藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2001年6月26日火曜日

求められているプレーヤー「ニューミドルマン」

(2001年6月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

e-マーケットプレイスも思ったより利用が少ないという声を耳にする。売り手と買い手が直接コミュニケーションできる市場の登場は多くの企業が従来の枠組みを越えて取引をすることを可能にし、かつコストの削減効果も期待されていたが、現実は既存の商慣習と比較した時にまだまだ大きなメリットを多数の参加者に提示できないでいるサイトが多い。もちろん過渡期であるからという見方も多いが筆者は異なる見方をしている。例えばどんなに証券取引が便利になっても、直接発行する企業と機関投資家がダイレクトに行う取引が中心の状況にはなりにくいだろうし、個人投資家の場合はなおさらである。株式の取引の場合はむしろECN(電子証券取引ネットワーク)などで既存の証券取引所を飛ばして、証券会社同士がネットワーク上で直接の取引を行う動きなどが起きている。
ここで重要なのはマッチングする市場も重要であるが、むしろ取引を活性化するためには企業側の立場で考える証券会社と、投資家の立場で考える証券会社(同一の場合も多いが)が競争し、それぞれの利益のために一生懸命努力しているところにあると思われる。すでに既存の証券取引所は電子市場と比較した時に付加価値を生んでいなければいらない存在になるところまで来ており、再編や上場して体力をつけるなどの動きが活発である。つまり、証券市場においては購買代理と販売代理という立場でエージェントとして付加価値をつけるプレーヤーが存在していることが重要であり、彼らこそが市場を活性化させていると言える。確かに流通分野においては、在庫調整や、為替業務の代行などで付加価値をとっていた事業者の価値が低くなっており、中間業者の排除が叫ばれているところもあるが、情報流を仲介し、付加価値をつけていく事業者はむしろ市場を形成するためには必要であると考える。そのため、e-マーケットプレイスは購買と販売のそれぞれの立場にたった付加価値サービスを強化するか、そうしたサービスを提供する事業者を参加させていくことで活性化が期待される。例えば複数の企業の購買担当者のニーズを集めて要求を出すエージェントと、部品メーカーの稼働状況と生産能力を理解しているエージェントがマッチングと交渉を行うことで、品質のよい部品が低コストで生産されるような状況が生まれる可能性がある。こうしたエージェントは情報の付加価値で手数料などのビジネスを行うことが予想される。

これはコンシューマの市場でも言える。今まで入手できなかった商品を探すことが容易になったり、安く入手できたり、個人でも簡単にオークションを楽しめるようになったというようなECのメリットは確かに存在するが、普通の個人がネットサーフィンをしながら見つけていくのは時間もかかるし、なかなか大変になってきているのも事実である(例えば楽天で自分好みの海洋深層水探すのは結構大変です。)。コレクターやマニアであっても、Yahoo!やビッダーズや楽天などのオークションサイトで常に自分の好みの出物がでているかどうかチェックし続けるのは至難の業である。
 ここでもし、自分を理解し、自分の代わりにマーケットに対して常にアクセスしてくれるプレーヤーがいればそれはとても嬉しい。つまり買いたい人のニーズをよく理解し、購買代理になってくれるプレーヤーである。そういう意味ではkakaku.comなどは価格という情報流における購買代理業と言えるだろう。一方販売代理のニーズもある。商品に自信があっても、ブランドを持っていない企業が自前で店舗を出すよりも、購入してくれる人を探してくれる販売代理を利用できるのであればニーズはあるだろう。
 こうした新しい中間業者「ニューミドルマン」の存在は市場の取引を活発にするだけではなく、スケールメリットを活かしたバイイングパワーを持つことで低コストでの調達が可能になるなど、最終的に消費者が享受できるメリットが多い場合もあるだろう。

 現在成功していると言われるEビジネスの中には強力なブランドを持っている企業が多い。DELL、ユニクロやソニースタイルなどはブランドそのものが顧客のコミュニティを形成し、購買ニーズから販売、製造までが一環して、単独のバリューチェーンの中に存在する。こうした企業にとっては比較されるような市場そのものは必要なく、自社ブランドの価値向上が進めばECは自社単独で取り組める。しかし、そうした強力なブランドを構築できない企業にとっては、適正な市場が必要であり、そこで交換されることが重要である。そのことで多くの企業がインターネット上のWebサイトの宣伝に膨大なコストをかける必要がなくなるなど、自社のコアコンピタンスに注力していくことができると思われる。今後eビジネスのプレーヤーとして求められているのは知識情報に価値を創るこうした新しいニューミドルマン達ではないだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿