藤元健太郎のフロントライン・ドット・ジェーピー

2001年2月26日月曜日

砂漠で売る砂

(2001年2月、米国版「Wired」の日本版「Hotwired Japan」で掲載されたコンテンツを編集しました)


米国ではドットコム企業の倒産が加速しており,失業者の職探しパーティが盛んらしい。ついこの間まで今度はあそこがIPOでいくら儲けたなどと話しをしていた人々が,現在では慰め合いをしている姿の変わりようも激しいが,インターネットが絡んでいるだけで,多くのビジネスモデルに資金が投下され,その多くが会員獲得などのブランド獲得に投じられ,収益をあげることを2の次にした結果,バブルがはじけた後は,結局資金が底をつき,売却,解散というケースが多い。基本的には経営戦略の失敗と片づけられるのかもしれないが,あまりにもこのつまらないパターンで消えていく会社が多いのも悲しいことである。戦術的には面白い会社も多数あったのではないかと考えられ,そうした会社の貴重な資産は是非とも継承していくべきであろう。実際業務停止をした会社の中に「ガーデンドットコム社」がある。ガーデニングの様々な商品をインターネットで販売するという,ごく普通のドットコム系ではあるが,毎日定期的に花の専門家がライブチャットで解説をしてくれるサービスが好評だった。実際このチャットの直後は売上がかなり増加するという実績をあげていた。
インターネットは確かに24時間いつでも好きな商品を比較し,購入することができる。確かに価格も安いものが多いし,便利な人には便利である。しかし,あなたが価格.comでパソコンの価格を調べている時にはすでに,あなたの中にはかなりの「パソコンが欲しい」欲望が目覚めた状態にある。それはあたかも「砂漠の中で水を購入する」ことに近い,水は欲しいものであり,後はいかに少しでも安く,いい水を手に入れるかを考えているわけである。しかし,商売の多くは「砂漠の中で砂を売る」必要がある。つまり欲しいと思っていなくても,必要性に気づいてしまったり,欲望が喚起されてしまうことで,購買するケースも多い。砂漠に溢れている砂でも,その砂が自分のあこがれの人が持っている砂と同じだったら?その砂を作った人の生き方がとてもかっこよくて感動してしまったら?あなたは砂を買ってしまうかもしれない。ガーデンドットコム社のこの手法は専門家が教えてくれることで,自分のガーデニングレベルの向上させようという意欲と,周りに同じように志すライバルがいることにも気づかせてくれるという欲望喚起効果があると推察できる。こうしたライブチャットなどの手法は現在では他の様々なサイトでも応用されており,ただのカタログであるWebサイトにアクセスした人がふと立ち止まって思わず見学していて,自分も気になることを質問してみたら,思わず問題が解決して商品を欲しくなってしまうという効果などをもたらしている。
まだまだ我々はサイバースペースにおける本当の意味で人間の欲望や購買意欲を喚起するノウハウやテクニックを持ち合わせていない。Webの世界は安さを強調する膨大なカタログ情報の海である。しかし,コミュニケーションがデジタル情報になる中で,人間の欲望を喚起する様々なテクニックやノウハウがナレッジとして「コミュニケーションテクノロジー」として開発されていくことで,多くの人々がエレクトロニックコマースで消費を喚起することを実現するのではないだろうか。がまの油売りやバナナのたたき売りなどの古典的手法から巨大流通チェーンが用いている手法まで,人間はこれまで「砂漠で砂を売る」ことを一生懸命考えてきた。時空を越えるこのインタラクティブな販売方法の世界では,その可能性も無限大にあり,大きなビジネスチャンスが眠っていると考えているのは私だけでは無いと思う。

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