藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2004年3月1日月曜日

地域再生と知識社会のために必要な図書館再構築

(2004年3月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

地域再生と知識社会のために必要な図書館再構築

○制度疲労が進む図書館
図書館の制度披露の問題はここ何年も指摘されてきているが,地方自治体の財政難がますます顕著になる中でさらに問題は深まっている。追いつかない膨大な図書の収集,年々複雑に進歩するITへの対応の困難,そして一般に流通している有料書籍を無償で貸し出す仕組みに著作者,小売店からも疑問の声が増えている。貧しい時代はシビルミニマムの概念に入っていたかも知れないが,豊かになった現在では民業圧迫のひとつとしてやり玉にあがっている。現在の図書館法は昭和25年に作られたまま細かな改正しか行われていない状況である。もちろん図書館の職員の人々も解決策を模索はしているが,司書を中心とした制度の中では,民間人の登用は進まず,古い制度の中でもがいている感は否めない。

求められるビジネス図書館
そうした状況の中で,近年ビジネス図書館に対するニーズは高まっている。これまでビジネス図書館は専門図書館の一部として,企業内や特定業界の資料のアーカイブ的な側面が強かったが,ベンチャー起業家,SOHOの増加などからも公共図書館レベルでも強いニーズが顕在化している。米国などではNPOなども活用しながら,公共図書館でも様々なビジネス支援サービスが充実しており,図書館が起業の拠点となっている。日本の公共図書館の中でも先進的な取り組みで知られる浦安図書館でも10年ほど前からビジネス支援サービスを展開しており,評価は高い。しかし, ほとんどの公共図書館においてはまだビジネス支援に対する取り組みはほとんどされていないのが実情である。一方民間の図書館の中でもユニークな例が出てきている。筆者もメンバーになっているが,六本木ヒルズのアカデミーヒルズライブラリーは社会人向けスクールの学生の学習拠点と会員制の知の交流を促す知的スペースや会議室など施設を組み合わせたとした新しいスタイルの図書館を目指している。実際ベンチャーのスタートアップの拠点としても活用しており,筆者が見ているだけでも3社ぐらいはオフィス代わりに活動をしている。さらに弁護士からベンチャー経営者,ジャーナリストなど多様なメンバーが会員にいることから交流も自然発生的に生まれており,その中から新しいビジネスアイデアを生み出すような場が生まれつつあるところも期待できるところである。

地域のナレッジセンターとしての位置づけ

地域の産業メカニズムは危機的な状況におかれているところも多い。サービス産業のチャンスの多い大都市圏は別として中国などへの工場移転などから,雇用の創出力が衰えている地方都市などでは新しい成長産業の誘致や育成にやっきになっている。しかし,本来地域経済においては地域密着型のパン屋さん,工芸品,観光業などマイクロビジネスの積み重ねなく,ウルトラCの目玉を作ることは難しいはずである。しかし,現状は地元の人がそうしたマイクロビジネスを立ち上げようにも,地域に根ざした知識情報を集約されているところは少ない。県立や国立大学がその役割を果たしているところもあるが,街の飲食店のオーナーが観光客向けに新しいメニューを考えるための情報収集と交流拠点などは大学というよりは身近な拠点が欲しいはずである。筆者はそうしたニーズに答える拠点こそ今後の図書館のあり方だと考える。もちろん起業を促す箱物のインキュベーションセンターは各地に点在しているが,ITインフラと家賃が安いだけで箱だけというところが多く。活用されているところは少ない。今後知識社会に向けて日本国内で起業する多くの人々にとって何よりも必要なのは,箱ではなく,技術と文化に根ざした知識の取得と創発できる多面的なネットワークと資金を手に入れることである。そのために図書館はどこでも手に入るベストセラー小説を貸すよりは,地域に根ざした技術と文化,ライフスタイルに関する知識の確実な時系列での蓄積と,広く人的交流を提供できる運営体制に今すぐにでも方向転換するべきである。図書館の箱を作ることにPFIを導入したから民活だという地域もあるようであるが,作り方ではなく,本質的な図書館の役割から,民間やNPOの力を導入し,閉鎖的な運営体制の改革も行う時は来ていると考える。地域のITインフラの議論は終わったわけではないが,自律的な進展が期待できる段階に来た今後は,上流のレイヤーである知識サービスの充実こそがITも絡めた地域再生の本質的な切り札ではないだろうか。

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