藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2001年10月24日水曜日

眠れる獅子『地上波キー局』

(2001年10月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

 ようやくブロードバンド向けのコンテンツ流通ビジネスがかなり動き始めている。IT不況の中で世界的にパソコンも携帯もこけている中で,唯一激しい伸び方をしているのが,ブロードバンド系のサービス加入者である。当然各社も大きな期待をかけ,ビジネスチャンスをうかがっている。しかし,現実にはコンテンツサプライヤーも,サービス事業者も権利や課金,制作コスト,技術水準などの問題を抱え,悩み多き状況であるのも事実であり,様子見の状況になっている。
 もちろんインターネットの世界だけで閉じてみると,ブロードバンドは大きな可能性を見せてくれるし,ジョージギルダーが『テレビが消える日』で予言していた誰でもインターネットを利用して放送局になれるという世界が現実に近づいている気がしてくる。しかし,社会全体で見た時にはやはり放送というインフラのコスト効率はよく,人気歌手のライブを一定のクオリティで日本中に大量に配信するのには,やはり当分電波はとても適したインフラであるのも事実である。デジタルテレビとIPベースのネットワークをいかにうまく組み合わせていくかについては,世界的に仲が悪いと噂される放送技術業界とコンピュータ技術業界の歩み寄りがもっとあってもよいのではないかと思う。

 こうした中,放送の世界から見た時には,常時接続と広帯域というブロードバンド化でようやくインターネットが通信と放送の融合の第一歩を踏み出したと映るようである。米国のように3大ネットワークの地位が相対的に低下し,多チャンネル化の中で確実にシェアを奪い取ることができたAOLはすでにゴールデンタイムの視聴率でいくつかのテレビ局を上回っている。しかし,日本ではまだまだ地上波こそが圧倒的なキラーコンテンツであり,最大のポータルサイトとして君臨している。実際に日常の行動の中で,家に帰ってまっさきテレビをつける人は非常に多い。自分の部屋でも個人のテレビがある時代であり,パソコンを立ち上げてメールをチェックしながらもテレビがついているというシーンも多いことだろう。これまでテレビでインターネットが利用でき,テレビでショッピングをすることができるというような発想は多かったが,地上波キー局自体がポータルサイトとして登場するイメージは少なかった。しかし,近年多チャンネル化の危機意識の中で地上波各社はブランドロイヤリティ向上のために猛烈なプロモーションを展開しており,フジテレビや日本テレビの自社CMをみない時間は無いという状況である。こうした戦いの中で各社が地上波デジタルを迎え,BSデジタルをはるかに越える技術でインタラクティブなコミュニケーションを取り込もうとしている中では当然のように視聴者という顧客へのCRMを展開することになるだろう。例えばネットのポータルサイトとキー局がアライアンスを組むことができた場合。テレビをつけた瞬間に画面の上部と左にパーソナライズされたナビゲーションバーがでてきて,個人向けの情報やオークションを利用でき,真ん中でテレビ番組を放送しているという状況を実現することになるだろう。かつてWebTVのようにテレビというメディアにインターネット側のビジネスモデルで0からのアプローチはこれまでもあったが,改めて日本の巨大ビジネスのひとつである地上波キー局が従来の大きなビジネスの増強としてインターネットのビジネスを飲み込む姿の方がリアリティは高いのかもしれない。眠れるアナログポータルの雄がデジタルという武器を手に入れる日はもうすぐである。今後の通信と放送の融合の中で地上波の各局が持つポータル力とネットのポータル力との戦いになるだろう。Yahooのライバルはもはや日テレやフジなどなのかもしれない。またもうひとつの大ポータルNHKも現在は様々なしばりはあるが,この変革の中では無関係ではいられないであろう。NHKのコンテンツ課金モデルも通信放送融合の中では生活者のデジタルサービス関連支出のひとつにすぎなくなるのだから。

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