ったものが入手できることを競っているが,本来ECはメーカーとダイレクトに結ばれるので,「欲しい商品を欲しがる人々に作る」という物づくりの原点に戻ることができる。
例えば,これまでマンションのような高額商品はリスクも大きいため,冒険しにくかった。メーカーは立地に合わせて手頃な価格と手ごろな間取りを想定し,購入者もだいたい周辺を比較してこんなものかと購入する。しかし,これは両者の妥協の産物であり,先ほどのWin-Winの関係からはほど遠い。しかしもし,「ペットが好きで一緒に共同生活したいと思っているコミュニティ」がいたとして,彼らがネットでコミュニティを構築し,入居を予約したとしたら,メーカーも安心して,彼らのために様々な工夫を凝らすことだろう。ペットと戯れるための中庭を配置したり,壁には脱臭剤を入れたりなど,仮に価格が多少高くなろうと満足度は非常に高いものになると考えられる。もちろん,完全なインターネットを利用して個別対応する仕組みは現在でも多く存在するが,大量生産できなかったり,高価格になるなど双方割に合わない場合が多いが,あるコミュニティなどのまとまりが存在することによって,メーカーもスケールメリットを出せることになり,利用者側も手頃な価格で購入できることになる。左利きの人向けのインターフェイス,日本在住のアラビア語圏人向けカレンダー,工事現場で使うノートパソコンなど,最大公約数にはかからないが,ニーズが確実に存在することが予想される商品はたくさん想定できる。これらがコミュニティとしてネット上で存在した時にこれまでは冒険であった物づくりが,感謝に変わる瞬間がECによって実現されるのではないだろうか。

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