藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2005年8月8日月曜日

注目されるインターネット上の口コミ(バイラルシェア) 可視化できるようになった口コミ(ブログのキーワード分析から)

(2005年8月日本経済新聞電子版の「ネット時評」に掲載されたコンテンツを編集しました)

ブログの利用が拡大を続けている。書き込んでいる人たちはまだ一般とは言えないかもしれないが,すでにヤフーやグーグルでブログの書き込み情報は上位に表示されているので,インターネット利用者の半数以上の人は何かしらブログのコンテンツを目にしている状況が生まれつつある。
ブログは掲示板やチャットなどと異なり,自分が思ったこと,感じたことを独白するパーソナルメディアである。そこで書かれていることは記入者自ら素直に感じたことが書かれている(一部にはアフリエイトで売るためのテクニックに走ったり,頼まれて書いている人も存在しているが)。これがデジタル情報でネットワーク上に存在していることが大きな意味を持つ。ITにより大量のデータを集めて自動的に処理できるため,マクロ的に捉えてみると従来のアンケートなどのリサーチと異なり,街中で友人達としゃべられている会話に近い情報がデジタル情報で収集できるようになったとも言える。ある意味都市上空から巨大な集音マイクで人々の声を拾い集めているようなものである。
実際それを具現化できる技術としてブログ専門の検索エンジンが多数登場し始めている。ライブドアやgoo,楽天などブログサービスを提供している大手ポータル系も軒並みサービスを開始しているが,これら自社サイトのブログ利用を広めるためだけでなく,検索エンジンだけでビジネスをしようとする動きも活発であり,海外ではBlogPulse(http://www.blogpulse.com/),国内でもテクノラティ(http://www.technorati.jp/home.html)などのサービスが今何がブログ上で話題なのか?などをランキングで提供することを始めている。またblogWatcherhttp://blogwatcher.pi.titech.ac.jp/)はブログ上のポジティブに語られているのかネガティブなのかを測定したり,バースト度(急速に話題になったキーワード)を測定する技術などを研究し,サービス化している。

口コミの影響力は長年言われてきたことであるが,計測も難しく,影響があるだろうと言われるに過ぎなかったが,デジタルコミュニケーションの発達により確実に捕捉可能なものになりつつある。
我々は企業が提供する商品情報と口コミとしての利用者の感想や噂などを両方入手しながら比較できるようになっている。購買の意志決定には両方の情報を活用しているという調査結果もあり,すでに化粧品や家電製品の分野では@コスメや価格コムは絶大な影響力を持つと言われている。そこで筆者はブログ上で実際にいくつかの商品分野について分析をしてみた(分析手法等については以下を参照:http://www.d4dr.jp/service/06-1.html)
今年の春に発売された緑茶飲料で比較してみるとブログ上に出現したエントリー数をBEP(ブログエントリーポイント)とすると,上海冷茶はCMのタレントの話題についてのBEPが大きいことがわかる。一方の若武者は商品そのものよりも緑茶戦争について語られるている話題の中で登場する傾向が強く,さらにある一週間だけのBEPが大きく,その後はあまり出現していないことがわかる。

図表 飲料「上海冷茶」についてのブログ上での出現推移とその内容

(出所)各種資料よりD4DR社作成
図表 飲料「若武者」についてのブログ上での出現推移とその内容

(出所)各種資料よりD4DR社作成

こうした違いは商品そのものの魅力や広告やプロモーションの仕方による違いだと思うが,今後はこのようにインターネット上の口コミにどれくらい影響を与えるがひとつの広告効果の測定方法になることも予想される。また激烈なシェア争いをしているデジカメの分野でブログのエントリーでシェアを比べると実際のシェアと近いシェアが見て取れ,さらにブログ上のシェアはPOSの販売シェアの変化を予想させる兆候も感じ取れる。


図表 デジタルカメラ3社のPOSのシェアとバイラルシェア(ブログエントリー数によるもの)の比較

(出所)各種資料よりD4DR社作成


このように,口コミが可視化できるようになった今,これまでのフローで消えるプロモーションと異なり,インターネット上にブランドのポジティブな情報のストックを残すことがこれからの宣伝戦略としてはとても重要になると考えられ,戦略的に口コミをネット上にどう出現させ,残していくことが重要になる。長い時間をかけて築いたブランド力というのは,一定の力を持つが,定番商品や企業ブランドはそんな簡単に作れるものではなく,多くの企業は大量の新製品の中から1000にひとつぐらいでも定番商品が生まれればよいと願いながら,たちまち消えていく,短いライフサイクルの中でもがいているのが現状である。しかし,インターネット上の口コミはこうした現状に新しい可能性を与える。大量のマス投入とコンビニの棚割を確保するところに力を入れていたマーケティングが,自社商品の本当に伝えたい思いや,開発者の理念,利用者の新しい利用シーン発見などを伝搬させることで,ライフサイクルを長くすることに貢献できる可能性が見えてきたと言えるのではないだろうか。シェアも販売シェアをだけを競う世界からネット上の口コミ量のシェアである「バイラルシェア」を高めていくことが重要になると思われる。まだまだ統計的には未知の部分が多い世界ではあるが,デジタル化された口コミは確実に企業の商品開発や広告宣伝の世界を変革させていくことは間違いないことを予感させる。

0 件のコメント:

コメントを投稿